記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/8/9
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
夏に起こりやすい体調不良としては、よく熱中症が挙げられ、注意するようにテレビや雑誌、インターネットなどでも取り上げられます。しかし、夏は熱中症で全身に負担がかかるだけでなく、心臓にも大きな負担がかかることを知っていますか?
夏に心臓に大きな負担がかかる理由とその予防法を知り、心臓や血管系の大きな病気にかかるリスクを減らしましょう。
夏の暑さは、体に対して体温上昇や脱水といった負担をかけます。過度に体温が上がると全身の各種臓器にも負担がかかりますので、体は体温を下げようと血液をどんどん循環させて熱を発散しようとします。すると、血液循環を司る心臓にも大きな負担がかかってしまいます。さらに、血液循環を促進して心拍数が上がると、狭心症や心筋梗塞などの「虚血性心疾患」と呼ばれる心疾患が悪化しやすくなり、不整脈も誘発されやすくなることがわかっています。
また、夏の暑さで大量に発汗して体内の水分が失われると、血液の水分も減って血栓ができやすくなり、血管が詰まる「血栓症」という疾患を引き起こしやすくなります。血栓症が心臓で起こる場合、心筋梗塞などが代表的な疾患です。
狭心症とは、ざっくり言えば心臓の筋肉が一時的な酸欠状態(虚血)に陥ることです。心臓も筋肉でできていますので、体の他の部分の筋肉と同様、動くためには酸素や栄養分が必要です。この酸素や栄養分を運んでくれる血液が通る血管が「冠動脈」というものですが、この冠動脈が何らかの原因でけいれんしたり、アテローム性動脈硬化などが起こった場合、体を動かしたときに十分な酸素や栄養分を送り込めず、狭心症が起こるというわけなのです。
アテロームとは脂肪性物質の沈着物のことを言います。これは、血中に増えた悪玉コレステロール(LDL)が加齢などによって傷ついた血管の壁に入り込み、そのLDLが酸化され、マクロファージ(免疫細胞)によって貪食され、やがて壊れて内膜内にコレステロールの塊を作ったものです。この血管の状態を「アテローム性動脈硬化」と呼びます。
狭心症は症状の出かたによって「安定狭心症」と「不安定狭心症」に分けられ、「安定狭心症」の場合は「走ると症状が出る」「力仕事をすると症状が出る」などのように症状が出るパターンが決まっているものを言い、生活指導と投薬治療によってある程度上手に付き合っていけます。
一方、「不安定狭心症」は「走っていなくても症状が出るようになった」「軽い力仕事でも症状が出るようになった」など、新しい症状が次々と出てくるもので、心筋梗塞一歩手前の状態と言われています。
心筋梗塞とは、心臓の筋肉が酸素不足によって壊死し、心臓がうまく働かなくなってしまう疾患です。狭心症の項目でもご紹介したように、心臓も筋肉なので、冠動脈から流れる血液によって酸素や栄養分を取り入れて動いています。ところが、冠動脈のアテローム(アテローム性動脈硬化)を放置していると、やがてアテロームを覆う膜が破れ、そこに血液中の血小板が一気に集まります。血小板は血液を固める作用がありますので、血栓が生じ、冠動脈をふさいでしまうのです。
狭心症や心筋梗塞が起こると、数分~数十分も続く胸の痛みが生じます。胸だけでなくあご・喉・左肩・腕など、心臓と関係のなさそうな部分が痛むこともあります。心筋細胞の壊死は、血流が止まるとともに痛みが生じはじめてから約20分程度で始まると言われていますが、その間もずっと「焼け火箸で刺されたような」「石で胸を潰されたような」と形容されるほどの激しい痛みが続きます。狭心症の場合は安静にするとおさまりますが、心筋梗塞の場合は安静にしてもおさまらない点で異なります。
壊死した細胞は二度と元には戻りませんので、このような激しい痛みが生じた場合、一刻も早く医療機関で処置を受ける必要があります。
