記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/12/7 記事改定日: 2019/12/2
記事改定回数:2回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
腹部の臓器でがんが発生している場合、発症する恐れがあるのが「がん性腹膜炎」です。今回の記事ではこのがん性腹膜炎について、症状や原因、治療法などを解説していきます。
がんができると、がんができた臓器でがん細胞が増殖して、その臓器の機能に障害が起こります。
そこからさらにがん細胞が大きくなると、他の臓器にまでがん細胞が増殖していきます。
そして、このがんが腹膜(消化器や肝臓を覆っている膜)に転移して炎症を起こした状態になっているのが「がん性腹膜炎」です。
これは「がん細胞の転移」で起こるものなので、がん性腹膜炎の症状だけでなく「元のがん」の症状も併発します。
すべてのがんががん性腹膜炎を引き起こす可能性がありますが、原因となるものでとくに多いがんは、以下の通りです。
がん性腹膜炎を起こすと、その先の進行が速くなります。
がん性腹膜炎は、消化器系・生殖器系のがんが腹膜に転移することが原因です。
それぞれの部位でできたがんが増殖して、お腹の中にがん細胞が剥がれおちると、腹膜にがんが転移します。転移したがんは腹膜を刺激することになるので、この刺激を緩和しようと腹水を作り出します。
また、がんの外科的手術でがん細胞を切除したときに、がん細胞を突き破ってしまうことが原因になることもあります。
これは、突き破った部分からがん細胞がこぼれ、それがお腹の中に入ってしまうことが原因です。
がん性腹膜炎は腹膜に炎症が起こっている状態です。そのため腹水がたまり、お腹に強い痛みが出たり、発熱を起こしたりします。
そうして腹水が胸を圧迫するようになると、不整脈が起きたり呼吸がしづらいといった症状があらわれます。
腹部が圧迫されている場合は、胸やけ感や嘔吐が起こります。なお、腹水には血液中の多くのたんぱく質が流出しているので、たんぱく質が不足してしまう栄養失調の状態に陥ってしまうこともあります。
がん性腹膜炎が長期間続くと、腸が癒着して腸閉塞を起こすリスクが高まります。腸管が破裂してしまうこともあり、この状態になると延命治療が難しくなってきます。
また、がん性腹膜炎は元のがんも進行していることがほとんどのため、元のがんができている部位にも強い痛みが出ることになります。
がん性腹膜炎を起こしている人のほとんどは「がんの末期」になっています。
そのため、がんそのものに対する有効な治療は少なく、がん性腹膜炎の症状に対する対症療法に留まることが多いでしょう。
腹水がたまっているときには、針を刺して腹水を体外へ出す治療や、利尿剤を用いて余分な水分を体外へ出す治療が行われます。
腎機能が低下しているときには膀胱が腫れてしまわないように利尿剤を使用します。
がん性腹膜炎による腸閉塞や排便機能の低下には、人工肛門を作ったり、消化器から直接排便できるような管をつけます。
そして、痛みに対しては鎮痛薬を服用し、栄養状態の改善のために高カロリーの輸液を行うこともあります。また腹膜に直接抗がん剤を投与するという治療が行われることもあります。
がん性腹膜炎の末期症状には以下のようなものがあります。
これらの症状が生じるようになると、がんを根本的に治すことは困難であり、「いかにして患者の苦痛を取り除くか」ということが治療の主体となります。予後は悪く、余命は人によって異なりますが、数週間単位であることが多いでしょう。
治療は、お腹に管を通して腹水を抜いたり、腹水をできるかぎり減らすよう利尿剤などを用いた薬物治療が行われます。また、強い痛みに対してはオピオイドなどの医療用麻薬などを用いて緩和させる必要があります。
さらに、尿管閉塞が生じている場合には尿管ステント挿入、嘔吐を改善するために胃や小腸に管を通して減圧するといった対症療法が行われることもあります。
CART療法とは、腹水の中に含まれる細菌やがん細胞など体に有毒な物質を濾過し、体に必要なアルブミンなどを回収して体内に戻す治療法です。
上で述べたようにお腹に管を通して溜まった腹水を抜き、その腹水を人工透析用の機械にかけて濾過します。そして、身体によい成分のみが含まれた濾過された腹水を点滴によって体内に戻します。
メリットとしては、腹水の除去によって生じる低アルブミン血症の予防ができることです。
しかし、腹水を体内に戻すことによって一時的に発熱を引き起こすことがあり、体内に戻す腹水に何らかの感染が生じていると敗血症になりやすいなどのデメリットもあります。
CART療法はメリットもあればデメリットもありますので、治療を行うか否かについては医師とよく相談して決めるようにしましょう。
がん性腹膜炎を発症した場合、腹水が圧迫する部位によって現れる症状は異なり、またそれぞれで必要な治療法も異なります。また、進行度によっても治療の目的が変わってきます。
治療の内容や目的についてはきちんと医師に説明してもらい、納得したうえで治療を受け、QOLを維持していきましょう。
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