脳膿瘍(のうのうよう)とは、何が原因で発症する?

2017/10/31 記事改定日: 2018/12/4
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

脳膿瘍(のうのうよう)とは、細菌に感染することによってできた膿が脳を圧迫する病気です。初期のうちから頭痛や発熱、嘔吐などの脳腫瘍(のうしゅよう)と似た症状が現れるので鑑別が難しいといわれています。
この記事では、脳膿瘍の原因や症状、治療について解説しています。

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脳膿瘍(のうのうよう)とは

脳膿瘍とは、細菌感染によって生じた膿が脳の中や脳の周囲に溜まる疾患です。脳は通常は完全な無菌状態ですが、中耳炎、副鼻腔炎心内膜炎など身体の他の部分の炎症や外傷などにより、脳内に細菌が侵入することで発病します。

主な症状として、発熱・頭痛・嘔吐・けいれん・麻痺・感覚障害などが挙げられます。

早い段階で膿を除去しないと、めまいや吐き気に加え意識障害まで引き起こし、正常な脳機能を失うおそれがあります。予後は改善されていますが、現在でも死亡率は20%程度であり、救命できても30~55%で痙攣、行動変容といった神経学的な後遺症が残るとされます。

日本での発生確率は1万人に4人から9人程度の割合とされ、一般に若年者および男性に多い傾向があります。またHIV感染者や臓器移植後などで免疫抑制剤を内服している人の罹患確率はより高いとされます。

脳膿瘍が起こる原因とメカニズム

脳膿瘍は、細菌や真菌(かびの仲間)による炎症が脳に起こり、脳の中に膿がたまった状態です。原因菌としては連鎖球菌、ブドウ球菌が多く、腸内細菌や嫌気性菌の場合もあります。

発症のメカニズムは、次の2種類に分けられます。

脳膿瘍の原因の約3分の2は、脳の隣接部(副鼻腔、歯・口腔など)で起きた感染が、骨や硬膜を壊し、脳に広がって生じることにあります。中耳炎、副鼻腔炎、頭部の手術や脳に及ぶ頭部の外傷、頭蓋骨骨折などが感染源です。

原因の約3分の1は心内膜炎、気管支炎、気管支拡張症などであり、遠隔臓器(肺、心臓など)で生じた感染が血液を介し脳に流れついて起こります。

脳膿瘍の発症メカニズム

脳膿瘍は通常脳の内部にできます。そして周囲の脳に強い炎症を起こし、脳が腫れる(脳浮腫を起こす)ため、頭蓋骨内部の圧が上昇し、頭痛や吐き気をもたらします。また脳膿瘍自体、もしくは周囲の浮腫によって、その部分が担当している機能が影響され、麻痺や言語障害をひき起こします。

脳膿瘍の症状

脳膿瘍は、白血球過多を伴う一方、脳圧の亢進は比較的軽く、うっ血乳頭も比較的軽度なことがほとんどです。しかし早期から脳腫瘍と似た状態を示し、識別が難しい場合もあります。

具体的には、約7~8割に頭痛がみられ、約半数で発熱や嘔吐・悪心が現れます。できる部位によっては、膿瘍の悪化に伴い、下半身麻痺、痙攣、精神障害といった脳の局所症状も出やすくなります。このように膿瘍によって脳が圧迫されることで、脳が損傷を受け機能不全を起こします。

脳膿瘍の診断には、感染症としての一般的な症状・血液検査データとCTやMRIなどの画像検査が必要です。

脳膿瘍は、どのように治療するのか

脳膿瘍の治療法には薬物治療(抗生物質投与)と外科的治療の2種類があり、脳神経外科や感染症内科のある医療機関を受診することが望ましいとされます。

薬物治療

脳膿瘍が小型で、すでに感染性心内膜炎の診断がついているといった場合には、速やかに薬物治療(抗生物質投与)を開始します。脳膿瘍による脳浮腫に対しては、浸透圧利尿薬(グリセリンやマンニトール)の点滴を行います。

手術

脳膿瘍が2~3cmよりも大きい場合には、これ自体が周囲の脳をかなり圧迫していることも多いため、手術によって取り除きます。
感染性心内膜炎などがあって全身麻酔が難しい場合などは、局所麻酔で頭に小さい孔を開け、管を挿入して洗浄のみを行う場合もあります。患部内はどろどろした膿のことも多く、この膿を取り除いたり、管を留置して、内部を抗生物質で洗浄したりすることもあります。その後抗生物質を1~2か月投与し、取りきれなかった膿の中の細菌を殺します。

脳膿瘍とてんかん

てんかんとは、脳の一部の神経細胞が突発的に異常な電気的興奮を生じることで、けいれんや意識消失などの症状を引き起こす病気です。

てんかんの原因は様々ありますが、脳の中に何らかの病変が生じ、そこで神経細胞の異常興奮が促されることが原因となるケースがあります。脳膿瘍もその原因の一つであり、てんかん発作を引き起こすことがあります。てんかん症状の程度などは脳膿瘍ができた場所や大きさなどによって異なりますが、てんかん発作が脳膿瘍発見のきっかけとなることも少なくありません。

また、手術によって脳膿瘍を切除した後でもてんかんの症状が残ることがあり、治療後も長期間にわたる抗てんかん薬の投与が行われるのが一般的です。

おわりに:非常に珍しい病気だが、治療が遅れると重症化することも

脳膿瘍はまれな病気です。さらに直接確定診断できることは少なく、さまざまな病気が否定されてはじめて診断に至ることが多いとされます。
診断や治療が遅れると予後が不良になるため、頭痛や発熱が続き痙攣などが生じた場合は、脳神経外科や神経内科等の専門医の診察を早期に受けることが重要です。

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