心臓は、正常な状態では1分間に50~100回程度の一定のリズムで心臓の筋肉を動かし、血液を送り出しています。これを拍動と呼んでいますが、拍動が加齢や高血圧など、何らかの原因によって乱れてしまった状態は「不整脈」と呼ばれています。夏に特徴的な不整脈というものがあるわけではありませんが、最初にご紹介したように、夏は心臓に負担がかかりやすい季節ですから、もともと不整脈を抱えている人やその兆候があった人の症状が悪化することはあります。
不整脈の中でも近年増えてきているのが、拍動のリズムが早くなる「心房細動」というものです。心房細動が起こると、脈の乱れ・動悸・息切れ・血圧低下などの症状が現れます。また、心房細動を放置していると、脳梗塞や心不全につながるおそれもあります。
とくに、夏は大量の発汗によって体内の水分やミネラルが失われやすく、血液がどろどろになりやすい季節です。すると、心臓や血管内で血栓ができやすく、できた血栓が脳に詰まると脳梗塞に、心臓の冠動脈に詰まれば心筋梗塞になる危険性があるのです。
夏の高温多湿、炎天下でのスポーツは想像以上に体や心臓に大きな負担をかけてしまいます。普段から不整脈や心電図の異常を指摘されている人は、炎天下の屋外で活動する際には十分に注意しましょう。
以上のことから、夏の心臓トラブルは主に「発汗による脱水傾向」から生じると言えそうです。ですから、夏の心臓トラブルを防ぐためには、脱水状態を防ぎ、心臓への負担を減らすことが有効だと考えられます。炎天下での活動やスポーツの際に十分な水分補給をするのはもちろんですが、屋内でも気づかないうちにじわじわと発汗していることが少なくありません。ぜひ、こまめに水分補給を行いましょう。
また、水分補給はできるだけ真水(水道水、ミネラルウォーターなど)で行いましょう。コーヒーや緑茶などは糖分や脂質も含まれないため、一見良さそうに見えるのですが、これらはカフェインが多く、利尿作用があります。つまり、もともと体内にあった水分もどんどん排出させてしまう危険性があり、夏の発汗に対する水分補給としてはあまり有効ではありません。
さらに、肥満・高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙習慣など、生活習慣病またはその傾向がある場合、心筋梗塞のリスク因子となります。これらの傾向にある人は、水分補給をすることはもちろん、できるだけ生活習慣の改善を心がけましょう。具体的には、以下のようなことを少しずつ始めていきましょう。
夏に起こる心筋梗塞は、ここ10年~20年程度でどんどん若年化し、今や30~40代ぐらいの若い世代でも発症して緊急搬送に至ることも少なくありません。しかも、こうした若い世代の患者さんの場合、心筋梗塞のリスク因子である動脈硬化や生活習慣病などがさほど進行していなくても、突如として血栓が生じて発症するというケースが比較的多く見られるようになってきているのです。
こうした突如として発症する心筋梗塞の原因として、冠動脈が少しだけ傷ついた「びらん」という状態から血栓ができ、一気に心筋梗塞に発展するというケースがあることがわかってきました。とくに、夏場は脱水状態になりやすく、したがって血中からも水分が失われ、血栓ができやすくなります。熱中症予防だけではなく、こうした心血管系の疾患を予防するためにも、ぜひこまめに水分補給を行いましょう。
夏は大量に発汗して脱水症状を引き起こしやすい季節ですが、この脱水は熱中症を招くだけでなく、血中の水分を失って血栓ができやすくなり、体の各部分の血管を詰まらせるリスクがあります。中でも、体温を下げようと血液循環を促すために負担がかかる心臓には、血栓が詰まりやすくなります。
ですから、心疾患のリスクを下げるためにも、こまめに水分補給を行いましょう。生活習慣病のリスクがある人は、生活習慣の改善も有効です。