【特集】癌と闘う日本フットサルリーグ鈴村拓也監督・久光重貴選手インタビュー② 〜 ベストな医療情報の選択 〜

2017/8/15

二宮 英樹 先生

記事監修医師

東大医学部卒、セレオ八王子メディカルクリニック

二宮 英樹 先生

日本フットサルリーグ(以下、Fリーグ)には、闘病生活を乗り越え、今なお活躍しているお二人の方がいます。
Fリーグ・湘南ベルマーレに所属している久光重貴選手と、
Fリーグ・デウソン神戸の元プレーヤー、現・同チーム監督の鈴村拓也監督。
お二人は癌の告知を受けてもなお、フットサル選手・監督として戦い抜いており、その力強い姿は癌患者だけでなく多くの人に希望を与えています。

今回は、そんなお二人のこれまでの葛藤や病気との向き合い方、癌治療のイメージを覆す思いなどについて、医師・二宮英樹先生との対談を3記事にわたりお届けします。第2弾です。

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セカンドオピニオンについて


− セカンドオピニオンは受けましたか。また、受けた場合には、受けられた背景を教えていただけますか。

久光選手(以下、久): 僕は最初大学病院に行って、検査を受けていました。診察してくれた先生はすごく信頼できる先生で、この先生ならここで治療しようと思えたんです。でも入院後には担当の先生が切り替わると聞いた時に、顔も名前もわからない先生に自分の命をお任せするのは嫌だなという思いと、標準治療が何なのかわからなかったので、他の病院でも標準治療について聞こうと思い、紹介状を出していただきました。
セカンドオピニオンでは、1度目に見ていただいた病院と同じ標準治療の提案にプラスして、手術もできるかもしれないという可能性が一つもらえました。また、主治医もずっと変わらないことが大きかったです。

鈴村監督(以下、鈴): 僕はクラブのチームドクターを通して紹介してもらい、最初から信頼できる先生だったので告知を受けてすぐに治療を始めました。

二宮先生(以下、二): 昔はセカンドオピニオンに対して否定的な医師もいたと思うんですけど、今はかなり一般的なので、セカンドオピニオンを希望される患者さんには紹介状や検査の状況をお渡ししたりスムーズにすすんでいる印象ですね。

久: そうですね。ただ他の患者さんとも話していたのですが、セカンドオピニオンを受けてまた最初に診てもらった病院に戻って来ると、嫌な顔をされるイメージがあるので、セカンドオピニオンで別の先生に診てもらうなら、最初に診ていただいた先生のところにはもう戻らないような覚悟を患者さんは持っていると思います。

先生の地位や評判を鵜呑みにしてしまうことは結構多いと思うんですが、噂じゃなくて実際に会って、この先生なら自分の命を預けられる!と思えることは限りなく少ないと思うんです。
患者さんから壁をつくってしまうのか、逆に先生が壁をつくっているのか、いろんなパターンがあると思うんですけど、コミュニケーションでその人のことをどれだけ引き出せるか、この人のことを知りたい、この人に伝えたいと思いながら話していればお互い歩み寄れるはず。先生も患者も人間なので、人間同士が壁をつくってしまうのか、認め合うのかで全然変わってくるだろうと思います。

個室病棟ではなく大部屋を選んだ理由

久: 5月に告知を受けてから7月の治療が始まるまでは、僕の病気のことはチームメイトとチーム関係者しか知りませんでした。
7月9日から入院をしたんですけど、9日の0時ちょうどにクラブの公式ホームページで発表させてもらって、そこで世間の人が知っていったんです。入院するときにはフェイスブックやツイッターで応援メッセージを沢山もらいました。また、発表直後にメディアで取り上げてもらえたおかげで、僕が病院にいったときには病室で入院中の方々が「こんな若い選手で肺癌のやつもいて残念だなぁ」なんて話してて、そこに僕が登場(笑)。「あぁおまえのことか!」と、病棟の人ともすんなりコミュニケーションがとれました。
何もない個室に入るより大部屋に入っていろんな人の状況を見たかったというのもあって大部屋に入ったんですが、実際、一緒の病棟の人たちから、治療の話や病院の先生の噂など気さくに色々話してもらえました。
個室に入ったり大部屋でもカーテンをずっと閉めている塞いだ状態でいたら、もったいない。
情報が溢れすぎていて人の言葉はいらないって人もいるけど、人の生の言葉が一番信憑性があって大事だと僕は思ってるんですよ。文字や動画で済ませてしまうのでなく、コミュニケーションは大事。難しいことだけど、人対人(患者-患者間、患者-医師間)で円滑なコミュニケーションをとれた医療を確立させないとって思うんですよ。

