記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
日本では主に北海道エリアにおいて、キタキツネを原因とする寄生虫病が人々を長年の間悩ませています。それがエキノコックス症です。
人への感染はまれですが、もし感染した場合、重篤になることもあります。どのような症状が出てくるのでしょうか?
エキノコックス症は、包虫症とも呼ばれ、エキノコックスという寄生虫の卵で汚染された食物や水を人間が摂取することによって引き起こされる感染症です。
この寄生虫は、日本ではキツネと野ネズミ、犬などに寄生する微小な条虫で、卵が人の体内に入ると臓器(肺、脳、肝臓など)に定着し、大きな嚢胞(のうほう)を形成する可能性があります。
人への感染はまれといわれていますが、感染した場合は肝機能などに障害を起こし重症化する場合もあります。そして、治療しないまま放置すると、死にいたる危険もあるのです。
エキノコックスに感染した場合でも、嚢胞の増殖はとても遅いため、約10年間は症状が全く現れないことが多く、発症した場合は以下の症状が現れます。
エキノコックスは大人も子供も年代関係なく感染する可能性があります。
ただ、感染してから症状が現れるまでの期間は子供の方が短く、一般的には子供の場合5年ほどで肝臓にのう胞が形成されます。一方、大人はのう胞が形成されるまでに10年ほどかかるとされており、その分症状が現れるまでに時間がかかります。
また、子供の方が肺や脳にまでエキノコックスが移動することが多く、咳や血痰、呼吸困難などの呼吸器症状、頭痛やけいれんなどの神経症状が現れる可能性が高くなります。
エキノコックス症は、犬などのペットや家畜など、動物と密接に接触する習慣がある国での感染が報告されています。
米国では、主に南西地域、及びアラスカでみられるとされ、日本では北海道での感染が主となっています。しかし近年、北海道の全域まで感染地域が広がっていることが認められ、わずかではありますが本州での感染も報告されているので注意が必要です。
人間への感染ルートとしては、感染した犬や家畜の糞便にさわったり、糞便に汚染された食物(とくに山菜や野菜など)や飲料水を摂ることによって発症するルートが多いと考えられます。
また、感染した犬や家畜と遊んだり、触れたりして感染する可能性がありますが、人から人に感染することはありません。
人への感染源となるのは、エキノコックスの卵が動物を介して口から体内に入ったときです。家畜や犬など動物たちとの接触には十分、注意を払いましょう。
たとえば、以下のことに気をつけてください。
エキノコックスの症状は、風邪や他の病気でも起こりうるもののため、発見が遅れることも少なくありません。
などエキノコックスに感染する機会があり、エキノコックスに疑わしい症状があった場合は、それらの情報を告げたうえで検査を受けるようにしましょう。
エキノコックスが疑われた場合には、血液検査で抗体を調べたり、超音波やCT検査などで肝臓などの臓器に病変が形成されていないかを調べる検査が行われます。
検査自体は、一般的な内科などの医療機関でも受けることができますので、なるべく早めに受診しましょう。
エキノコックス症の予防には、虫卵が口から体内に入ってこないようにすることが重要です。そのために食べ物や飲料、そして自分が触れるものに対する衛生管理が重要です。とくに動物に触った後は、しっかり手洗いするようにしましょう。