《フィクション》華やかさの裏に潜む陰 - ”サロネーゼ”の日常にせまる –

2017/7/1 PR

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

「もう若くないんだから、あまり無理しない方がいいよ」

夫の口から出たのはやさしい言葉だった。でもその後、つぶやくように次の言葉を続けた。

「子どもの大学費用は保険があるし、俺が家族を養うだけの収入は十分にある。起業といってもそんなに心身不安定になるくらいなら、辞めてもいいんじゃないか」

根っからの九州男児気質の夫は、妻は外でバリバリ働くよりも、できれば専業主婦として家庭のことを最優先するタイプであってほしかった。言葉に出さず、態度で示しがちな夫の意向には、もちろん結婚前から気付いていた。しかし、女性活躍や男女参画、多様性が叫ばれる今の時代、専業主婦でい続けるのは世間に取り残されるような気がしていやだった。

ただ、今は、夫の言葉に救われている自分がいる。

子育てから解放され行き着いた先「サロネーゼ」

サロネーゼとは、自身の特技を生かし自宅をサロンとして教室を開く女性経営者のこと。素敵な佇まいの家で開催されることが多く、語源も「シロガネーゼ」のリズムからきていることからセレブが多い。マキコは人が羨むほどのセレブではないが、少し余裕のある時間と資金を活用し、昨年、自由が丘の自宅でマクロビ料理サロンをオープンした。

自宅で働けるのは、夫と自分の意向の折衷案としては最善だと思っている。もともとマキコはプライドが高く目立ちたがり屋なタイプだが、鳴り物入りでサロンを展開をするほどの余裕はない。だから、口コミで生徒数を増やしていくことを虎視眈々と狙っていた。

しかし、現実はそう甘くない。

自宅起業家「サロネーゼ」の実態

理想は1レッスン生徒5~7名だが、現実は平均で1~3名、時間コストを考えるとかなり効率が悪い。少しの常連と、棚ぼたのように現れる新規顧客は確実に確保したいため、生徒の希望レッスン時間を最優先し、家事は二の次になっている。自分の優先順位は何番目だろう。身を削り、時間に振り回される日々が続く。

「あぁ、また膀胱炎か…」

子育ての疲れと母親業のストレスとで数年前に発症した膀胱炎は、疲労やストレスを抱えるたびに頻繁に再発するようになっていた。市販薬で治る程度の症状ではあるものの、サロンを開業してからは特に症状が重い。

膀胱炎になってもレッスン中はとにかく我慢していたが、隠しきれていなかったらしい。「先生膀胱炎ですよね。再発繰り返してるんですか? “腎仙散”っていう、薬局に売ってるやつ試してみるといいですよ。先生のお好きな生薬を使ったお薬なんですけど」私のことよくわかってくれてるなぁ、とマキコは苦笑する。

マクロビの料理教室を開催してからというもの、「口に入れるものは、皮膚に塗れるほど優しいものを」を信念としていたマキコは、自然に育まれた成分の“和漢薬”に絶大な信頼を抱いている。年を重ねるにつれて、譲れなくなってゆくこだわり…。

しかし、マキコのそんな”サロネーゼ”としてのプライドは、音を立てて崩れゆく寸前なのであった。

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実物のものとは関係ありません。

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