乳がん治療のガイドライン ― 正しい選択のために知っておこう!

2017/6/30 記事改定日: 2018/6/19
記事改定回数:1回

三上 貴浩 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 医学博士

三上 貴浩 先生

乳がんと診断されたら、担当医と相談しながら治療方法を決めていくことになりますが、このとき大まかな選択肢や内容を知っておけば、決断の助けになるはずです。
ここでは、乳がんの代表的な治療方法を解説しますので、ぜひ参考にしてください。

乳がんの初期治療

乳がんがもし他の臓器に転移していない場合は、治癒を目指してがんを切除する手術を行います。

ただし、この段階では転移がわからない場合も多く、時間が経った後に発見されることもあるのです。そういう場合は手術だけではなく、加えて薬物治療を行います。
その際には、抗がん剤やホルモン剤などの薬が用いられます。

近年、乳がんは、手術でどれだけ広い範囲を切除するかではなく、どこかに転移している可能性の高いがん細胞を、薬物療法でどれだけ死滅させられるかが重要視されるようになってきたといわれています。
そのため,現在はそれぞれの患者さんの現状に合わせた手術を行い、その後、転移の可能性を探りながら薬物療法(抗がん剤治療)や放射線療法を行うやり方が主流です。

乳がんの放射線治療と薬物治療

放射線治療

乳がんの再発の可能性が高いと予想される場合は,高エネルギーのX線や電子線を局所に放射する放射線治療を行い、がんの縮小化を目指します。
とくに、乳房温存手術を選択した場合は再発率を減らすためにも放射線治療が必要とされています。

なお、放射線の当たったところの皮膚が赤くなりかゆみを感じることがあるなどの副作用がありますが、これは10日程度で治まるとされ、黒ずみやかさかさができた場合も1、2年程度で元に戻ると考えられています。
ただし、治療終了後しばらくしてから咳や微熱が続いたときは放射線肺臓炎の可能性が考えられますので、担当医に相談しましょう。

副作用と注意点

放射線治療には、治療後まもなくから現れる副作用と、しばらくしてから現れる副作用があります。
治療後まもなく現れる副作用としては

  • 照射範囲の皮膚が日焼けのように赤くなる
  • 照射範囲の皮膚がかゆくなる

などが挙げれらます。ひどいときには、皮膚にびらんや水疱などのダメージが生じることもあり、痛みがでることもあるでしょう。

このような皮膚症状に対しては、軽い症状であればアイスパックや濡れタオルなどで冷やして対処するとよいでしょう。もし、かゆみや痛みが強いときは医師に相談し、塗り薬などを処方を検討してもらいましょう。
そして、照射範囲が広範囲の場合には、食道にダメージが加わることがあります。照射後しばらくは刺激物やアルコールの摂取は控えた方が無難です。

一方、治療後しばらくしてから生じる副作用には、照射部の皮膚の汗腺機能が低下し、その部位の体温調節が正常に行われないため熱感を自覚することがあります。また、肺がダメージを受けることで咳や微熱が長引くこともあります。このような症状が現れたときには、放置せずに病院へ行くようにしましょう。

薬物治療

薬物治療は抗がん剤、ホルモン剤、免疫賦活剤などを使う化学療法のことで、病期に応じて行われます。

なお、遠隔転移があって、ほとんど手術による治癒が望めない状態になった時に重要視されるのが延命であったり、「QOL(Quolity of Life)」」となります。このステージでは、いかに人間らしく、そして本人の望む形で残りの人生をすごすかがテーマとなりますが、ここで延命効果を期待して実行されるのが薬物療法となります。

薬の種類と副作用

乳がんの治療で使用される薬は大きく分けて、抗がん剤とホルモン剤、分子標的薬です。
それぞれ次のような特徴と副作用があります。

① 抗がん剤
今現在、乳がんの治療で使用されている抗がん剤は5種類ほどありますが、一般的には病状に合わせていくつかの抗がん剤が組み合わされて使用されます。抗がん剤にはがんを縮小したり、新たな発生を防ぐ効果があり、非常に高い効果が望めます。しかし、副作用も強く、吐き気やめまい、しびれ、頭髪の抜けなどが生じることが多いといわれています。
② ホルモン剤
女性ホルモンであるエストロゲンは乳がんの増殖を活発にすることが知られているため、エストロゲンの作用や産生を妨げる薬が使用されます。
閉経前後で使用される薬は異なりますが、一般的には更年期障害に似た、ホットフラッシュ、抑うつ気分、骨密度の低下などの副作用が生じます。また、閉経後でも不正出血を生じることも少なくありません。
③ 分子標的薬
乳がんの中でもHER2と呼ばれるたんぱく質が多くあるものに対して、HER2を攻撃するための分子標的薬が使用されることがあります。HER2は乳がんの増殖を促進する作用があるため、分子標的薬で抑え込むことで増殖を防ぐ効果が期待できるのです。
副作用としては、発熱や発疹などの一般的な薬剤アレルギーのような症状が現れます。

手術療法

乳がんの診断後、治療法として最初にとられる可能性が高い手術について解説します。
これは文字どおり外科手術によって、がんを切除する治療法です。大きく分けて以下の2つがあります。

乳房部分切除手術

乳房を残すことを目的として、腫瘍から少し離れたところで乳房を部分的に切除します。ただし、がんが予想よりも広がっている場合は、乳房を全部切除する乳房切除術に切り替えることがあります。
術後には放射線治療を行い、乳房の中で再発することを防ぎます。

乳房切除手術

乳房を全部切除する手術を乳房切除術といいます。

なお、事前に医師と話し合い、手術と同時、もしくは数カ月から数年後に、乳房再建術を行う人もいるでしょう。
この場合は、自分自身のお腹などから取った組織やシリコンなどを使うことになります。

また、リンパ節への転移がはっきりしていない場合には、センチネル(見張り)リンパ節生検を行います。

乳がん治療中の食事と運動について

乳がんは肥満やアルコール摂取によって発症や進行のリスクが高くなることがわかっています。このため、乳がんの治療中には栄養バランスの取れた食事を心がけ、肥満傾向にならないようにしましょう。また、アルコールは控えた方が無難です。
さらに、適度な運動は肥満の予防になるだけでなく、気分転換にもなります。ウォーキングやサイクリングなど無理のない範囲での有酸素運動を積極的に取り入れるとよいでしょう。手術で脇の下のリンパ節郭清を行った場合には、腕のむくみなどの症状が現れることがありますので、指や肘の曲げ伸ばしなどの運動をリハビリとして取り入れるのもおすすめです。

治療に入る前に心にとめておくこと

がんといかに戦うか、これは診断された本人のみならず、家族にとっても、各々の生き方に関わってくるような大きな問題でしょう。
医師とよく相談し、最適な治療方針を決めてください。乳がんかどうかの前に、非浸潤がんなのか浸潤がんなのかや、ステージの進行度、そして悪性度、合併症の有無など、知っておくべきことはたくさんあります。

また、転移しているかどうかも把握しておく必要があります。がんは体のいろいろな部位に転移する性質があり、それは乳がんも同じ。実は、乳房のしこりとして見つかる何年も前から、転移した場所で増殖を始めている可能性もあるのです。

おわりに:乳がんに限らず、がんは早期発見が重要。定期健診を忘れずに

乳がんに限らず、がんは転移や浸潤がない早期のうちに治療を始められれば、治癒率がかなり上がります。乳がん検診は忘れずに受けるようにしましょう。
乳がんと告げられるとショックを受けると思いますが、自分にとって最適な治療方法を選択するためにも、この記事の内容を覚えておき、医師の説明が理解できるように備えておいてください。

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