医療現場におけるコミュニケーションの必要性

久: よく学会などでも話になる、チーム医療のパターンで、
①病気や怪我の治療に対して患者が真ん中にいてその周りを医療チームが囲む
②病気や怪我が真ん中にあってそれを患者含めた医療チームが囲む
があるんですが、この2つは全然違うんですよ。

①のように患者が真ん中に入ってしまうと、治療の話がスタッフの間で回っているだけで、患者本人には全然届かないんです。でも一番大事なのは、②のように、患者が医療スタッフを含めてしっかり向き合い、コミュニケーションをうまくとることだと思います。そうすることで目標設定や医療の進め方がしっかり作り上げられると思うんです。
”チーム医療”という言葉が普及していますが本来一番大事な部分が意外と見失われがち。このこともどんどん発信していかなきゃいけないんだと思うようになりました。

二: 一人一人の医療者のコミュニケーション力は大事ですよね。

久: チームスポーツは負けないことが大切で、サッカーもフットサルも、正解は“ゴールをきめること”と“ゴールを守る事”じゃないですか。
ゴールを決めるためには何万通りのやり方があるけど最終的に“ゴールを決める、ゴールを守る=正解”。医療の場合では、“治る=正解”になると思うんです。病気と共存する、病気に負けないということも大切だと思うんです。
その”正解”に対する行き方は、遠回りしているようだけどもそれが正しかったり、近くてシンプルだけど正解に直結するものだったり・・・様々です。そのやり方がだめなら別のやり方をみんなで試行錯誤して、じゃあ今度はどう正解に近づくかという話し合いには患者も入っていかなきゃいけないと思うんです。
抗がん剤治療を始める際、抗がん剤は一種類(“抗がん剤”というものしかない)と僕は思っていたんですが、癌になって初めて何種類もあるってことを知りましたし、そういった事が全然世の中に浸透していないと実感しています。なので、抗がん剤の薬品名から効果や副作用まで、わかりやすく世間に発信されたらまた変わってくるのかなと思います。治療が長ければ長いほど、いろんなことを経験して、知りたい人間から伝える人間に変わってくるけど、一番情報を求めてるのは患者1年生なんですよね。僕個人としては先生のいろんな話を聞くことが大切だと思います。

鈴: 僕は、癌に対して何もわからない状況でも、医療の様々な確率や統計など結構いろんなことをきいて、とにかく先生とコミュニケーションをとったんですよ。入院期間が長かったというのもありましたが、数値や生活する上で気をつけなきゃいけない些細なことも包み隠さず言ってもらえてとても良かったですし、先生がこんなに向き合ってくれているなら僕も本気で向き合わなきゃ、と思うことができました。
正解までの行き方はいろいろあると思うんですが、僕の場合は「先生のことを信じるので、絶対治してくださいね!」みたいなザ・スポーツマンタイプ(笑)で、ちゃんと先生が向き合ってくれたので、信じて治療を続けられたのかもしれない。
監督として、選手にも監督に向き合ってほしいしと感じるし、でもこっち(監督)から向き合わないと選手も向いてくれないだろうというのはこの病気を通じて学んだことでもあります。

病院や氾濫する情報との向き合い方

鈴: 僕を見てくれた医師には未だ感謝していますね、すごく僕に合わせてくれたんだろうなと思います。

二: 例え病名は同じでも、患者さんによって求めているものや治療のスタンスが異なるので、同じ説明をして満足してくれる患者さんもいれば少し不満そうな患者さんもいらっしゃいますし・・・患者さんの気持ちを読み取るのは難しいですね。

