《フィクション》転職する?しない?葛藤するアラサー・アヤの物語
2017/7/1 PR
「はあ〜こんな生活続けてたらそりゃ膀胱炎にもなるよなー。」
大学卒業後、某メーカー会社で営業を担当するアヤは、東京のど真ん中で深いため息をついた。
膀胱炎は、アヤの潜在的な転職意欲に拍車をかけた。
いわゆる”第2次結婚ラッシュ”を目前に、子育てに勤しむ友人は後を絶たない。
アヤには付き合って2年になる彼がいた。彼は結婚願望を1ミリとも見せない。しかし、同じ境遇に立つ友人は焦りや付き合っている彼に対する苛立ちを覚えているのに反し、アヤにはどこか余裕があった。
過去3年間、日本の結婚率は減少が続く。
かつて女性は、社会人になると就職、結婚、出産、育児というコースが“普通”であり“当たり前”であった。しかし昨今の時世はちがう。
「アラサー」の生き様は多様なのである。
そんな社会背景を真摯に受け止めた結果が、説明のつきにくいこの結婚に対する余裕に繋がっていることは、アヤの中に少なからず存在していた。
仕事と恋愛−−−−−
20代女性の頭の中を大半が占めるこの2つの題目に関して、何ら刺激のない日常は、代償として転職願望を生んだ。
今日は朝礼が終わったらすぐに取引先で商談。その後40分の空き時間は、カフェでメールチェックでもしながら昼食を済ませよう。午後は提案資料の作成と別アポ、終業後に得意先と会食。
−−−−−人付き合いが苦手でないアヤにとって、日々の生活は申し分ない程充実していた。ふと時計を見ると17時を回っていることが多い。しかし、その犠牲として昼食もまともに取れず、トイレを我慢する生活はもはや日常茶飯となってしまった。
「ひ、ひい〜〜〜っ・・・!」
それは会食の始まる10分前だった。
下腹部のむずむずとした違和感、トイレに行ったばかりなのにすぐまた行きたくなる感覚(実際、最近では取引先と商談をしている最中も、恥ずかしながら幾度か離席した)は、ここ最近気になっていたものの大した問題ではないだろうと自分を誤魔化していた。
しかし、排尿時のここまで鋭い痛みは今回が初だ。日頃目をつぶっていたこれらの症状を思い起こし、直感的に膀胱炎だと悟った。
「ちょっとストッキングが伝線しちゃったので薬局行っていきます!すみませんが先輩、先に行っててください。」
時刻は19:47−−−−−
ほとんどの病院の受付時間は過ぎていたし、何より20時からの会食が迫っていた。とにかく薬を買おう。飛び込んだドラッグストアに、ピンク色のパッケージで「膀胱炎」の文字が目に飛び込んだ。アヤは急いでお水とそのパッケージ“腎仙散”を買い、飲み込んだ。
「少し苦い方が、効いてる感ある!」
症状が少しでも良くなることを祈り、会食会場へと向かう。
お酒も飲んでいたため、再びトイレに行く時にまたあの痛みが待っているのかと思うとヒヤヒヤし、会食中は気が気でなかったが、幸い痛みは和らぎその場を平和に終えた。
「膀胱炎にもなるし、なんか疲れた〜〜〜〜もっと楽なとこに転職したい!!」
帰宅後、弟に愚痴をこぼす。
弟は笑いながら「姉ちゃん楽なところだと飽きちゃうでしょ。とりあえず有休でもとれば?」と他人事のように言う。
アヤにとってそれはまんざらでもなく核心をついている気がした。
そしてとりあえず有休をとることに決めた。考えついたことに対する行動は早い。
これは、アヤの上司から認められている長所でもあった。
金曜と月曜に2日とって、4連休♪
有休申請すれば調整して要望を受け入れてくる会社には感謝だ。
時がゆったり流れる静かな平日に、散歩しながら気になるカフェにふらっと立ち寄る。
有休初日、金曜日の午前だけでも最高のリフレッシュになった。
当初この午前は病院に行く予定であったが、膀胱炎の症状は落ち着いてきていたため、そのまま腎仙散で様子を見ることにした。病院は、また症状がでたら月曜日に行けばいい。
そんなことを思っていた時、一通のメールが届いた。アヤの上司・加瀬さんだ。
“休みにかかわらずメールを送るなんて、なんか起きたかっ!!!?もーう!”
と思ったが実際は違った。
「本田さん、いつもすごく助かってます。これからも無理せず、連休はゆっくり休んでください。」
上司の発言は染み渡るように心に響いた。
と同時に、ある一つの事実に気付いた。
私の転職欲は承認欲求からきていたのだと。
仕事も恋愛も、“自分の存在”が認めていられないような気がして、なんとなく不満だったんだ・・
膀胱のもやもやがとれていくのと同時に、心情も少しずつ晴れていく。反比例するように“転職”という言葉が消えていくのがわかった。今の会社で、もう少し頑張ってみようとやる気が漲っていくのを、アヤは手に取るように感じた。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実物のものとは関係ありません。
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