認知症の人との接し方のコツは?

2021/3/9

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

少しずつ脳が委縮してできないことが増え、人格が変わったようになるとも言われる認知症は、本人だけでなく周囲で看病をする人たちにとっても辛い病気と言えます。この記事では、認知症の人と接するときのコツや心がけておくと良いことについて、具体的な例を交えながら解説します。

認知症の人と接するときに心がけること

認知症の人と接するとき、本人と周囲の両方が辛くならないようにするためには、以下4つのポイントに気を付けることが大切です。

  1. 認知症状による失敗は「脳の病気だから」と受け入れる
  2. お互いが嫌な気持ちになるのを防ぐためにも、失敗を怒らない
  3. 本人の自信や自己肯定感を守るため、できるだけ生活を変えず仕事を奪わない
  4. 継続的に専門家のサポートを受けられるよう、通院のクセを付けさせる

認知症は病気を自覚しにくく、記憶障害も現れるため、できていたことができなくなったり、怒られていてもその理由を忘れてしまうこともめずらしくありません。上記4つのポイントを念頭に置きながら、認知症の本人の自尊心をできるだけ守るかたちで、かつ自身が苦しくならないように接することが大切です。

具体的な接し方のポイントは?

代表的な認知症状である物忘れ、妄想、見当識障害、人物誤認、徘徊、幻覚、性格変化、問題行動への対処法をご紹介します。

「食事を食べていない、ごはんまだ?」などの物忘れには…

食べたかどうかの事実はともかく、本人に納得してもらえるよう対処するのが正解です。
「いま作っているからね」「手伝ってほしいときに呼ぶから、ちょっと待っていて」などの言葉をかけて、待たせている間に興味を食事から反らしてしまいましょう。

また、どうしても口さみしいようなら本人の好きな果物や軽食を用意して「もうすぐできるから食べて待っていて」と言い、納得させてあげてくださいね。

「財布を盗まれた」などの妄想や妄言

認知症の人は自分でどこかにしまい込んだことを忘れて、「盗まれたに違いない」と思い込むことがよくあります。このような場合、決して「そんなはずない」などと否定せず、「困ったね、一緒に探そうね」と声をかけ、一緒に探しましょう

「今日が何日かわからない」などの見当識障害

自分のいる時間、場所がわからないために不安になり、日付を何度も聞いてしまう見当識障害も、認知症の人によく見られる症状です。「さっきも言ったでしょ!」などと冷たい態度を取ると悲しい想いをさせてしまうので、大きめの日めくりカレンダーなどを用意しておき、一緒に確認しましょう

「知らない人だ、あなたは誰?」などの人物誤認

認知症では新しい記憶から失われていくため、一緒に暮らしている家族の顔がわからず、判別できなくなることもあります。ショックだと思いますが、否定して言い返すと興奮させてしまうため、いったん姿を消すのがおすすめです。本人が落ち着いたら再び現れ「初めまして」「いま帰りました、○○です」などと、挨拶して認識してもらいましょう。

徘徊

時間に余裕があるときは一緒に外出して、本人の気が済むまで一緒に歩いてあげるのが良いでしょう。付き添うのが難しいときは、名前・住所・家族の電話番号を書いた名札や名刺を持たせたり、玄関に鈴をつけるなどして、出入りを把握できるようにするのがおすすめです。

「誰かが狙っている」などの幻覚

幻覚から「狙われている」「誰かいる」など言うとき、本人は非常に怖がっています。
否定するのではなく「私が一緒だから大丈夫」「じゃあ一緒にやっつけてしまいましょう」などと言って、安心させてあげてくださいね。

暴言や暴力をふるうなど、攻撃的な振る舞い

認知症状により人が変わったような暴言や暴力が見られるときは、本人が落ち着くまで1人にしてあげたり、注意を別のことに向けてあげるのが効果的です。家族からすると、そのような本人の姿は辛く、受け入れがたいと思いますが、必要に応じて医師や介護士などの専門家に相談しながら対応しましょう。

失禁や不潔行為などの問題行動

問題行動の一部は本人が失禁や排泄の失敗を恥ずかしく思い、隠そうとするために起こると考えられているため、叱責するのは良くありません。失禁や不潔行為への対応には「こっちの方が気持ちいいから」と説明するなど、本人の失敗を恥じる気持ちを踏みにじらないような工夫が必要です。また、その人の生活リズムがある程度把握できているようでしたら、いつも排泄している時間に一緒にトイレに行って尿や便の排泄をサポートしましょう。

おわりに:認知症状を受け入れ、いまの本人を否定しないように接しましょう

認知症になると、脳機能の低下によりできていたことができなくなったり、別人のように感じられるようなことも出てきます。家族や周囲の人にとって、このような状態を見るのは辛いでしょう。しかし認知症状のある現在のその人を受け入れ、対応することで、認知症介護による本人と周囲の辛さは少なくなります。お互いの自尊心を守ることを念頭に置きながら接しましょう。

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