記事監修医師
日本赤十字社医療センター、神経内科
松本 英之 先生
2017/11/1 記事改定日: 2019/2/6
記事改定回数:2回
記事監修医師
日本赤十字社医療センター、神経内科
松本 英之 先生
多くの高齢者が発症する「認知症」ですが、発症した場合はどのような治療が行われるのでしょうか。今回の記事では、認知症治療で処方される薬や、認知症の可能性のある症状、病院への受診を拒否されてしまったときの対処法などについてお話ししていきます。
認知症とは、脳の細胞が死んだり、機能が低下したためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態のことです。認知症に対しては、薬物療法と非薬物療法(リハビリやトレーニングなど)の2つの治療法からアプローチをしていきますが、認知症を完全に治す治療法は確立されていないのが現状です。そのため、基本的には「症状を緩和し進行を遅らせることで、患者さんが日常生活を送りやすいようにする」ことが治療の目的となります。
日本では、認知症の薬として「アリセプト®」「レミニール®」「リバスタッチ®パッチ(イクセロン®パッチ)」「メマリー」の4つの薬が認可されています。
「アリセプト®」「レミニール®」「リバスタッチ®パッチ(イクセロン®パッチ)」はアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に分類され、「メマリー®」はNMDA受容体拮抗薬に分類される薬です。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は複数の種類を併用することはできませんが、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のうち「アリセプト®」と「メマリー®」を併用することは可能です。
どの薬が適しているかは、認知症のタイプや重症度に応じて異なります。詳しくは下記を参考にしてください。
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症に処方される薬です。これらの認知症は、脳内のアセチルコリンという物質が減少したことが原因で起こるのですが、脳内にはアセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼという酵素が存在します。アリセプト®はこのアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害することで、アセチルコリンの濃度を高める効果があります。
1日1回3mgから服用を開始し、副作用がなければ徐々に1日1回5mgへと増量させていくのが一般的です。症状によっては5mgを4週間ほど継続した後に、10mgへ増量します。
軽度〜中等度のアルツハイマー型認知症の場合、処方される薬です。アリセプト®と同様にアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害する効果があり、さらにアセチルコリン受容体の構造を変化させ感受性を高めることで、神経伝達を助ける作用があります。
4mgを1日2回から服用し、副作用がなければ4週間ほど継続した後に、8mgを1日2回に増量します。症状に応じて1回12mgに増やすこともあります。
軽度〜中等度のアルツハイマー型認知症に適応する薬です。アセチルコリンを分解する酵素としては、先述のアセチルコリンエステラーゼだけでなく、ブチルコリンエステラーゼもあります。これらの作用を阻害するのがリバスタッチ®パッチ(イクセロン®パッチ)です。
リバスタッチ®パッチ(イクセロン®パッチ)は、認知症の治療薬の中で唯一の貼るタイプの薬であり、過剰摂取してしまった場合や副作用が現れた際、すぐ剥がすことで薬の影響の拡大を防げるというメリットがあります。
中等度〜高度のアルツハイマー型認知症に処方される薬です。認知症の人の脳内ではグルタミン酸(脳内で記憶や学習を司る神経伝達物質)が過剰に分泌されており、このために記憶のシグナルが阻害されていると考えられているのですが、メマリー®はこの過剰なグルタミン酸の分泌を抑制する効果があります。
服薬は1日1回5mgから開始し、徐々に増量していき4週間後には適した維持量にしていきます(最大で1日20mgが限度です)。
リハビリやトレーニングなどの非薬物療法は、脳に刺激を与えて認知機能や生活機能を維持させ、薬物療法の効果を高めると考えられています。リハビリやトレーニングの種類はさまざまですが、料理や裁縫を通じて脳に刺激を与える作業療法、簡単な計算問題を繰り返す認知リハビリテーション、過去に好んで聴いていた曲を聴いたり歌ったりする音楽療法、過去の出来事を思い出して語ってもらい、記憶を刺激する回想法などがあります。
認知症の進行を遅らせ、脳の機能を維持するためには、先述の治療だけでなくご家族のサポートも欠かせません。介護中にイライラしてつい怒りたくなってしまうこともあるでしょうが、そういったストレスをぶつけられると、患者さんが動揺して症状が悪化したり、別の症状が現れたりする恐れがあります。
ただ、認知症は患者さん本人だけでなく、それを支える介護者の負担も大きいため、「介護者への介護」という視点を含めての治療を行っていくことも非常に大切です。介護するのが精神的に辛くなってきたら、デイケアなど第三者の手を借りることも大切です。介護保険や社会支援制度など、活用できるものはないか、ぜひ一度見直してみてください。
認知症の患者さんは認知機能障害があるために、自分が何をしたかなどを記憶できていません。このため、家族に認知症を指摘されても、なぜそう言ってくるのかを理解できずにいます。その状態で無理やり病院に連れて行こうとしても、理不尽に攻撃されているようにしか思えず、「自分はおかしくないから治療を受ける必要はない」と病院への受診を拒否する傾向にあります。
認知症の治療を拒否されたからといって、騙して病院に連れていくと患者さんの不信感が増大します。そのため、最近あったもの忘れのエピソードを具体的に本人に説明し、早く受診すればその分進行を遅らせることができることを話し、納得してもらうようにしてください。「家族は心配しているから、家族のためにも病院を受診してほしい」と一言添えるのもいいでしょう。
認知症の治療や介護には金銭的に大きな負担がかかります。
まず、認知症の治療を始める前には様々な検査が必要であり、健康保険を適応しても5000~20000円もの費用がかかるのが相場です。また、治療のためには定期的な通院によって投薬治療や経過観察のための検査が必要になり、年間で10万円程度の費用が生じます。
さらに、介護に必要な費用は介護度や利用するサービスなどによって異なりますが、平均月額は8万円とのデータがあります。
このように、認知症を発症した場合は医療費や介護費が大きな負担となります。年間10万円以上の医療費が控除になる医療費控除や公的介護保険を利用した高額介護サービス費などを利用して、少しでも負担を軽減できるようにしましょう。
制度についてよく分からない場合は、通院中の病院やお住いの自治体などに問い合わせてみましょう。
認知症に対する完全な治療法は確立されていませんが、症状を緩和し、進行を抑えるためにできることはたくさんあります。そして、効果的に治療を進めるにはご家族の協力が欠かせません。病院や介護施設とうまく連携をとりつつ、ご自身のライフスタイルも大切にしながら治療に臨んでいきましょう。