多発性硬化症(MS)

2017/4/5 記事改定日: 2017/9/2
記事改定回数:4回

山本 康博 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 呼吸器内科医

山本 康博 先生

二宮 英樹 先生

記事監修医師

東大医学部卒、セレオ八王子メディカルクリニック

二宮 英樹 先生

概要

多発性硬化症(MS)は、神経系に影響を及ぼす自己免疫疾患です。通常、免疫系によって産生される抗体は、ウイルスや細菌から身体を保護しますが、MS患者の場合、免疫系が神経細胞を取り囲んで保護する物質(ミエリン鞘)を破壊します。
一般的に、脳は脊髄を介して信号を迅速に送信し、その後、全ての臓器や身体部分に分岐する神経を介して送信します。しかし、神経周囲のミエリンが損傷・破壊されていると、神経は適切に信号を送れません。これは身体全体に症状を引き起こす可能性があります。

症状

MSは正常な感覚、思考および運動に影響します。症状は、ミエリン鞘が損傷している領域や個人によって異なり、症状は出たり消えたりすることがあります。発作は数日、数週間または数ヵ月続き、 その後しばらく消えるかもしれませんが、瘢痕(ルビ)がその領域の神経を形成し永久に影響を与える可能性があります。一般的な症状は次のとおりです。
・物が二重に見える、ぼやけ、部分的な色盲、眼の痛み、片眼が見えにくい(あるいは失明する)など視力の問題
・思考と記憶の問題(もの忘れ)
・手足の感覚がにぶくなる
・手足が動かしづらくなる
・めまい、ふらつき
・便秘、排尿の異常(尿の回数が増える、残尿感)
・首を前に傾けると電気ショックのようにしびれる
・手足の筋肉が勝手に動き、痛くなる(有痛性けいれん)
・勃起障害(ED)

多発性硬化症の種類

最も一般的な多発性硬化症は、何回か再発したり、良くなるのを繰り返します。再発の回数は人によって違います。年に数回ある人もいれば、数年に一回の一もいます。一部の患者では、再発を繰り返すうちに症状が進行していきます。

眼の症状が強いタイプは、「視神経脊髄炎(NMO)」と呼ばれています。以前は多発性硬化症の一部と考えられていましたが、現在は多発性硬化症とは別の種類であるという考えが主流になってきています。

原因

多発性硬化症の原因は明らかになっていませんが、環境、ウイルス、遺伝要因が組み合わさった自己免疫疾患だと考えられています。

概要でも簡単に説明しましたが、通常免疫(例えば抗体)は細菌やウイルスといった外敵を攻撃しますが、自己免疫疾患では何らかの原因で自分の身体を攻撃することで、症状があらわれます。多発性硬化症の場合は、神経細胞を守っているミエリン鞘が攻撃され、破壊されます。

自己免疫疾患では原因である抗体が特定されていることもあるのですが、多発性硬化症では特定の抗体は明らかになっていません。一方で視神経脊髄炎(NMO)では、抗アクアポリン4抗体が原因と考えられています。

多発性硬化症にかかるのはどんな人?

男性よりも女性に多いです。多発性硬化症を発症する年齢として、最も多いのは20~40歳での発症です。日本ではまれな病気で、全体で約1万人程度の患者がいると考えられています。多発性硬化症は、高緯度地方で多い傾向にあります。原因となる環境因子として、緯度、日照時間、ビタミンDの摂取量、EBウイルス感染が関係していると考えられています。

多発性硬化症は遺伝するの?

親が多発性硬化症でも、子どもに遺伝するわけではありません。しかし遺伝子異常は関係しているため、多発性硬化症の患者家族では、多発性硬化症を発症するリスクが上がる可能性はありえます。

診断

多発性硬化症の診断は、MRI検査、髄液検査、血液検査、誘発電位検査など様々な診察、検査を行った上でなされます。
多発性硬化症の最初の兆候は、ぼやけや物が二重に見えるなど視力に関することが多いです。身体のいろんな部位で、様々な症状があらわれます。 多発性硬化症を診断する上では、多発性硬化症の病気ではないことを調べていくことも大切です。

血液検査

血液は、MSと同様の症状を引き起こすほかの病気の兆候を示す可能性があります。

神経学的検査

神経系がどれくらい機能しているか、神経科内科医が診断することがあります。検査では、眼の動き、筋肉の協調、衰弱、バランス、感覚、発声、反射の変化を調べます。

髄液検査(腰椎穿刺)

背骨から採取された少量の液体により、MSに関連する異常な量の血球、タンパク質が発覚することがあります。脊髄穿刺で、ウイルス感染やほかの病気の可能性を除外することもできます。

磁気共鳴画像(MRI)

