記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
腰痛は、重い荷物を持ったときや長時間同じ姿勢でいることで発症すると言われますが、これ以外にもさまざまな原因があります。今回の記事では、深刻な病気の可能性のある腰痛の特徴や、受診すべきなのは何科なのかなどについてご紹介します。
腰は、腰椎とよばれる5つの骨がブロック状に積み上げられ構成されています。腰痛の多くは、この腰椎に負担がかかったり障害が起きたりすることで発症します。さらに腰痛は男性で1番目、女性は肩こりについで2番目に多い症状で、増加傾向にあります。また、腰に重い痛みがあったり、激しい痛み、起床時や疲れた時に腰がいたくなるなどの症状から始まり、悪化すると腰からふくらはぎにかけて痺れたり、麻痺が起こることもあるのです。また、痛みが安静にしていても起こる場合は注意が必要です。
実は、そんな腰痛のおよそ85%は、原因がわからないと言われています。ただ、腰痛の原因は、日常生活に潜んでいることも少なくありません。具体的には、長時間座りっぱなし、立ちっぱなしで筋肉が緊張状態にある場合、運動不足や筋肉退化によって筋力が低下し、腰痛に負担がかかりすぎている場合などです。例えば、一般的にはぎっくり腰とよばれる急性腰痛症は、長時間中腰の姿勢を続けていたり、重いものを持ち上げたときなどが原因で起こります。
一方、過剰に動きすぎたり、無理に重いものを持とうとするのも腰に悪影響を与えることになります。例えば、腰椎分離症は、部活動などの激しい運動で腰椎の椎弓板(椎骨の一部)が骨折する症状です。腰が重く感じるなどの症状が現れますが、痛みなどの自覚症状が出ないこともあるため、放置されてしまうこともあります。分離症が分離すべり症に悪化すると、下肢のしびれや麻痺、痛みが深刻化しやすくなるので注意が必要です。
筋肉の炎症や神経の痛み、心理、社会的要因などが複雑に重なると腰痛が慢性化することがあります。腰痛で身体を動かさなくなると精神的ストレスを感じ、ストレスが続くと痛みを抑制する脳のシステムが機能しなくなることで神経が過敏になります。
また、症状が悪化していなくても腰痛がひどくなったように感じることも多く、その場合は身体を動かさなくなる傾向があるため、悪循環になってしまいます。
腰痛がなかなか治らないだけでなく、どんな体勢をとっても一日中痛みが続く場合は、多発性骨髄腫などのがんや腫瘍、あるいは菌やウイルス性の感染症が潜んでいる可能性があります。腰痛持ちの人のほとんどは、姿勢を変えれば痛みは和らぎます。しかしがんや腫瘍、感染症による腰痛の場合は、姿勢を変えても痛みが持続するのが特徴です。
また、腰痛以外の症状も手がかりとなります。例えば、腰痛だけでなく足のしびれも伴う場合は、腰椎付近の神経が圧迫されている可能性が高く、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が疑われます。他に、女性で腰痛の痛みが周期的に変化する場合は、子宮内膜症や卵巣の異常が考えられます。
なお、腰痛に発熱を伴う場合は、内臓か脊髄に細菌が侵入し、炎症を起こしている可能性があります。姿勢を変えても痛みの度合いに変化がない場合は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの内臓の病気、姿勢を変えると痛みがひどくなる場合は、化膿性脊椎炎などの脊椎の病気が考えられます。
腰痛が治らないときに受診する科は、整形外科が一般的です。X線やMRIなどの画像検査をすることで、まずは原因を特定していきます。なお、病院によっては「脊髄外科」という科があるところもあります。この脊髄外科は神経学的に腰痛の原因を探し、改善する科で、腰痛の原因として代表的な椎間板ヘルニアの治療も専門とします。一方の整形外科は、背骨の変形を治し、腰痛を緩和することを専門とします。
また、腰痛以外に、発熱や吐き気など別の症状を伴う場合は、内科を受診しましょう。胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの内臓疾患が原因の可能性があるためです。
腰痛は、特別な治療をしなくても自然に回復していくものが大半です。しかし、なかなか治らない腰痛は、深刻な病気が隠れている可能性があります。まずは原因を特定することが大切なので、腰痛の特徴や付随する症状を踏まえた上で、整形外科や脊髄外科、内科など適切な科を受診しましょう。