記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/2/8 記事改定日: 2020/10/7
記事改定回数:4回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
心不全とは、何らかの原因で心臓のポンプ機能が正常に働かなくなる病気です。治療では食事療法、薬物療法、手術療法が検討されます。治療計画は症状の程度によって変わるといわれていますが、重篤な心不全の場合の治療経過や予後についてもあわせて紹介します。
心不全においては、心機能の低下により、血液や酸素を全身に送る力が弱まっています。そのため、運動時の息切れや動悸などの症状がみられます。加えて、下記のような症状がみられることがあります。
心不全の原因は、心筋梗塞や心筋症、心筋炎などにより心臓の筋肉が障害されることによるものや、僧帽弁・大動脈弁などの心臓弁膜の機能低下による心臓弁膜症などが考えられます。
急に発症する心不全を「急性心不全」と呼びます。また、慢性的な心機能の低下により、比較的安定しているものの継続的に症状のある心不全を「慢性心不全」といいます。
原因によってさまざまな治療が行われます。急性心不全の原因として最も多いのは、心筋梗塞などの冠動脈疾患(約3割)で、次いで弁膜症(約2割)、心筋症(約2割)です。
急性心不全の方は、医療機関で速やかな対応をしなければ命に関わる場合があります。原因や病状に応じて、薬物療法やカテーテル治療、手術療法が選択されます。
基本的には心臓の機能低下を招いた原因に対する治療が必要となります。高血圧や狭心症、過去の心筋梗塞、心筋症、弁膜症、過労、ストレスなどが主な原因として挙げられ、病状に応じて食事療法や薬物療法による治療がすすめられます。カテーテル治療や外科的手術が慢性心不全の改善に有効である場合もあります。
薬物療法では、強心薬や利尿薬、血管拡張薬を病状や症状に合わせて服用します。いずれの薬においても、医師の指示通り服薬することが大切です。自己判断で服薬期間を短くすると、症状が悪化することもあります。
心臓の機能を高め、身体に送り出す血液量を増やす薬です。薬の過剰な摂取は、食欲不振や吐き気、視力障害や動悸などの副作用が起こる可能性があります。
尿を増やして体内から水を排出することで、むくみや呼吸困難を改善します。電解質異常(体内のイオンのバランスが崩れてしまう)や、脱水症などの副作用が生じることがあります。
心臓に張り巡らされた冠動脈の血流を改善させ、心臓自身の血流を改善させる目的で使用されます。摂取量が多すぎると脈が遅くなり、症状悪化をもたらす可能性があります。
薬物療法だけでなく、普段の食生活から心臓への負担を軽くすることができる場合があります。たとえば、次のような習慣を取り入れることで心臓への負担軽減を目指すことをおすすめします。
とくに、塩分量の制限が重要とされています。新鮮な食材を使用したり、だしを有効活用することで塩分使用量を抑えたり、料理は適温で食べるようにするなどしましょう。塩分を控えても食事が楽しめるように工夫すると、習慣化がしやすくなります。
心不全は、上述したように心臓の機能が低下した状態であり、身体に十分な酸素が行き渡らず、全身に様々な症状が引き起こされます。そのため重症な場合は心臓にさらなる負担をかけないために運動を制限する必要がありますが、中等度〜軽度な場合には適度な運動をすることで運動機能や体力を維持し、治療後の社会復帰を円滑にする効果が期待できます。
また、適度な運動は、気分の安定、自律神経バランスが整うことによる血圧調節能力の向上、動脈硬化の予防などにつながるとされており、心不全悪化を予防することができるとされています。
ただし、それぞれの重症度や体力などによってできる運動は異なります。運動をするときは、医師や理学療法士などの指示に従って無理のない範囲で行うようにしましょう。
心不全では、弁置換術、冠動脈バイパス術、心臓再同期療法(CRT)、植込み型除細動器(ICD)の手術が検討されます。
