前立腺癌

2017/3/17

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

概要

前立腺がんとは、前立腺で異常細胞が増殖したもので、男性の癌で最も一般的なタイプの1つです。ほとんどの症例ではゆっくり増殖しますが、まれに侵攻性(癌が急速に成長し、転移する可能性がある)のケースもあります。

症状

次のいずれかの症状がある場合は、医師にご相談ください。

・排尿開始の難しさ
・尿流の力が弱い
・排尿を終えた後「あと垂れ」する
・特に夜間に頻繁に排尿する必要性
・排尿中の痛み
・尿や精液中の血液
・勃起を開始または維持するのが困
・射精による痛み
・腰や臀部、骨盤、上半身の痛みや腰痛
・意図しない体重減少、食欲不振

原因

正確な理由は不明ですが、特定の要因が発症のリスクを高める可能性があると考えられています。

リスク要因には、以下があります。

・高齢:どの年齢の男性も罹患の可能性がありますが、65歳以上の男性が最も発症しやすいです(前立腺癌の65%以上)。
・家族歴:前立腺癌の父や兄がいる男性は、自身も発症するリスクを有しています。
・肥満:前立腺癌と診断された肥満男性は進行性または侵攻的な癌を有している可能性があります。

診断

前立腺癌スクリーニングについて

前立腺癌のスクリーニングは、発症前に前立腺癌を探すための検査です。

検査には、以下のタイプがあります。

・直腸指診(DRE):前立腺を触診できるよう、直腸に潤滑指を数インチ入れます。前立腺に硬い部分がある場合、追加検査を行うことがあります。
・前立腺特異抗原(PSA)試験:血液中のPSAのレベルを測定する血液検査です。PSAは前立腺で産生される物質で、通常は少量が検出されますが、
・癌細胞は多くのPSAを産生するため、前立腺癌の男性は高レベルのPSAを有する可能性があります。ただ、感染や前立腺肥大のような深刻度の低い原因によっても、PSAレベルが高くなることがあります。

PSA検査の長所と短所

・PSA検査のメリット
PSA検査では前立腺癌を早期に発見できるため、急速に増殖する腫瘍の場合は非常に有用です(癌が検出された時点で前立腺の外に広がっていない場合)。 癌は早期に発見された場合、治癒の可能性が高くなります。

・PSA検査のデメリット
大半の前立腺癌は増殖が遅く、ほぼ症状がないため治療を必要としません。 しかし、検査で癌とわかった男性の90%は治療を受けることになり、その多くは尿失禁や勃起不全などの長期的な副作用を経験したり重篤な合併症を経験したりします。手術を受ける1,000人の男性のうち、最大5人が合併症で死亡します。

さらに、PSA検査の結果は必ずしも正確ではなく、検査結果の約80%が偽陽性であると示している研究もあります。偽陽性の検査結果は、不必要な検査や検査の副作用を招き、患者とその家族の心労につながる恐れがあります。

前立腺癌検診を受けることを考えている場合は、医師に相談してください。 スクリーニングのメリット・デメリット、あなたの健康とリスク要因、診断と治療への希望、医師の意見とアドバイスを考慮してください。

スクリーニング検査の結果が異常な場合

実際に癌があるか判断するため、以下の検査の実施を推奨します。

超音波検査:経直腸超音波で前立腺の画像を撮影します。検査中は小さなプローブ(超音波を発信する機械)を直腸に当て、コンピュータを通じて前立腺の画像を作成します。

生検:経直腸生検は、前立腺のごく一部を切り取る癌細胞の検査で、確実な前立腺癌診断法といわれています。生検では、直腸と前立腺に針を挿入し組織を採取します。複数の箇所から組織サンプルを採取することもあります。

生検が正常の場合

生検が正常であれば、前立腺癌はありません。別の病気によって症状や高いPSAレベルを引き起こした可能性がないか、医師に相談してください。どのくらいの頻度で検査を受けるべきかも尋ねてみてください。

生検で癌が陽性の場合

次に癌のグレーディングとステージングを行います。

・グレーディング:癌がどれくらい速く増殖するかを示します。高グレードの癌ほど、急激に増殖・拡大します。評価システムはグリーソンスコアと呼ばれ、範囲は2(ほぼ増殖しない)から10(非常に速く増殖する)までです。

・ステージング:癌がどれくらい進行しているかを示します。判断は、超音波、骨スキャン、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、磁気共鳴イメージング(MRI)などの画像検査を通じて行われます。ステージIとステージIIは、癌が早期に発見され、前立腺の外側に広がっていないことを意味し、ステージIIIおよびステージIVは、癌が近くの組織、器官やほかの部分に転移したことを意味します。

治療

前立腺癌の治療は、齢、全身の健康状態、癌のグレードとステージによって異なります。 前立腺癌の場合は、癌の増殖を注意深く観察することが非常に重要です。 急速に増殖する腫瘍は、ほかの臓器に急速に転移することがあり、治療がより困難になります。腫瘍の成長が遅い人は長期間治療を必要としなかったり、治療自体が必要ない場合もあります。

