記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
2017/12/18 記事改定日: 2020/10/6
記事改定回数:3回
糖尿病患者さんが注意したい急性合併症「糖尿病性ケトアシドーシス」。何が原因で発症し、どんな症状が起こるのでしょう。治療法とあわせて糖尿病性ケトアシドーシスの基礎知識をお伝えします。
糖尿病の合併症には時間を掛けて進行する「慢性」のものと、異常に高まってしまった血糖値によって引き起こされる「急性」のものがあります。糖尿病性ケトアシドーシスは、このうち急性の合併症に分類されるもので、糖の代謝機能が極端に低下することで引き起こされる症状です。
糖尿病性ケトアシドーシスはインスリン不足が原因で起こります。1型糖尿病患者さんの場合はインスリン注射を施さなかったときに糖尿病性ケトアシドーシスが起こる可能性があります。
2型糖尿病の患者さんの場合は、清涼飲料水の飲みすぎによって「ソフトドリンクケトーシス」と呼ばれるケトアシドーシスになることがあります。
これは、甘い飲み物を1日に何リットルも飲むと一度に大量の糖が体の中へ入ってきてしまい、血糖値を下げる臓器である膵臓が対応しきれなくなるためです。そうすると、血糖値が急に上昇して昏睡(こんすい)を引き起こします。ブドウ糖は甘いジュースだけでなく、スポーツドリンクなどにも含まれていることが多いので、注意が必要です。
糖尿病ケトアシドーシスの患者さんの内、20%~30%が2型糖尿病であったという報告があることからもわかるように、糖尿病ケトアシドーシスはインスリン注射を行っていない糖尿病患者さんにも起こる可能性がある急性合併症です。
糖尿病性ケトアシドーシスでは一律して同じ症状が出るわけではなく、患者の体質や状況によって様々な症状見られます。その中でも、特徴的な症状は以下の3つです。
また、糖尿病性ケトアシドーシスによって引き起こされた脱水症状や感染症が、腎臓や肝臓などの臓器に負担をかけたり、血栓症(血管の中に血の塊ができて血液の流れを妨げる病気)を起こして脳や腸管や足の動脈を詰まらせる危険性もあります。
高血糖の症状と悪心・嘔吐・腹痛などの消化器の症状、またグルコースが尿の中に大量に排泄されることで起こる浸透圧利尿によって、体液や電解質が失われて、喉の渇きや脱水状態が起こります。
糖尿病性ケトアシドーシスが進行した場合には意識障害が現れたり昏睡状態になったりと、放置すると極めて危険な状況に陥る可能性があります。また、まれに脳浮腫がみられることもあります。
脱水やアシドーシスになると、速く深い呼吸(クスマウル呼吸)がみられることがあります。吐いた息にはアセトンが含まれるため、果物のような香りがするという特徴があります。
糖尿病性ケトアシドーシスは緊急の治療を要する症状なので、入院(通常は集中治療室への入院)が必要になることが多いです。
病院では主に、水分と電解質及びインスリンの静脈内投与による対処が行われます。一般的に、大量の水分に加えて排尿の増加によって失われたナトリウム、カリウム、塩素、リン酸などの電解質を点滴で補給します。
インスリンは早く作用させて量を頻繁に調整できるように、静脈内投与されることが多いです。ブドウ糖、ケトン体、電解質の血中濃度を数時間毎に測定し、加えて血液中の酸の値も測定して状態をみます。
状態によっては血液の酸性度を正常に戻すために追加治療が必要になることがありますが、通常はインスリンによって血糖値をコントロールして電解質を補うことで回復します。
糖尿病ケトアシドーシスの予防法は1型か2型であるかによって異なります。
1型糖尿病の場合、インスリン注射を欠かさないことが大切です。
インスリン注射によってある程度の危険性は抑制できますが、体調によっては規定量のインスリンでは抑えきれないケースも出てくるので、違和感や体調の異変を感じたら血糖値を測定したり医療機関を受診するようにしましょう。
2型糖尿病の場合、インスリン治療を欠かした場合や、過度に暴飲暴食した時に発症リスクが高くなります。1型糖尿病よりも発症の割合は少ないものの、過度に糖分を摂り過ぎないように注意する必要があります。
糖尿病性ケトアシドーシスは上述したように命に関わることもある重篤な合併症の一つです。次のような症状は糖尿病性ケトアシドーシスを発症しているサインかも知れませんので注意が必要しましょう。
また、糖尿病性ケトアシドーシスが疑われる症状が現れたときは、速やかに血糖値を下げる治療が必要です。日ごろから血糖値の自己測定を行っている人は血糖チェックを行い、250mg/dL以上の場合は速やかに病院を受診しましょう。また、血糖値の自己測定を行っていない人も、できるだけ早く病院に行って治療を開始できるようにしてください。
糖尿病性ケトアシドーシスは喉の渇きや脱水症状だけでなく意識障害や昏睡状態を引き起こす可能性のある、糖尿病の合併症の中でも危険性の高い病気です。1型糖尿病の場合も2型糖尿病の場合も血糖値の急上昇に注意して、未然に発症を防ぐようにしましょう。