MRIは、脳や脊髄の詳細な画像を表示し、病変を明らかにします。ただし、病変は必ずしもMSによって引き起こされるわけではありません。

治療

多発性硬化症の治療には、「急性期の治療」(症状が強いときの治療)と「再発予防のための治療」があります。「急性期の治療」として、早く治すためにステロイドパルス療法などの強い治療を行い、症状がある程度改善した後は「再発予防のための治療」を行うイメージです。

また人によって様々な症状があらわれるので、それぞれの症状に対する「対症療法」も行われます。

多発性硬化症の急性期の治療

強い症状が出ている急性期には、副腎皮質ホルモン(ステロイド)を使った治療が行われます。短期間(数日間)に大量のステロイドを投与する治療法で、ステロイドパルス療法と呼ばれます。

その他に血液浄化療法が行われることもあります。

またステロイドパルス療法の後に、ステロイドの内服薬を続ける場合でも、2週間以内を目安として続けることが多くなってきています。

多発性硬化症の再発予防のための治療

インターフェロン注射薬(ベタフェロン®、アボネックス®)が使われます。フィンゴリモド(イムセラ®、ジレニア®)が使われます。

これらの薬が効かない場合には、ナタリズマブ(タイサブリ®)という点滴薬が使われることがあります。

多発性硬化症の各症状に対する対症療法

多発性硬化症では、様々な症状があらわれます。それぞれの症状に対して、下記のような薬が使われることがあります。
・膀胱の問題:
トルテロジン、オキシブチニンを服用します。
・便秘:
便軟化剤、下剤を服用します。
・うつ病:
ベンラファキシン、パロキセチンを服用します。
・勃起障害:
タダラフィル、アルプロスタジルを服用します。
・痛み:
フェニトイン、ガバペンチンを服用します。
・筋肉の硬直と痙攣:
ダントロレン、バクロフェンを服用します。
・尿の問題:
デスモプレシン、メテナミン、フェナゾピリジンを服用します。

 

 

 

他の治療法

ほかの治療法も、MS患者の一部に有用です。一般的な治療法の例は以下のとおりです。
・理学療法(PT)
歩行、強さ、バランス、姿勢、疲労や痛みを改善します。 PTには、ストレッチ運動や、杖・スクーター・車椅子などの移動補助装置を使用するトレーニングが含まれます。理学療法士のサポートがあれば、症状に合わせて運動内容を適応可能です。
・作業療法(OT)
OTの目標は、家庭や職場での自立と安全レベルの向上です。作業療法士の助けがあれば、仕事や生活をよりスムーズにするために、生活空間や作業空間を快適なものへ変えることもできます。また、あなたが趣味に没頭できるよう、サポートしてくれるでしょう。
・言語療法
MSは、話すときや嚥下するための筋肉の制御に問題を引き起こす可能性があります。言語療法士は、できるだけ明確な会話や安全な嚥下を実践するようサポートしてくれます。
できるだけ健康な状態に保つにはどうすればいいですか?
MSと一緒に生きる場合、生活習慣の変化が必要になることがあります。生活習慣の変化は、あなたの健康維持につながります。以下の方法を参考にしてください。
・栄養
脂肪が少なく、繊維が多い、また栄養価が高く、バランスの取れた食事をとる。健康的な食事は免疫力を強くし、健康的な生活に近づけます。
・運動
医師の許可があれば、運動を続けてください。運動は筋力や筋肉の状態、バランスと運動神経の改善に効果的です。ストレッチは、ゆがみ防止や動きやすさにもつながり、気分を上げるのにも有効です。
・休息
十分な運動だけでなく、十分な休息も重要です。MS患者は疲れやすくなっています。休息のために、仕事や家族のスケジュールを調整してみてください。
・温度
多発性硬化症の患者の場合、温度が高すぎるとしびれなどの症状の増悪につながるため、温泉やサウナ、シャワーでは注意が必要です。冷たい風呂や空調にするのもいいかもしれません。
・サポート
友人、家族、地域社会、サポートグループ、医師や医療従事者からのサポートを受けてください。周りからの励ましは多発性硬化症と共に生きる上で役立ちます。 可能な限り普通の生活を維持し、楽しむことを続けてください。

多発性硬化症を抱えながら生きるということ

多発性硬化症のような慢性的な病気と共に生きることは、身体的・精神的な負担も大きいかと思います。仕事、家族、睡眠、食事、運動能力への影響は大きく、その時々の精神状態や気分にも関係します。負担が大きい時は、主治医などの専門家に相談し、サポートを得られるようにしてください。

医師に相談するための質問

・多発性硬化症は家族で遺伝しますか?私には遺伝の可能性がありますか?
・多発性硬化症と診断されています。 再発を予防し、症状が悪化するのを防ぐために何ができますか?
・自分は多発性硬化症でしょうか?
・多発性硬化症に対して、どのような治療が行われますか?
・私が服用している薬の副作用にはどのようなものがありますか?
・症状が治っても、薬を飲み続ける必要がありますか?
・再発したかもしれないと思ったとき、どうすればいいですか?

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