記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
年齢や長年の騒音被害などで永続的な難聴になってしまったという場合でも、聴覚機器を使用して聴覚や人とのコミュニケーションを改善することができます。
ここでは、補聴器と人口内耳という2つの聴覚装置をご紹介します。
補聴器は、音を増幅する小さな補装具のことで、マイク、アンプ、スピーカーで構成されています。
耳の後ろに付けるものから、外耳道にフィットする非常に小さく目立たないものまで、様々な種類の補聴器があります。ここ数年の進歩のおかげで、周囲の雑音でうるさい状態でも音声を解読できる補聴器が増えてきています。
補聴器が全てのろう者に適合するわけではありません。内耳や聴神経に障害がある感応性難聴の人は「マルチチャンネルの人工内耳」を使うことで音を感じられるようになる可能性があります。
ろう者の多くは内耳が傷ついていますが、まだ耳の中には神経線維が残っています。これらの神経線維を電子的に刺激すると、脳にインパルス(音)を送ることができます。このメカニズムを利用したものが人工内耳です。
人口内耳移植では、耳の後ろの骨に電気器具を外科的に埋め込みます。その他にマイク(音を受信する)とスピーチプロセッサ(使用可能な音を選択する)、およびコイル(解読して電気インパルスを電極に送る)で構成されており、これらは体の外部から装着されます。
耳の後ろの骨に埋め込まれた装置は、コイルから送信された電気インパルスを受信し、それらを蝸牛の中に埋め込んだ電極に中継します。
インパルスは、蝸牛に埋め込まれた22個の電極を介して聴神経に伝達され、脳で音として解釈されると聴覚として感じることができるのです。
このシステムは、ドアベルや犬の吠え声、ドアのノック、車のエンジンと警笛、電話の音やバックグラウンドミュージックなど、通常の日常環境音を識別できるようになっています。
個人差はありますが、子供の場合は移植の年齢が早いほど正常な発語や言語発達が劇的に向上するとされ、聴覚スキルも大きく向上するといわれています。
ただし、人工内耳にも限界があります。装置が聴覚を正常化するわけではないうえ、人口内耳によって生成される音は通常の聴力で聴いた音とは異なります。しかし、技術の進歩の恩恵もあり、人口内耳の移植は多くのろう者にとって現実的な選択肢になりつつあるといえるでしょう。
人工内耳移植を受けるには、次のような基準があります。
・両耳の重度難聴、または完全な感覚神経難聴
・補聴器の効果がほとんど、またはまったく見られない
・家族が移植に意欲的、かつ協力的で、現実的な期待を持っている
・音声言語を習得した後、聴覚が失われた
なお、人工内耳移植を受けた人は、ろう者との仕事経験のある専門家から聴覚とコミュニケーションのトレーニングを集中的に受ける必要があります。
聴力を大きく回復できるような薬や治療、聴覚機器は、日々進歩を遂げています。しかし、難聴を長期間放置してはいけません。放っておくとどんどん悪化し、それによりうつ病やストレス関連の病気につながる可能性があります。なるべく早く医師にかかりましょう。