東京都医師会理事 目々澤肇先生インタビュー(前編)

2017/11/1

地域包括ケアが言われて久しいですが、それに伴い、どこの医療機関も「病病連携」「病診連携」に真剣に取り組むべき状況となっています。積極的に動いてきた医療機関のリーダーシップの下で、地域ごとに連携の形ができているのが現状ではないでしょうか。しかし、1300万人を超える人口を抱える首都東京では、その事情も複雑です。江戸川区で1933年に開設された目々澤醫院の第3代目院長であり、スウェーデンへの留学経験を持つ神経内科医である、東京都医師会理事の目々澤肇先生に、最新の状況を伺います。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

複数のベンダーが混在し、システムの接続の困難に直面

―2011年に東京都医師会の理事に就任されて以来ずっと、医療情報のICT化にご尽力されてきました。

就任して、まずは東京都全体の患者さんの受療行動把握から始めました。地域包括ケアの実現に向けては、患者さんがそれまでに受けられてきた医療情報を医療者にきちんと開示できるシステムが必要ですが、日本国内のいくつかの地域では基幹病院を中心にその地域なりのシステムを構築される形で進められていました。東京都においては患者さんが診療を受ける際の動き方に特徴があり、疾病が発生した急性期には都心部の大病院に集中し、病状の落ち着いた慢性期には自宅近くのかかりつけ医の下に戻られたり、あるいは場合によっては千葉県、埼玉県など近県を含む都下周辺地域に移って療養生活に入られたりと、分散してゆくという傾向があります。そのため、区や市に限定されない、東京都全域をカバーするネットワークが必要でした。

―首都東京ならではの状況ですね。

そこで2014年11月に都内の500床以上の病院を調査したところ、約4割では電子カルテが導入されているものの、地域医療連携に活用しているのはそのうちの2割に留まっていることが分かりました。また、既存の電子カルテ間を連携しようにも、各自で導入が進められたためにベンダーがまちまちで容易ではない事実もわかりました。
それを受け、2015年2月に東京都医師会では地域医療連携システム検討委員会を立ち上げ、検討を重ねた結果、当時それぞれ17件、7件の病院で採用されていた地域医療連携システムである富士通のHumanBridgeとNECのID-Link各々のデータセンター間をIHE規格でつなぐことで、厚生労働省の定めたSS-MIX2形式で記録された相互のデータをある程度参照、閲覧可能にできる道筋がつけられたのです。これを「東京総合医療ネットワーク」と名付け、2017年9月に同運営協議会を設立して都内の全病院に対して同ネットワークへの参加を呼びかけを行い、2018年4月からの運用を予定しています。

病院から診療所まで、双方向での情報共有をめざして

―実際に連携によって共有できるデータとはどのようなものですか?

現時点では注射、処方、検査データが共有でき、運用開始の2018年4月にはこれに病名とアレルギー情報も加わる予定です。退院サマリーも近々共有可能となりそうで、かなり充実した形で連携に役立つのではないでしょうか。MRIなどの画像データまで共有できればさらに強力ですが、それにはまだもう少し時間がかかるかもしれません。

―連携自体の発展形はどのように描かれていますか?
現時点でも、富士通、NEC以外のベンダーのシステムでも連携が可能と考えられていますが、この種類は増やしていきたいですね。そうすれば、ある程度形成されている大学病院とその関連病院、その登録医となっている地域の診療所といったグループ同士が複数つながっていく形ができ上がります。また、一方向のみの閲覧権限だけでなく、双方向に共有できるようになっていけばさらに利便性も増すでしょう。ただ、もちろんネットワーク内で情報が全て筒抜けというのではなく、紹介状のやり取りが発生した範囲での情報共有に留めるのが良いだろうと考えています。

私自身も江戸川区で目々澤醫院という診療所を陸軍軍医だった祖父の代から営んでおり、近隣の慈恵医科大の葛飾医療センターの医療連携の輪に入れていただいています。ただ、あちらの連携システム画面には入れますが、紹介患者さんの初診予約ができるのみで、そちら側にある患者さんの医療情報を見られるには至っていません。それでも、まずは情報共有のためのこうした入り口を持たねば始まらないでしょう。この輪を広げて、患者さんのためになり、医療者のためにもなるように活用されることを願っています。

患者の利便を最大限に図りながら、診断に必要な情報を余すことなく提供可能に

―医療情報ネットワークを活用するメリットとは何でしょうか?

患者さんを紹介する医師の側から言えば、診療情報提供書を作成する際にはその方の今までの医療情報をかなり細かく添付する必要もあり、手がかかる面があります。例えば当院の場合ですと私が診療の手を止め、患者さんをお待たせして紹介状の作成や添付資料のプリントアウトを用意するわけですが、ネットワークでつながっていれば紹介状の作成のみ。あとは紹介先の先生が必要と思えば、処方の履歴でも過去の検査データでもご自由に見ていただけるわけです。

紹介される病院の側にもメリットがあって、こうしたシステムを通じて受領した医療情報を紹介患者さんの診療に活用すると、診療報酬で電子的診療情報評価料30点を算定することができるのです。実際に、病院の医事課からこの点数の算定についてお問い合わせをいただくことは多いので、システムの普及や活用を後押ししていると言えるでしょう。

問題は費用面ですが、病院は既存のシステムがあればIHE規格による接続には大きな費用がかかりませんし、システムを新規導入およびバージョンアップする際にも、地域医療介護総合確保基金に基づく東京都の補助事業(東京都地域医療連携ICTシステム整備支援事業)が利用できます。

大変なのは診療所で、病院のように大規模な電子カルテやシステムを導入するのは難しいものです。そこで、費用的に導入しやすいクラウド型の電子カルテの業者にネットワークへの参加をお願いしています。CLIPLA(クリプラ)、DigiKar(デジカル)、NOAX(ノアックス)という3社の電子カルテが協力を表明されているので、将来的には診療所をも含めた双方向のネットワークをめざしたいですね。

―東京でまず、ベンダーを超えたネットワークの連携事例を作っていくわけですね。

そうですね。本来は、国がベースとなるネットワークを構築して、都道府県がそれに紐付けられる形で発展していければよかったのですが、そうも言ってはいられません。それぞれの地域でのネットワーク化も進んでおられますが、さらにつなげていければよいですね。

実は、外国ではスウェーデンが国を挙げて、東京都のような進め方をしています。国の人口がちょうど東京都と同じくらいの1000万人程度で、国土はうんと広いですが都市が点在しています。ストックホルムやウプサラなど中心となる県とスコーネなどの地方では財政状況も異なるので、国全体では病名と処方だけを共通に見られるようにしていて、その他の情報については県ごとにできる範囲での対応です。ちょうどよいお手本ですね。

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