大人のADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断基準と治療方法

2017/10/13 記事改定日: 2018/3/16
記事改定回数:1回

三上 貴浩 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 医学博士

三上 貴浩 先生

ADHD(注意欠陥・多動性障害)患者の多くは子供の頃から病気が発覚しますが、中には大人になってから診断される方もいます。では、大人のADHDではどんな症状が現れるのでしょうか?また、どのように治療を行っていくのでしょうか?

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大人のADHD(注意欠陥・多動性障害)にはどんな特徴がある?

ADHDは、多動性・衝動性・不注意を特徴とする疾患です。大人になってから通常の社会生活を送ることが困難であると気がつき、受診して診断されることがありますが、ADHDは成人してから突然発現するものではありません。多くの人が子供の時から意図せずトラブルを起こしたり怒られたりした経験があり、注意しているものの改善しないという状態が続いています。

具体的な症状としては、公共の場など静かに座って待つべき場所で静かにできず、そわそわと体を動かしたり、貧乏ゆすりをしたりします。また、大人になると人と話す前には言っていいことかどうかを考えるものですが、ADHDの人は思いついたことをすぐに口にして対人関係の上でトラブルを起こすことがあります。欲しい物があると、衝動的に購入するといった傾向も見られます。そのほか、不注意や集中力の欠如によるミスや忘れ物、遅刻が多く、仕事に支障をきたすことが多々あります。

大人のADHDの診断基準

ADHDの診断には様々な基準が用いられますが、最も一般的なのもはアメリカ精神医学会が提唱した診断基準です。具体的には、次のものに当てはまるものをADHDと診断します。

注意障害として、以下の内5つ以上が半年以上続いていること

・細やかな注意ができず、ケアレスミスをしやすい。
・注意を持続することが困難。
・上の空や注意散漫で、話をきちんと聞けないように見える。
・指示に従えず、宿題などの課題が果たせない。
・課題や活動を整理することができない。
・精神的努力の持続が必要な課題を嫌う。
・課題や活動に必要なものを忘れがちである。
・外部からの刺激で注意散漫となりやすい。
・日々の活動を忘れがちである。

以下の多動性、衝動性の症状が5つ以上半年にわたって続いていること

・着席中に、手足をもじもじしたり、そわそわした動きをする。
・着席が期待されている場面で離席する。
・不適切な状況で走り回ったりよじ登ったりする。
・静かに遊んだり余暇を過ごすことができない。
・衝動に駆られて突き動かされるような感じがして、じっとしていることができない。
・しゃべりすぎる。
・質問が終わる前にうっかり答え始める。
・順番待ちが苦手である。
・他の人の邪魔をしたり、割り込んだりする。

この二つの障害が当てはまることが診断に必要です。さらに、これらの症状が12歳までにあったことや、症状が限られた環境の中だけでなく家庭でも職場でも多くの場面で起こること、症状によって明らかに社会生活やこれまでの学業成績に問題が生じていることが重要なポイントとなります。

大人のADHDの治療方法は?

大人のADHD患者は仕事などでミスを繰り返して信用を失い、精神的に追い込まれて自信を無くし、うつなどの症状が出ていることがあります。そのため、病院での治療は、不注意や多動性、衝動性を無くすことだけを目的とするのではありません。自分自身の特性を理解して社会生活と折り合いをつける対処方法を知り、自信を取り戻すことも治療方針のひとつとなります。

具体的な治療方法には、認知行動療法や環境調整といった非薬物療法と、薬物療法があります。時間管理や忘れ物をしない工夫をする、といった社会生活を営む上で大切なことを身につけるために、行動療法などの心理社会的治療が必要となる一方、必要に応じて薬物療法も行います。

行動療法では、順序だてて考える方法や時間の使い方、環境の調整方法などを学びます。またすべて悪い方にとらえたり、ひとつ思い込むとすべてがそうであると考えるといった思考のクセやゆがみがあることが多いので、それを見つけて矯正していきます。

ADHDの治療薬の効果と副作用

コンサータ®

脳での神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンの分泌量を増やすことで、脳の機能を正常に保ち、特に注意力や集中力などを司る前頭葉の機能が活性化することでADHDの症状を改善する効果があります。
副作用としては、睡眠障害による日中の眠気や視覚障害、食欲減退による体重減少などが挙げられます。特に日中の眠気は、集中力を欠き、ADHDの症状を悪化させることもありますから注意が必要です。

ストラテラ®

コンサータと同様に、脳内の神経伝達物質の分泌を増やす効果があります。作用のメカニズムは同じですが、コンサータは一日に一回の服用で、朝飲むと活動時間の日中に効果が高く現れます。一方、ストラテラは一日二回の服用で、24時間同じ効果の持続を期待するものです。
ストラテラはコンサータよりも副作用が少ないといわれていますが、吐き気や便秘、食欲不振などが現れます。日中の眠気も現れることがありますが、コンサータよりマイルドな眠気に止まるでしょう。

 

ADHDの原因として考えられるものは?

ADHDの原因はまだはっきりとは解明されていませんが、脳の機能障害に問題があるとする説が有力です。
脳の前の部分には、前頭葉と呼ばれる部分があり、ここは自分の行動をコントロールしたり集中力を持続させたりする働きがあります。ADHDの人は前頭葉に何らかの偏りや異常があり、正常に機能していないのではないかと考えられています。

前頭葉が正常に働くためには、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が十分な量分泌されなければなりません。しかし、ADHDの人はこれらの神経伝達物質が不足していることがわかっています。そのため前頭葉の働きが弱く、偏りがでて、多動や衝動、不注意といった特徴があらわれると考えられています。

また親がADHDの場合、子供もADHDになる可能性が高いことから、遺伝的な要因も考えられています。さらに遺伝的要因に加え、出生時のトラブルや親の喫煙、飲酒など発育期の環境的要因が影響して発現するとも言われています。決して育て方が悪いのが原因ではありません。

周囲の人の対応や接し方の注意点

ADHDの人は、注意性がなく、多動で衝動的な性質があります。それゆえに、大人なら当然できると思われるような作業や動作を適切に行うことがあり、ケアレスミスや混乱が起こりやすい特徴があります。
このような特徴は一見、その人自身の怠け癖やだらしなさと思われがちですが、ADHDは脳の機能異常による障害なのです。周りの人はそのことを十分に理解し、日常で問題になる障害を個性と捉えずに病気として対応するようにしましょう。
また、ADHDの人には、一度に多くのことを要求せずに、買い物や仕事などでも一つ一つ丁寧に簡潔に頼むようにするとよいです。余裕があれば、メモを作って渡すと、混乱が防げるでしょう。また、本人が物事に集中しやすいような環境を作ることも大切です。

おわりに:うつ病に発展することもある大人のADHD。早期に治療を始めよう

大人のADHDの場合、仕事でうっかりミスが多いために繰り返し注意を受けて自信をなくし、心を病んでしまうケースも少なくありません。一日も早く自信を取り戻せるよう、専門医のもとで適切な治療を受けることをおすすめします。

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