記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/8/28
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
炭疽は動物発の感染症で、「皮膚炭疽」「肺炭疽」「腸炭疽」「髄膜炭疽」の4つに分類されます。
日本で感染が確認されることは滅多にありませんが、死に至る可能性もある深刻な病気です。
この記事では炭疽についてご紹介します。
炭疽(anthrax)は炭疽菌によって発症する、ヒトと動物に共通する感染症です。
炭疽とは「炭のかさぶた」という意味です。英語名のAnthraxはギリシャ語で「炭」を指します。
細菌の感染経路によって「皮膚炭疽」「肺炭疽」「腸炭疽」「髄膜炭疽」の4つに分かれます。
炭疽にかかることはめったにありませんが、発症すると最悪の場合死にいたる可能性もあり、中でも髄膜炭疽患者の発症から2~4日後の致死率は100%と深刻です。
はっきりと証明されてはいませんが肺炭疽以外は、ヒトからヒトへ感染する可能性もあります。
炭疽の症状は感染経路によって異なります。
それぞれの症状について詳しく見ていきましょう。
炭疽感染者全体のうち95~98%が皮膚炭疽です。
初期症状はニキビや虫さされに似ており、かゆみを伴うことがあります。
次第に初期症状があらわれた患部の周辺に水疱ができ、それが徐々に黒色のかさぶたになります。
およそ80%の患者はかさぶたの形成から一週間ほどで治癒しますが、20%は感染がリンパ節及や血液にも及んで敗血症となり、死に至る危険性が高くなります。
肺付近の感染から始まる炭疽の初期段階は、インフルエンザなどのウイルス性呼吸器感染や軽度の気管支肺炎によく似ており、軽度の発熱、全身倦怠感、筋肉痛などの症状が見られます。
そこで気づかずに発症から数日経つと次の段階へ移行すると、突発的に呼吸困難や発汗、チアノーゼ(全身が酸素不足となり、顔や体全体、特に唇や指先が紫色になる状態のこと)を引き起こし、24時間以内に死亡する危険性が高いです。
炭疽で死亡した動物の肉を摂食した2~5日後に発症し、回腸下部や盲腸に感染することが多いです。初期症状としては気分が悪くなる、嘔吐、食欲不振、発熱があり、次第に腹痛、吐血、血液性の下痢を発症する場合もあり、毒血症へと移行すると死亡する可能性が高くなります。
腸炭疽の致死率は25~50%です。
大部分は皮膚炭疽の約5%・肺炭疽の約30%に引き続いて発症しますが、稀に単独で感染する髄膜炭疽もあります。
髄膜炭疽は治療をしても発症から2~4日で患者の100%が死亡してしまう恐ろしい病気なのです。
【出典: 厚生労働省ホームページを編集して作成 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-17.html】
感染の可能性があるのは、以下のような場合です。
・炭疽に感染したウシ、ヒツジ、ブタなどへ接触した場合
・炭疽に感染した獣肉を食べた場合
日本では炭疽の発生源のほとんどがウシですが、発症は非常に少ないです。
昭和40年に岩手県で密殺解体した肉を食べたことによる集団発生の事例がありますが、平成7年から現在までは患者の発生は報告されていません。
治療には適切な抗菌薬が有効とされていますが、耐性菌の存在も報告されています。
ただし細菌が血液に入ってしまう菌血症になった場合、抗菌薬による治療が有効でない傾向があります。
残念ながら国内では有効なワクチンが販売されていません。
炭疽を予防するには感染源となり得る動物に近づかないこと、接触した場合は必ず手を洗うこと、食用に処理されていない獣肉を食べないなど、菌が皮膚や体内に侵入しないようにすることです。
日本で炭疽に感染することは滅多にありませんが、感染した場合には早急に治療する必要があります。
動物との接触後などに体に気になる症状や不調があらわれたら、直ちに病院へ行き、医師の診断を受けてください。