心不全を引き起こす弁膜症のほとんどが、僧帽弁、もしくは大動脈弁の異常によるものです。いずれの弁も健康な状態では、心臓から全身に血液を送る際に逆流が起こらないように働きます。
しかしこの弁の出口が狭くなることで流れが悪くなったり、弁の構造が壊れて逆流するようになると、心臓が十分な血液を全身に送ることができなくなります。
薬物療法やカテーテル治療では治療が難しい場合、異常な弁を取り除き、人工的に作った人工弁を心臓に取り付ける手術を「弁置換術」と呼びます。リスクを伴う治療ですが、弁の働きが良くなることで、心不全が劇的に改善することもあります。
心不全を引き起こす狭心症や心筋梗塞は、心臓に張り巡らされた冠動脈が血栓などで狭くなり、心臓の筋肉に十分な血液・酸素を送ることができなくなった状態です。
心臓に十分な量の血液・酸素を送られるようにするため、カテーテル治療で狭くなった冠動脈を広げる処置を行うことがあります。しかしカテーテル治療による治療が難しい場合や、冠動脈の複数の部位が狭くなっているような患者さんは、冠動脈バイパス手術が行われることがあります。
冠動脈バイパス術は、胸骨の裏の内胸動脈や腕に走る橈骨動脈を採取し、冠動脈の狭い部分を迂回するように接続します。すると、冠動脈の血流が改善し、心臓に十分な血液と酸素が供給されるようになります。心臓の状態がよくなり、心不全が改善される可能性があります。
心臓は心電図で示されるような電気の流れで効率よく動くことができます。しかし心不全が悪化すると、心臓がいびつに肥大し、電気の流れも悪くなることがあります。すると、心臓が左右バラバラのタイミングで収縮するようになり、効率よく全身に血液を送ることができなくなる場合があります。
カテーテルを用いて心臓の中に電極を埋め込み、左右の心臓が同じタイミングで収縮できるようにすることで、心不全が改善することがあります。これが心臓再同期療法(CRT)です。
しかし、適応となる患者さんの中でも約3割程度の方が無効である事も知られています。治療の適応については専門医の判断を要します。
心不全患者さんの死因として最も多いものの一つが、心室細動などの致命的な不整脈です。心室細動の発作時に、周りに救助者がいて、AEDによる電気ショックを受けることができれば救命できますが、常にこのような環境があるわけではありません。
致命的な不整脈を起こしうる心不全患者さんには、突然死を予防するため、カテーテル治療により心臓に電極を埋め込み、前胸部に除細動器(ICD)を埋め込むことがあります。致命的な不整脈が生じると、埋め込んだ除細動器が自己判断で電気ショックを行い、AEDなしで蘇生できる場合があります。
しかし、除細動器が判断を誤り不整脈のないときにショックをかけてしまう事もあり、患者さんに害を為すこともあります。まだまだ改善の余地がある点も議論されています。こちらも治療の適応については専門医の判断を要します。
心不全の治療後の予後は、心不全の重症度や全身の状態によって大きく異なります。
息切れや動悸、呼吸苦などがあるものの日常生活に大きな支障を来たさない程度の軽症な場合には、適切な治療を行うことで心機能を維持し、良好な予後が期待できます。
安静にしていないと強い症状が出るような重症な心不全では、適切な治療を行っても年間で20~30%が死亡するとのデータもあります。また、高齢者の場合では心不全治療のために入院を繰り返したり、安静にしている時間が増えることで筋力や認知機能の低下が見られるようになり、全身状態が悪化する原因にもなります。
このため、心不全は発症したとしても軽症の段階で治療を開始して重症化を予防することが大切なのです。
心不全を発症すると、最悪の場合死に至る可能性があります。原因となる病気を持っていたり、心不全になりやすい環境で過ごしている場合は、早めに対処し心不全の発症を予防しましょう。食事療法と薬物療法、手術療法のいずれも重要な治療であり、どのように治療を進めていくかには個人差があります。必ず医師と相談しながら治療計画をたてていきましょう。
この記事の続きはこちら