がんの疼痛コントロールの方法と終末期の緩和ケアのポイント

2017/8/15 記事改定日: 2020/10/14
記事改定回数:2回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

疼痛とは痛みのことです。この記事ではがんの痛みを和らげるために薬などで行われる疼痛コントロールについて解説します。1986年にWHOが示した指針が世界中で採用され、がんの疼痛コントロールは新しい時代に入っています。ここでは、疼痛コントロールの目標と終末期の緩和ケアの注意点を説明しています。

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疼痛コントロールではどんな方法で痛みにアプローチする?

疼痛コントロールとは、ひと言で言うと、患者さんのがんによる痛みをモルヒネなどの薬を用いて緩和することです。
がんも初期であれば鎮痛剤で効果を得ることができますが、病状が進むにつれて痛みが増していきます。そこで下記のような治療法を用いて、患者さんの痛みを抑えていきます。

  • モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬
  • 放射線治療
  • 抗がん剤治療 など

従来のがんの痛みの考え方と疼痛コントロールの三段階の目標

1986年にWHO(世界保健機関)が発表した「WHO方式がん疼痛治療法」では、「すべてのがん患者は、痛みから解放されねばならない」ということが示されています。
この考え方が広がることによって、多くの医院や施設でがん治療における疼痛コントロールの占める割合が大きく変わってきました。

WHOの指針が発表されるまでは、がんを取り除くための手術など、がんそのものの治療がまず行なわれてきました。そして、がんの治療が効果を上げなくなった段階(多くは末期)になってから、疼痛の治療に取り掛かるというものがほとんどだったのです。

このWHOが提唱する治療法が与えた影響は、がんと診断された瞬間から「痛みに対する治療」も行なわれるようになったことでした。

疼痛コントロールの目標は、下記のように段階分けされています。

第一段階
疼痛に睡眠を妨げられない状態
第二段階
安静にしていれば疼痛を感じない状態
第三段階
体を動かしていても疼痛を感じない状態

疼痛コントロールの薬の副作用の症状や期間は?

がんのステージがある程度進んだ段階で、疼痛コントロールにもっとも使用されるのは、モルヒネやオキシコンチン、フェンタニルなどのオピオイド鎮痛薬です。

オピオイド鎮痛薬には以下のような副作用があります。

吐き気・嘔吐

初めて使用したときによく見られる症状ですが、吐き気止めなど、副作用を抑える薬を服用することで、1、2週間でよくなります。

便秘

そもそもオピオイド鎮痛薬は下痢止めとして使用されることがある薬です。そのため、がんの疼痛コントロールとして使用された際の副作用として、便秘の症状が現れることがあります。

対処法としては、便秘薬(センナ)や下剤(緩下剤)を使用します。便秘、そして便が硬くなるといった症状は、モルヒネなどの医療用麻薬を使用しているほとんどの人にみられ、下剤による排便コントロールが必要となります。
吐き気と違ってオピオイドを使用している限り便秘は持続します。従って長期にわたって便秘薬を併用する必要があります。

眠気

これも多くの患者さんにみられる症状です。しかし、その多くは1週間程度で軽減します。その後も続くようであれば、医師や看護師、薬剤師に相談してください。

痛みが原因で不眠が続いていたような場合は、痛みがとれることによって、数日間はほとんど眠っているような状態になることがあります。これは寝不足によるもので、副作用とは違うものです。

心と体に寄り添うがん終末期緩和ケアの注意点

がん終末期は全身に様々な痛みが生じ、さらに「胸水貯留」による息苦しさや「腹水貯留」によるお腹の腫れなど様々な障害が生じます。
動くことが困難になるばかりでなく、安静にしていても様々な苦痛が生じたり、睡眠障害が引き起こされることもあります。

がん終末期の症状
  • 息苦しい(胸水貯蓄)
  • お腹が腫れる(腹水貯蓄)
  • 動くことが難しくなる
  • 安静状態でも痛みを感じる
  • 睡眠障害 など

このような苦痛をできる限り取り除いて患者さんが落ち着いた生活を送れるように試みる治療が「緩和ケア」です。緩和ケアでは、体の苦痛を取り除くだけでなく、迫りくる死に対する恐怖や不安への精神的ケアも必要になります。

患者さんの家族は、このような精神的なケアを行ううえで非常に重要な存在です。常に患者さんに寄り添って身体的な苦痛の訴えや不安などといった精神面での問題を傾聴して、必要であれば医療へつなげることも大切です。

緩和ケアには在宅で行う場合と、緩和ケア病棟などに入院する場合がありますが、そのどちらを選んだとしても患者さんやその家族になるべく無理がかからないように工夫して、ときにはゆっくり休むようにしましょう。

関連記事:緩和ケアっていつから受けられるの?早いほうがいいって本当?

家族が適度に休むためできること

在宅で緩和ケアを行っていくには、患者さんをほぼ24時間体制で支えていく家族にも精神的・身体的に大きな負担が生じることになります。核家族化が進む現在、少人数の家族のみで患者さんを支えなければならないケースも多く、なかには家族が体調を崩して「共倒れ」になってしまうことも少なくありません。

このような事態を防ぐためには、家族も適度な休養を取ることが大切です。医療行為が可能なデイサービスやショートステイなど家族の一時的な休息のために患者さんを受け入れる施設を積極的に利用しましょう

利用できる施設については、担当のケアマネージャーのほか、地域包括支援センターや保健所などの公的機関で相談することができます。お住いの自治体によって相談窓口などは異なりますので、まずは市町村役場などに問い合わせてみましょう。

おわりに:疼痛コントロールは薬による治療や心へのケアも!家族のサポートも欠かせません

がんの疼痛はオピオイド鎮痛薬によってコントロールし、患者さんが日常でも痛みを感じないようにすることが普通になってきました。患者さん自らの医師や看護師に対する発信と、それをサポートする家族の力が、疼痛コントロールに必要です。患者さんの思いや希望が叶う治療が実現するように、みんなで協力しましょう。

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