記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
文字どおり、日常の会話や音が聴こえ難くなる「難聴」。しかし、ひと口に耳が聴こえ難くなるといっても、その原因や状況は人それぞれです。
そもそも難聴とは何でしょうか? この記事では、難聴の原因や、難聴になった場合の周囲とのコミュニケーション方法について解説します。
難聴は、聴力が突然または徐々に低下していくことです。年齢や病気、遺伝など、いろいろな要因が難聴に関連している可能性があります。
これに加えて、現代の生活には薬剤や大音量の音源、ずっと続く騒音など、耳を損傷してしまう要因がたくさん存在しています。
難聴には治療が不可能なものが多いため、聴力を保つためには難聴を予防することが重要です。すでに聴力が落ちている場合でも、家族や友人とのコミュニケーションを保てる方法がいくつもあります。
加齢は難聴のもっとも一般的な原因です。症状に個人差はありますが、65~74歳の3人に1人が難聴であり、75歳以上となるとその割合は2人に1人となるといわれています。
現在のところ、なぜ年齢と共に聴力が低下するのかについては、完全にはわかっていません。生涯にわたって、騒音やその他の耳を損傷する要因にさらされ続けることが、徐々に聴力の低下をうながすのだろうと考えられています。また、遺伝的な要因も関連しているようです。
大きすぎる騒音や、ずっと続く騒音は聴力の低下を招きます。毎日危険なレベルの騒音に耳が曝されている職業は、世の中にいくつもあるでしょう。
たとえば大工の44%、配管工の48%がある程度の難聴になっていると報告されています。他にも騒音のレベルが高い職業として、鉱業、製造業、農業、運輸などが挙げられます。
また、ミュージシャンも騒音による難聴の危険にさらされています。ミュージシャンの中には、耳を保護するために耳の内部の働きを傷つけずに音楽を聴くことができる特別な耳栓を使う人もいます。
薬剤は聴力やバランスを損なう原因となることがあります。200種類以上の薬剤や化学薬品が、本来の目的である病気と闘う作用に加えて、副作用として難聴や聴力のバランスを崩す誘因となっているとされ、代表的なものとして何種類かの抗生物質やアスピリン、勃起機能不全の治療薬などが挙げられます。
突発性難聴とは、6~7時間から数日の間に、突然、30デシベル以上の難聴となることです(通常の会話は60デシベルです)。また、突発性難聴の1割程度は、片耳にしか難聴が起こらないといわれています。
心臓疾患、高血圧、糖尿病は、耳の血流を阻害することで耳を危険にさらし、耳硬化症という中耳の骨の病気やメニエル病は内耳に影響を与え、どれも難聴の原因となります。
頭蓋骨骨折や鼓膜穿孔は、深刻な難聴につながる可能性があります。
感染症や耳垢は外耳道を塞ぐため、聞こえが悪くなります。
難聴の種類と原因により治療方法は異なります。例えば、耳硬化症、細胞の損傷、感染症による難聴の場合は、手術で回復する可能性があります。また、メニエル病は、薬剤や食生活の変更により改善がみられることも多く、感染症による難聴の場合は抗生物質によって治療することができます。
いずれにしても、突発性難聴は迅速に治療を行うことで回復の可能性を高めることができるといわれているので、早期発見・早期治療が改善の鍵といえるかもしれません。
永続的な難聴の人は、補聴器を利用することで擬似的に聴力を向上させることができます。補聴器は耳の中や後ろにつけ、音を大きくすることができる小さな機械です。しかし、補聴器で聴こえる音は現実の音とは違います。現実的な音が少しでも聴こえるようになるために、医師と相談しながら治療に取り組みましょう。
また、人工内耳は若い人が使うことが主に多いものですが、永続的な難聴の人の利用も増えてきています。
難聴になって困ってしまうのは本人だけではなく、周りにいる人も同様です。
コミュニケーションが難しくなってしまうことで、お互いに不満が溜まったり、バツが悪かったり、雰囲気が悪くなったり…。
難聴が回復することが一番ではありますが、加齢など大きな改善が見込めないものもあります。周囲の人間が大きな理解と協力をもってコミュニケーションを図るようにしましょう。