久:そうですよね。先生だけではそこを埋められないからこそ、看護師さんや薬剤師さんがチームとなってうまく機能することが大事なんだと思います。先生が患者に合わせるのか患者が先生に合わせるのかでは全然変わってくると思うんです。
例えば、淡々とものを言う先生に細かくいろんなことをききたい患者さんが当たったときに、患者は先生を選べないから今はセカンドオピニオンを利用すると思うんですけど、患者が求める医療を患者が選べる立場になっていくというスタンスがこれから先どんどん進んでいくといいと思うんです。
先生たちは大学からずっと同じ勉強をしてきてその業界のスペシャリストじゃないですか。でも僕たちは4年前に初めて癌になって“癌1年生”の時に、癌のスペシャリストたちに「これはこうだからこうだから」と説明されても何もわからない。その溝を埋めるために患者は勉強しようと当然のようにインターネットを開く。そこに「癌は治療しないほうがいい」とか書かれていると素直に「あ、そうなんだ」と思ってしまうし、「この先生の本が売れていた」と聞くとその本にすがりたくなってしまう。それが良いのか悪いのかは別ですが標準治療ではないかもしれない。その溝を埋める作業を僕らがやっていかないといけないんだなと思ってます。

そして、僕や鈴さん(鈴村監督)が特別な人間ではないということを知ってもらいたいです。いろんな人に支えられて、選手としてやってきたからこそ受けられたものはありますが、みんなと同じように生きてきて、いつ死ぬかわからないというのは一緒で、その人それぞれの考えがあり変えられる部分はみんなにあります。それを持てないままいろんな情報に流されていろんな方向にいくのは一番良くないと思うんです。特別じゃないからこそ自分をもってほしいなと患者さんには思いますね。

二: 久光選手のお話を伺っていると、“標準治療”という概念が今後はより広まっていくといいのかなと感じます。医療は科学をベースにしているとはいえ目まぐるしく変わっていくんです。10年前に良しとされてきたものが今となっては良くないよ、ということは実は多いです。でもその積み重ねで、長いスパンで見ると治療成績はかなり向上していて、その中で「今の標準治療はこれです」ということを医療のスペシャリストたちは知っているはずなんです。標準治療は先人たちの積み重ねなのですごく大事ですし、その中で自分の個別性、医学の個別性を当てたり、年齢・職業・家族がいるかなどの要素をトータルで踏まえて医療を見ていけると、悪い情報にも引っかからない、惑わされず悔いのない治療に繋がるのではないかなと思います。

癌のイメージを払拭したい

久: 中高生に講演をさせていただく中で、癌は怖い病気じゃないということを、その年代の子たちに知ってほしいと思っています。医療は進歩して生き続ける人もいるし、治療で(良い方向に)変わってくる人もたくさんいる。それを知ってもらうことで、その子たちのお母さんやお父さんが癌になったときに不安になってほしくないし、その子たちが大人になる頃にはまた医療業界の状況も変わってくると思うので。そのために僕自身、マイナスじゃなくポジティブになれるよう発信していかなきゃいけないですし、いろんな勉強をしていかなきゃいけないなと思っています。

二: 医療現場にいると、私が考えている以上に抗がん剤治療が世間一般的にマイナスのイメージがあるんだなと思いますね。一般の方がイメージしている治療を最新のものにアップデートすることは大事ですね。

久: そうですね。あるニュースで、癌医療に携わる先生が、「ご自身がもし癌になったら抗がん剤治療をしますか?」との質問に対し、「僕なら抗がん剤治療はしたくないです。」と答えていたと聞いた時はすごくさみしかったですね。その一言で、みんなに抗がん剤治療に対するマイナスなイメージを植え付けてしまうと思うんです。こういう状況は、僕たちで変えていかなきゃいけないと、発信することで少しでも変わっていけばいいなと思っています。

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