記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/9/5
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
夏血栓とは、文字通り夏に起こりやすくなる血栓症のことで、熱中症と比べるとあまり耳慣れない言葉かもしれません。しかし、その症状は熱中症と似ていることも多く、放っておくと脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な疾患に進行する危険性もありますので、注意が必要です。
そこで、この記事では夏血栓の症状や、熱中症との違いをご紹介します。正しい知識を身につけ、重篤な疾患に進行する前に対処しましょう。
夏血栓とは、夏に起こりやすい血栓症(脳梗塞・心筋梗塞・肺塞栓症など)の総称であり、正式な医学用語ではありません。冬の血栓症が主に寒暖差で血管が急激に収縮することで起こるのに対し、夏の血栓症は脱水症状で血液の濃度があがることが主な原因とされています。初期症状としては倦怠感・頭痛・めまいなど熱中症に似た症状が現れますが、進行すると脳梗塞で手足のしびれ、心筋梗塞で胸の痛み、肺塞栓症で呼吸困難などの症状が現れることもあります。
このように、進行しないと重篤な疾患かどうかわからないのですが、手足のしびれや胸の痛みが出てしまった状態では、既に一刻を争う事態にまで進行してしまっていることも少なくありません。ですから、倦怠感や頭痛の時点で熱中症だと決めつけて油断せず、早めに医療機関で診察を受けましょう。
上記でご説明したように、夏血栓と熱中症は症状が似ています。熱中症は気温の高い環境に長くいることで体温調節がうまくいかなくなったり、発汗で体内の水分・塩分などのバランスが崩れたりすることで起こる体調不良です。夏血栓は、発汗によって体から水分が失われ、血液中の水分も減少して血液の濃度が上がり、血液がドロドロになることで血のかたまり(血栓)ができ、血管をふさいで血液の流れを止めてしまうことで起こるさまざまな疾患です。
症状としては、いずれもめまい・失神・嘔吐などが現れます。熱中症の場合、水分や塩分の補給を行ったり、涼しい日陰でしばらく休憩していれば症状は回復しますが、夏血栓が起こってしまった場合は単に水分を補給しただけでは血栓を溶かせませんので、できるだけ早く医療機関で投薬治療や手術療法などを行うことが必要です。
とくに、夏血栓の中でも「一過性脳虚血発作」という状態は、熱中症と症状が非常によく似ているにも関わらず、放置していると脳梗塞のおそれがある深刻な疾患です。脳の一部の血管に血栓が詰まって流れが悪くなるため、半身の手足のしびれ・顔の筋肉の半分が動かなくなったり麻痺する・ろれつが回らなくなる・片方の目が見えなくなる、といった症状が見られます。いずれも体の片側だけに症状が起こるのが特徴です。
一過性脳虚血発作が怖いのは、数分~数十分(遅くとも24時間以内)に血栓が取れて血液の流れが元に戻り、麻痺などの症状が完全に消えてしまうところです。症状が治ったことでやっぱり熱中症だった、休んで体調が良くなったから大丈夫、と思い込んでしまいやすいのです。しかし、血栓は一時的に取れただけであり、その後、体内のどこかに詰まるリスクは依然として残っている危険な状態に変わりはありません。
この「一過性脳虚血発作」は、すぐに医療機関で適切な治療を受ければ多くは重篤な状態に進行しませんが、放置してしまうと3ヶ月以内に15~20%の患者さんが脳梗塞を発症し、さらにそのうち半数(7~10%)の患者さんは数日以内、早ければ48時間以内に脳梗塞を発症してしまうことがわかっています。
体の片側だけがしびれる、顔の筋肉がおかしい、ろれつが回らない、など、一過性脳虚血発作が疑われる症状が見られた場合は、早めに病院で検査を受けましょう。
一過性脳虚血発作を含む夏血栓は、血液がドロドロになって血栓ができ、血管が詰まることで起こります。つまり、血管が日頃から詰まりやすい人ほど発症のリスクが高いと言えるのです。具体的には、以下のような動脈硬化のリスクを抱えている人はとくに注意が必要です。
これまでご説明してきたことから、夏血栓を防ぐには体内の水分が急激に減少するのを防ぎ、血液がドロドロにならないようにすれば良い、ということがわかります。まずは、こまめな水分補給を心がけるとともに、以下のような点に注意しましょう。
さらに、夏場は仕事帰りや自宅、お祭りやバーベキューなどで冷えたビールやチューハイを飲む、といったように飲酒の機会も増えます。飲酒は一見、水分をたくさん摂取しているように思うのですが、アルコールの利尿作用によってもともと体内にあった水分も一緒に、飲んだ分以上に排出されてしまうのです。
ですから、アルコールを飲むときは、そもそも飲みすぎないように注意するとともに、最後にミネラルウォーターなどの真水を1〜2杯飲んでおく習慣をつけましょう。このときの水は、同じように利尿作用のあるカフェインを含むコーヒーや緑茶で摂取してはいけません。
また、動脈硬化につながるような生活習慣もリスク因子の一つですから、日頃から以下のような生活習慣を身につけておくと良いでしょう。
デスクワークなど同じ姿勢でずっと過ごすことが多い仕事の場合、血流が悪くなるのを防ぐため、1~2時間に一度、手足を動かして血流を促しましょう。
夏血栓は、熱中症と同じように初期にはめまい・頭痛・失神・嘔吐・倦怠感などの症状が現れます。しかし、熱中症の場合は水分・塩分を補給して日陰などで十分に休息すればとくに後遺症もなく完治するのに対し、夏血栓は放置していると脳梗塞などの生命にかかわる疾患を引き起こす危険性があります。
体の片側だけの麻痺やしびれなど、夏血栓に特徴的な症状が見られた場合は、早めに医療機関で検査を受けましょう。