一般的な治療の選択肢は次の通りです。

・注意深い観察
・放射線療法
・根治的前立腺切除
・ホルモン療法
・化学療法

医師が定期的にフォローアップ血液検査、直腸検査、生検を行い、癌の発症をチェックします。 癌が進行している兆候がない場合、治療せずに経過観察を続けます。

放射線療法について

放射線療法は2種類あります。 外部放射線療法ではX線装置のような機械から放射線が照射され、内部放射線療法(シード療法、小線源療法とも呼ばれます)では放射性ペレットが前立腺に注入されます。 両者の前立腺癌の治療効果はほぼ同等で、場合によっては一緒に用いられることもあります。

外部照射療法は通常約10分かかり、6〜8週間にわたって週5日照射します。麻酔なしで行え、副作用は内部放射線療法よりも軽度です。

内部放射線療法は、たった一度の通院で済みます。数分間麻酔をかける必要がありますが、治療後すぐに帰宅できます。多くの放射線を癌に当てることができますが、治療後、強い不快感を感じるかもしれません。

根治的前立腺切除について

根治的前立腺切除は前立腺全体および近くのリンパ節を取り除く手術です。 前立腺を切開部から取り出した後、カテーテルを陰茎に通して膀胱内に入れ、患部が治癒するまで尿を体外に運び出します。

ほかのタイプの前立腺手術

前立腺手術は何種類もあります。侵襲性が低いものもあり、種類ごとにリスクと回復速度が異なります。麻酔は全身麻酔や、脊椎からの神経経路をブロックし、その領域を麻痺させる硬膜外麻酔や脊髄麻酔から選べます。

ホルモン療法の目的、リスクやメリット

目的は、睾丸で産生され前立腺腫瘍を成長させるアンドロゲンという男性ホルモンのレベルを低下させることです。注射や丸薬を数ヶ月にわたって投与したり、睾丸を除去することでアンドロゲンが排出されると、癌は縮小し、成長が遅くなります。 この療法はほかの治療と組み合わせられることが多いです。

副作用として、性行為の喪失、骨の弱化、勃起不全、疲労、骨粗鬆症などがあります。

メリットは、前立腺を越えて拡大した癌患者に使用できる点です。通常1〜2年間はホルモン療法が有効と考えられていますが、期間を過ぎると現在の治療法では治癒しません。 しかし近年の結果は、化学療法が有効という結果も出ています。

前立腺癌治療後のフォローアップPSA血液検査、その他の検査が必要な頻度については、医師に相談してください。

一般的な前立腺癌治療のリスクとメリット

代表的なリスクは失禁とインポテンツですが、ほとんどの場合は時間の経過とともに改善されます。幸い、手術後に重度の失禁がある男性は非常に少ないです。また外科医が神経の切断を回避できれば、インポテンツの可能性は低くなります。ただし、腫瘍が大きい場合、手術が困難になる可能性もあります。

若く健康な場合は短期のリスクは低いです。入院は通常2〜3日で、カテーテルは2〜3週間はそのままにします。一般的には約1ヶ月で仕事に戻ることができ、手術での重度の痛みはほぼありません。 大半は、手術後数週間から数ヶ月で回復します。

主なメリットは、手術中にすべての癌が取り除かれれば、おそらく治癒する点と、近くのリンパ節を腫瘍とともに取り出すことで癌の進行の正確な情報を把握できる点です。

年齢や性機能のレベルも重要で、実際に手術を受けた50歳未満の人は性機能を回復する可能性が高いです。70歳以上の場合は、性機能を失う可能性が高くなります。ただ神経が切断されても、陰茎とオルガズムの感覚は正常なままです。勃起能力だけが失われますが、補助薬や器具もあります。

また手術中に大量出血することがあります。 手術前に、輸血用に自分の血液を約2ユニット保存することをお勧めします。

放射線療法のリスクとメリット

研究では、治療後5年以内に約半数の患者がインポテンツになり、最新の放射線の場合は異なる副作用をもたらす可能性があるとされています。

多くの男性は治療後に強い倦怠感を感じ、約15%~30%は治療中や治療直後に排尿時灼熱感、尿の出血、頻尿、直腸出血、直腸不快感、下痢などの副作用があります。インポテンツは一般的な副作用ですが、時間とともに悪化することがあります。

深刻な合併症はまれですが、場合によっては起こります。放射線治療後数年後に再発する可能性があります。

治療10年後の治癒率は、放射線療法と根治的前立腺切除術とはほぼ同じです。

・医師に相談するための質問
・前立腺癌のスクリーニングはいつ始めるべきですか?
・排尿問題を起こし始めたら、前立腺癌の検査を受けるべきですか?
・父は前立腺癌でした。遺伝の可能性は高いですか?
・前立腺癌において経過観察は有効ですか?
・経過観察を選択した場合、どのくらいの頻度で検査すべきですか?
・前立腺癌への最良の治療法は何ですか?
・前立腺手術後、正常にセックスライフを送れますか?
・前立腺手術後は排尿に障害が出ますか?
・治療はどれくらいの期間続くでしょうか?

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