糖尿病網膜症の症状の特徴と治療・予防について

2025/5/14

三上 貴浩 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 医学博士

三上 貴浩 先生

糖尿病網膜症は糖尿病の合併症のひとつであり、重症化すると失明のリスクがある病気です。この記事では、糖尿病網膜症の症状の特徴と治療方法、予防のために気をつけてほしいことについて解説しています。

糖尿病網膜症の症状と進行の段階について

糖尿病網膜症は、糖尿病によって血糖値が高い状態が続くことで引き起こされます。目の奥にある網膜の細い血管に問題が起こる病気であり、発症すると以下のような症状が現れる可能性がありますが、初期段階には自覚できない場合もあります。

  • 徐々に視力が悪化する
  • 視界にもやもや(黒い点のようなもの)が浮かんで見える
  • 視界がぼやける
  • 色を識別しにくい
  • 目の痛み、または目が赤くなる
  • 失明する(通常、失明するまでには数年かかる)

進行の段階(発症段階)について

糖尿病網膜症の進行状況は、以下の三段階に分けられます。

単純糖尿病網膜症

単純糖尿病網膜症の段階では、網膜の細い血管の壁が盛り上がってできる「毛細血管瘤」や、小さな出血がみられます。また、たんぱく質や脂肪が血管から漏れ出て網膜にシミができる「硬性白斑」を形成することもあります。この時期には自覚症状はほとんどなく、血糖値のコントロールが良くなれば改善する可能性があります。

前増殖糖尿病網膜症

前増殖糖尿病網膜症は、単純網膜症よりひとつ進行した状態で、網膜の細い血管が広い範囲で閉塞することで網膜に十分な酸素が供給されなくなり、新しい血管を作り出す準備(前増殖)を始めている段階です。この時期になると目のかすみなどの症状を自覚することが多くなりますが、自覚症状が現れないこともあります。

増殖糖尿病網膜症

糖尿病網膜症がさらに進行して重症化した状態であり、新生血管が網膜や硝子体に向かって伸びていく段階です。この新生血管の壁が破れると、硝子体出血を起こすことがあります。硝子体は、眼球の中の大部分を占める透明な組織であり、硝子体出血が起こると視野に黒い影やゴミのようなものが見える「飛蚊症」という症状を自覚したり、出血量が多いと急な視力低下を自覚したりすることもあります。さらに、増殖組織といわれる線維性の膜が出現し、これが網膜を引っ張って網膜剥離を起こす危険性もあります。また、この時期になると血糖の状態にかかわらず、網膜症が進行していきます。年齢が若いほど進行が早い傾向があるので、とくに注意が必要です。

糖尿病網膜症になりやすい人の特徴

1型糖尿病・2型糖尿病の人は潜在的に糖尿病性網膜症を発症するリスクがあり、以下に該当する人はとくにリスクが高いといわれています。当てはまる場合は、定期的に眼科で検査を受け、目の状態を医師に確認してもらうようにしてください。

  • 長い間糖尿病を患っている
  • 高血糖の状態が続いている
  • 高血圧である
  • 脂質異常症である
  • 妊娠している

糖尿病網膜症の治療方法

糖尿病網膜症の治療として、一般的に推奨されているのはレーザー手術です。レーザー手術では、網膜の血管の成長や漏れを封鎖、または破壊する治療を行います。術後の痛みは少ないといわれていますが、色の識別(とくに夜間)が難しくなる場合があります。

また、網膜や硝子体液(眼球を潤すゼリー状の物質)に血液が漏れていた場合は、「硝子体切除術」という手術が行われる場合があります。この手術で血液を取り除くと、術後の視界が改善することが多いといわれています。ただし、目の状態により適した治療方法は変わってくるため、担当の医師と相談しながら、自分に適した治療法を選ぶようにしましょう。

糖尿病網膜症の予防について

糖尿病網膜症は、適切な治療を行うことで予防できる場合があり、一旦発症した場合でも、重症化を予防できる可能性があります。とくに単純網膜症の場合は、適切な対処をすることで改善する可能性もあります。

眼科の定期検診

糖尿病網膜症は、初期段階では目立った症状が起こらないこともありますが、未治療のまま放置して悪化すると、失明するリスクが高まります。定期的に検査を行い、視野に影響を及ぼす前に発見・治療することが大切になってきます。

血糖値、血圧、コレステロール値を管理する

血糖値が高い、血糖値が変動する、糖尿病にかかっている期間が長い、高血圧や脂質異常を合併しているなどの状態は、糖尿病網膜症の発症リスクを高めます。また、HbA1c、空腹時血糖値、食後2時間の血糖値が高いほど、網膜症が悪化しやすくなります。以下を心がけながら、血糖値、血圧、コレステロール値を適切に管理することが予防につながります。

  • 医師からの指導通りに処方された薬を服用する
  • 視野に何らかの変化があった場合は、すぐに受診する
  • 健康的でバランスの整った食生活を心がけ、適度な運動を収監して適正体重を維持する
  • タバコは糖尿病の合併症のリスクを高めるため、禁煙する

おわりに:糖尿病網膜症は早期発見・早期治療が悪化の予防につながる

糖尿病網膜症は失明のリスクがある合併症ですが、早い段階で適切な治療を開始できれば、症状の進行を食い止め、重症化を予防できる場合があります。糖尿病を患っている方は、定期的に眼科を受診し、目の健康状態を確認するようにしてください。また、健康的な生活習慣を心がけ、血糖値・血圧・コレステロール値を管理することも大切です。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

糖尿病(274) 予防(234) 治療(461) 症状(549) 手術(136) 網膜症(2)