変形性股関節症の人工股関節留置術とは?

2018/2/22 記事改定日: 2018/12/26
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

関節軟骨がすり減ってくるために転倒しやすくなったり、歩行困難になったりする恐れのある「変形性股関節症」。変形性股関節症の治療には、人工股関節を使った治療方法があります。
この記事では、人工股関節の寿命や合併症などを紹介していきます。治療方法の意思決定の参考にしてください。

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股関節のしくみと、様々な変形性股関節症

股の関節である股関節は、左右の足の付け根にあり、骨盤と太ももの骨である大腿骨をつないでいます。骨盤側には寛骨臼(かんこつきゅう)と呼ばれる受け皿があり、大腿骨の先端はボールが挟まったような形状の大腿骨頭があります。寛骨臼と大腿骨頭の表面は、関節軟骨で覆われていて、股関節がスムーズに動くようになっています。
この関節軟骨が何らかの原因ですり減った状態になることが、変形性股関節症です。

変形性股関節症になると、股関節から太ももにかけて痛みを感じるようになり、初期の段階では強い痛みがまだないために気が付かないこともありますが、関節軟骨がすり減ってくると歩き始めに痛んだり、足の付け根が重く、だるく感じたりします。

進行すると骨と骨が直接ぶつかり合うようになり、痛みを感じることが次第に多くなり、最終的には歩行困難となってしまうこともあります

変形性股関節症になった場合、どんな治療法があるの?

変形性股関節症の初期のうちは、保存療法で痛みや可動域(関節が動く範囲)の改善を目指します。

保存療法は、生活改善や運動療法や薬物療法が用いられます。
たとえば、和式の生活は股関節に負担をかけるので、布団で寝るよりもベッドで寝るようにすすめられたり、トイレを和式から洋式にするように指示されるでしょう。
また、肥満傾向の人は股関節への負担を減らすために減量を進められます。

ただし、股関節の変形が強く、痛みが続いている場合は手術が検討されます。

変形性股関節症の手術、人工股関節置換術について

日本人の変形性股関節症の原因の多くは寛骨臼形成不全です。
寛骨臼形成不全があるケースでは進行に個人差があるものの、適切なタイミングで手術を行うことが望ましいと考えられています。

進行すると歩くことが困難になるだけではなく、靴下が履きにくい、爪が切れないなどの日常生活にも大きな支障が出てくるからです。症状が軽いうちに手術をした方が、その後の生活の質の向上が期待できます。

手術には骨切り術と人工股関節置換術がありますが、50歳以上で進行性の変形性股関節症の場合は、人工関節置換術を選択することが多いです。
ただ、明確な基準があるわけではないので、医師と相談しながら納得のいく治療法を自身が選択することになります。

人工股関節には、接着剤のような骨セメントを使って固定するタイプと、骨に直接固定するセメントレスのタイプがあります。人工股関節のデザインもさまざまなものがあるので、これも主治医とよく相談しましょう。

人工股関節の合併症

人工股関節は以下のような合併症を生じるリスクがあります。手術を受ける前には主治医とリスクについてよく話し合い、術後の生活の注意点を守るようにしましょう。

血栓症

人工股関節置換術は血栓が形成されやすい手術です。血栓は、血管内で血液が固まったもので、血栓が流れて血管をつまらせ肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。
特に手術中や手術後1週間ほどの期間に発症頻度が高くなりますので、急激な呼吸苦などが現れた場合は注意が必要です。

感染症

股関節内は本来、無菌状態に保たれています。しかし、手術操作によって股関節内に細菌感染が生じると関節炎を引き起こすことがあります。重症化すると敗血症や骨髄炎などに進行することもあり、人工関節を取り外す手術が必要になることも少なくありません。

神経障害

股関節周辺には下肢や臀部の感覚や運動を司る神経が走行しており、手術によってこれらの神経にダメージを与えると神経障害を引き起こすことがあります。その結果、下肢や臀部の一部の感覚を喪失したり、筋力低下などを引き起こすことがあります。

人工股関節の寿命と再置換(再手術)について

人工股関節は常に摩擦や荷重を受けるため、摩耗を避けることはできません。このため、人工関節の耐用年数は15~20年ほどで、ある程度期間が経過した場合は破損や関節のゆるみが生じることがあります。その場合は、再度手術を行って人工関節を取り替える必要があります。

60歳以上の高齢者では交換の必要が生じることはほとんどありませんが、若年者の場合は交換手術が必要となることが前提となるため、定期的な検査を行って人工関節の状態をチェックするようにしましょう。

おわりに:変形性股関節症の進行度に合った、適切な治療を

変形性股関節症は初期段階では自覚症状が少なく、気づかないうちに進行してしまうこともあります。
進行具合や症状の度合い、その人のライフスタイルなどによって適した治療方法が変わってきます。
人工股関節は非常にすぐれた治療ではありますが、デメリットがないわけではありません。経済的なこと、手術のタイミングなどを医師と相談しながら、どの治療法にするかの意思決定をしましょう。

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