記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/8/9 記事改定日: 2019/7/24
記事改定回数:2回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
甲状腺機能低下症は女性に多い病気のため、治療中は妊娠を控えるべきかどうかという問題は気になるところだと思います。甲状腺機能低下症と妊娠・出産の関係について、この記事で詳しく見ていきましょう。
結論から言うと、甲状腺機能低下症にかかっていても妊娠・出産は可能です。妊娠を望んでいるなら、甲状腺機能低下症を理由に制限する必要はありません。ただし、甲状腺ホルモン(TSH)の数値に注意する必要があります。
というのも、甲状腺ホルモンは妊娠に関わる重要な女性ホルモンの分泌を助ける役割があり、胎盤の働きを正常に維持する役割もあるため、赤ちゃんの成長に欠かせないものとなるからです。逆に、甲状腺ホルモンが不足すると、不妊や流産の危険が高まる可能性があります。安全な妊娠・出産のためにも、甲状腺の機能が低下している場合は、甲状腺ホルモン剤治療をして数値を正常な状態に近づけることが大切です。
また、妊娠後に甲状腺機能低下症と診断された場合、まずは甲状腺ホルモンの数値に注意してください。数値が低下している場合、お腹の赤ちゃんのためにホルモン剤を使った治療が検討されます。
治療中に妊娠・出産したからといって、病気が遺伝しやすくなることはありません。また、甲状腺ホルモン剤は人間の甲状腺ホルモンと変わらない成分であるため胎児に大きく影響を与えることはありません。甲状腺ホルモンが正常なら、ほとんどは普通の妊婦さんと同じように過ごして良いのです。
ただし、ヨード(またはヨウ素:昆布、のり、わかめ、ひじきなどの海藻類に多く含まれる)の摂り過ぎに注意しましょう。甲状腺機能低下症の人がヨードの入った食品を食べ過ぎると、甲状腺ホルモンの合成・分泌が妨げられてしまい、さらなる機能低下を招く可能性があるためです。それによって分泌される甲状腺ホルモンが減少すると、お腹の赤ちゃんの成長・発育が遅れるなどの影響が生じます。
甲状腺機能低下症の人は流産しやすいといわれています。これは、甲状腺ホルモンが受精卵の正常な発育や妊娠を維持する黄体の機能に必要であり、甲状腺ホルモンが少ない状態では妊娠初期の流産が増えるためです。
また、甲状腺ホルモンが少ない状態で妊娠を継続すると、妊娠高血圧症を発症しやすくなり、母子ともに命の危険に晒されることがあります。妊娠中は赤ちゃんの発育のためにも平常時より多くの甲状腺ホルモンが必要になるため、流産を予防するためにも適切な治療を受けましょう。
甲状腺機能低下症の人が妊娠したときは、産婦人科とは別に必ず専門医の診察・検査を受けてください。まずは妊娠5~6週時に甲状腺機能の検査を行います。その後(通常妊娠初期の頃)、甲状腺の機能が変化することが多いため、4週間に1度、そして妊娠30週くらいに甲状腺の機能を検査するという流れが一般的です。
また、医師の指示がない限りホルモン剤の服用を必ず続けてください。妊娠中は赤ちゃんへ送る分も含めて、必要な甲状腺ホルモンの量は通常の1.3~1.5倍にまで増えます。そのため、妊娠中の治療では、医師の判断のもとチラージン®(ホルモン剤)の調節が必要になります。
チラージンは甲状腺ホルモン薬で、妊娠中や授乳中でも副作用の心配なく安全に服用することができます。むしろ、妊娠中は甲状腺ホルモンの必要量が増えるため、非妊娠時より多くのチラージンが処方されます。
甲状腺機能低下症を治療せずにいると赤ちゃんの発育が障害される危険もあるため、妊娠中はより厳重な甲状腺ホルモンの管理が必要となるのです。
甲状腺ホルモンが減少すると、排卵障害が生じ、不妊症になりやすくなります。また、甲状腺機能低下症の人は、他のホルモン分泌にも異常が生じやすく、正常な妊娠を妨げるプロラクチンやゴナトトロピンといったホルモンが高値になります。甲状腺ホルモンが減少することでどのように不妊症になるのか明確には解明されていませんが、このような種々の身体的変化が不妊症を発症すると考えられています。受精率や着床率も低下するとの報告もあります。
このため、甲状腺機能低下症の人はまずチラージンの服用によって甲状腺ホルモンの濃度を正常に保つことが重要です。その上で、排卵促進剤や人工授精、体外受精などの不妊治療を行っていきます。甲状腺ホルモンの減少によって卵子の数や質が低下することはないため、甲状腺機能低下症の治療を適切に続けていれば、通常と同じ不妊治療を行うことができます。
慢性甲状腺炎の橋本病にかかっていると、妊娠を機に免疫機能が低下して甲状腺機能低下症があらわれる場合があります。また、現在橋本病でない場合も、ホルモンのバランスが大きく変わる妊娠や出産を機に発症する人も多いです。
上記の点に注意していれば甲状腺機能低下症であっても妊娠・出産することは可能です。妊娠を考えている場合や治療中の妊娠・出産に関して気になることがある場合はぜひ一度、かかりつけ医に相談してみてください。