記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
脱肛とは、内痔核などの直腸の下部分にある粘膜が肛門の外に飛び出してしまうことをいいます。この記事では、脱肛や内痔核の治療法を紹介していきます。手術はもちろん、薬をなど手術以外の方法も紹介していくので、痔の悩みをお持ちの方は参考にしてください。
脱肛は、直腸の下部分の粘膜が肛門の外に出てしまう疾患です。内痔核(いぼ痔)が長引き悪化したことや、内臓の下垂が原因で起こると考えられています。
排便時のみ脱出する程度の症状から始まり、次第に肛門外への粘膜の脱出がひどくなることで分泌液が増加したり、湿疹ができたり、こすられて傷つき出血や痛みがみられたりするようになります。さらにひどくなると、しゃがんだり、くしゃみをするだけで脱出するようになり、脱出した粘膜を戻せない状態(痔核の嵌頓)になると激しい痛みや壊死を引き起こし、感染症に発展することもあります。
痔核(いぼ痔)が肛門の外に出ていないか、あるいは出てもすぐにもどるような場合は、手術でなく保存療法でも治りやすいとされています。
軟膏や座薬で直接患部に働きかけ、症状改善を促します。また痔核の炎症を抑えたり排便のコントロールのために内服薬が用いられることもあります。ただし、重度のものは効果がでにくいといわれています。
内痔核(いぼ痔、軽度脱肛)が対象です。薬剤を痔核、および痔核根部血管周辺に注射して炎症を起こし、二次的な線維化により痔核内の血流を低下させ、粘膜下組織を硬化させる治療法です。無麻酔で肛門鏡下に観察しながら、痛覚のない粘膜下層に注射します。比較的簡単におこなえる治療法であり、出血を止める効果も高い一方、痔核そのものを消滅させる効果は弱く、数年以内に再発するケースも頻繁にみられます。
2%に希釈した硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸水溶液を用います。痔核に流れ込む血流を遮断することで、痔核を縮小させ、さらに痔核間質組織に無菌性炎症反応を起こして線維化させることにより、痔核の硬化、退縮および固着を図ります。一つの痔核に対し4か所に分割して投与する4段階注射法をとります。
ALTA注射法は、手術と同程度の治療効果が期待できることで、最近注目されている治療法です。ただし適応は、内痔核の分類の2度(排便時に脱肛するが自然に戻る状態)から3度前半(排便時に脱肛するが指で押して容易に戻る状態)までとされています。3度後半や4度の場合は根治手術が提案されることが多いようです。
専用の小さな輪ゴムを内痔核の膨隆部の基部にかけ、輪ゴムの収縮力を利用して痔核を壊死・脱落させる治療法です。比較的小さな脱出する内痔核や出血例に用いられます。線維化して硬かったり、痔核の膨隆が小さすぎるものは難しく、すぐはずれてしまう可能性があります。
現在行われている手術法は「半閉鎖式粘膜下痔核結紮切除法」が主流です。結紮切除術(半閉鎖法)は、まず皮膚を切って痔核を露出し、痔核に血液を送っている血管を縛ります。 そして、痔核のみを切除し、切除した後の傷口を縫い合わせて閉鎖します。
手術自体は15~30分くらいで終了しますが、手術後1、2週間ほどの入院と一定期間の安静が必要になることがあります。
自動縫合器という特殊な器具を用いる新しい手術法です。肛門の内痔核のすぐ上の部分を筒状に切って脱出した痔核を肛門の中に引き込むとともに、痔核の原因となる血管を切除することで痔核や脱肛の縮小を目指す治療法です。
肛門の皮膚や肛門上皮に全く傷をつけないため、手術時間が短く、手術後の痛みも軽いとされています。全周性脱肛や直腸脱肛、3度、4度痔核などの重度の脱肛にも適応可能といわれています。
脱肛とよく似た症状に直腸粘膜脱があり、違いを一般人が見分けるのは難しいとされています。このため、脱肛が疑われる症状が現れたときは、すみやかに病院で受診するようにしましょう。
また、肛門脱だと思っていたら実は直腸脱だったというケースもありますし、脱肛であったとしてもそのまま放置してしまうと嵌頓(かんとん)状態を引き起こし重篤な事態に陥りかねません。
医師に相談しながら、症状の進み具合に応じた適切な方法で治療していきましょう。