記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
重症筋無力症は、筋肉接合部が自己免疫で壊されてしまうことで発症する指定難病です。筋力低下などの症状が現れますが、治療方法にはどのようなものがあるのでしょうか。この記事では、重症筋無力症の治療法について詳しく解説しています。
重症筋無力症とは、末梢神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)において免疫異常が生じ、神経と筋肉の間の神経伝達物質(アセチルコリン)の働きが邪魔されることで発症する自己免疫疾患です。
全身の筋力低下や疲れやすさなどの症状が現れますが、特に眼の周囲にある筋肉に症状が現れやすく、眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)、複視(物が二重に見える)がみられるのが特徴です。
重症筋無力症のなかでも、眼の症状だけの場合は眼筋型、全身に症状があるケースを全身型とよばれています。
重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし呼吸困難をきたすおそれがあります。
また一般的には、1日の中で病状が変動しやすく、特に夕方に症状が悪化する特徴があるといわれています。
女性に多いのが特徴であり、発症年齢は5歳未満に一つのピークがあり全体の7.0%を占めます。その後、女性では30歳台から50歳台にかけてなだらかなピークがあり、男性は50歳台から60歳台に発症のピークが見られるとされています。
重症筋無力症は、抗コリンエステラーゼ薬を用いて、眼や口、全身症状の改善を目指して治療が行われます。
この治療法は、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼという酵素の作用を阻害することにより、神経筋接合部のアセチルコリンの増加を図ることが目的です。
アセチルコリンが増えれば神経から筋肉への刺激の伝達が改善する可能性があるため、症状緩和が期待できます。ただし、即効性があり筋力を改善させる力が強い反面、作用が一時的という特徴があるため、補助的に行われることが多いです。
この薬の特徴的な副作用として、下痢、腹痛、吐き気、発汗、縮瞳、徐脈、呼吸困難などが挙げられます。また内分泌系の異常によって危険な状態に陥る「コリン作動性クリーゼ」があらわれる場合があります。
慢性的な重症筋無力症の症状に対し効果を得られる一般的な治療としてステロイドを用います。
治療の基本は免疫療法で、この病気の原因である抗体の産生を抑制したり、取り除いたりします。
ステロイド薬が使えない場合や効果不十分な場合には免疫抑制剤を使用します。またステロイド薬の副作用を防ぐために免疫抑制剤との併用による積極的なステロイドの減量が行われることもあります。
短期的病態改善治療は全身の症状が重い場合や症状が急激に悪化した場合、他の治療で効果が不十分な場合などに行われます。
免疫グロブリン製剤を5日間連日点滴静注します。血液浄化療法と同程度の効果が期待されるうえ、特別な装置が必要なく、通常の点滴で行うことができることがメリットです。下記で紹介する血液浄化療法で特に注意が必要な、血圧低下や細菌感染などの問題が少なく、高齢者や体格の小さな患者、全身状態が不良な場合でも実施しやすいというメリットもあります。
ただし、血液浄化療法に比べ効果が現れるのが遅く、アレルギーやアナフィラキシーといった副作用が現れる可能性があります。
血液浄化療法は、病因となる抗体を血液中から取り除くことにより症状の一時的改善を図る治療法で、即効性が期待されます。
しかし小児や高齢者、全身状態が不良な場合は実施が困難なことがあり、特殊な装置を必要とするため実施できる施設が限られています。また、血圧低下、ショック(血圧が下がって生命が危険な状態)、出血や血栓形成、 細菌感染などの副作用が起こる可能性があります。
重症筋無力症は適切な治療を続けることで、多くの人が通常の生活を送ることが可能です。また、重症な場合でも呼吸管理などを行うことで長く生きることができるようになりました。
しかし、重症筋無力症はストレスが溜まったり、風邪をひいて体調が崩れたりすると急激に症状が悪化することがありますので、十分な休息や睡眠を確保して規則正しい生活を心がけるようにしましょう。また、風邪が流行する時期にはマスクの着用・手洗いなどの基本的な感染対策を行い、人ごみを避けることも重要です。
さらに、重症筋無力症は抗生物質や睡眠薬など一部の薬剤を服用することで症状が悪化することがあります。薬を服用する場合には市販薬は使用せず、病気を伝えて上で症状に影響のない薬を医師から処方しても対ようにしましょう。
重症筋無力症は、筋力低下と易疲労性(疲れやすいこと)を特徴とする自己免疫疾患です。自己抗体の測定といった早期診断に基づき、免疫療法を中心に早期治療を受ければ予後は比較的良好とされます。疑わしい症状があればすぐに病院を受診しましょう。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。