記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/12/21 記事改定日: 2020/9/23
記事改定回数:2回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
肝がん(肝臓がん:肝細胞がん)はある程度進行しないと自覚症状が現れないことも多く、発見したときには既に末期になっているケースもあります。この記事では、肝臓がんの症状と治療の進め方、末期の緩和ケアについて解説しています。
肝がんは進行するまで自覚症状が現れにくいのが特徴です。
肝がんを発症すると、徐々に肝臓の細胞を破壊されて肝機能が低下していきます。しかし、肝機能は低下しても、ある程度進行するまで症状が現れないことが多いのです。
血液検査では、ALTやASTなどの肝臓機能を反映する数値が徐々に上昇し、AFPなどの肝がんの腫瘍マーカーの上昇が認められるようになります。
ある程度肝機能の低下が生じると、肝臓での有害物質の解毒が行われなくなります。倦怠感や疲労感、胆管などが詰まることによる黄疸、黄疸に伴う皮膚のかゆみなどが現れます。
腹部にしこりや痛み、圧迫感などを生じることもあります。また、肝機能が非常に低下した状態となるため、体内にアンモニアが過剰に蓄積して意識障害を引き起こす「肝性脳症」を発症したり、体内に水分が蓄積して腹水や浮腫(むくみ)などが見られるようになります。
また、肝臓の重要な機能の一つである血小板の産生を促すトロンボポエチンの産生が低下して、血小板数が減少することで出血しやすいなどの症状が現れます。
肝がんの治療は、肝機能の状態やがんの大きさ、数、転移の有無によって異なります。
肝機能がある程度保たれており、がんの数が3個以内で他臓器への転移がない場合はがんを取り除くための手術が第一に行われます。
がんが大きい場合は、術前に動脈塞栓術を行って腫瘍を縮小させてから手術を行うことも少なくありません。
その他にも、体への負担が少ない治療法として、ラジオ波焼灼療法、マイクロ波凝固療法、エタノール注入療法などの局所療法も選択することが可能です。
多くのがんでは、遠隔転移をしている段階で末期とされます。肝がんでは遠隔転移がなくても、リンパ節転移のある場合や、腫瘍の数が2個以上の場合に末期とされることがあります。
また、肝臓がどの程度ダメージを受けているかによってA・B・Cの3段階に分類する肝障害度分類も重視されることもあり、この分類によって治療法も変わってくることになります。
肝臓のダメージの程度は、次のようにA・B・Cの三段階に分類されます。
最も軽度なステージです。
肝機能の状態を示す血清ビリルビン値・血清アルブミン値・ICGR15・プロトロンビン活性値がそれぞれ、2.0未満、3.5以上、15未満、80以上の基準を満たし、さらに腹水の貯留を認めない段階を指します。
中程度のステージです。
同じく肝機能の状態を示す検査結果が、血清ビリルビン値:2.0~3.0、血清アルブミン値:3.0~3.5、ICGR15:15~40、プロトロンビン活性値50~80を満たし、かつ腹水はあるものの治療によって減少するという条件を2つ以上満たす段階を指します。
最も重度なステージです。
同じく肝機能の状態を示す検査結果が、血清ビリルビン値:3.0以上、血清アルブミン値:3.0未満、ICGR15:40以上、プロトロンビン活性値:50未満、かつ治療によっても減少しない腹水があるという条件を2つ以上満たす段階を指します。
肝臓は、「沈黙の臓器」と呼ばれるほど症状が出にくい臓器です。それでも末期になると肝機能は著しく低下し、さまざまな症状が現れます。
さらに、有害物質を解毒するという肝臓特有の作用が低下することによって、脳の神経が有害物質に障害され、肝性脳症と呼ばれる症状が現れることもあります。肝性脳症を起こすと認知症のような状態になったり、昏睡状態に陥りそのまま命を落としたりすることもあります。
リンパ節や骨など、他の臓器への転移も起こります。骨転移した場合は骨の激しい痛みを起こすなど、転移したがんは、それぞれの臓器に応じた症状をもたらします。
肝がんの代表的な治療方法には、がんの切除や肝臓移植のほか、皮膚の上から針を刺して肝臓のがん組織を直接治療する局所療法、肝臓へ流れ込む血流を遮断することでがんを壊死させる肝動脈塞栓術などがあります。
肝がん末期の状態で全身に転移が見られる場合には、がんの切除は行わないことがほとんどです。この場合には、抗がん剤を用いた化学療法や放射線療法によって、転移したがんの進行や、がんによる症状を抑える緩和的な治療が行われます。
ただし、肝臓は放射線に弱い臓器であり、化学療法も効果が出にくいとされているため、抗がん治療そのものを行わないケースもあります。
肝がんは他のがんに比べて、治療が難しいがんといわれています。また、肝がん末期の場合にはすでに行える治療がないケースもあり、予後に関しては非常に厳しいことも多いようです。患者とその家族は、身体に現れるさまざまな症状や痛みだけではなく、こうした厳しい現実にも向き合う必要が出てくるため、緩和ケアがとても大切になってきます。
緩和ケアで行う治療は、次の2つが代表的なものです。
たとえ完治ができなくても、最期までその人らしく生きられるようサポートすることが、大切な治療の一環となるといえるでしょう。
自覚症状を感じたときにはすでに行える治療がないケースもあるほど、肝がんは早期治療が難しいとされています。末期の場合には、緩和ケアによって身体的・精神的な苦痛を取り除く治療が、残された時間をその人らしく過ごせることにつながることもありますので、慎重に検討するようにしましょう。
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