記事監修医師
産業医科大学第1外科
佐藤 典宏 先生
2017/3/21 記事改定日: 2018/4/2
記事改定回数:1回
記事監修医師
産業医科大学第1外科
佐藤 典宏 先生
記事監修医師
前田 裕斗 先生
子宮内膜症とは、子宮内膜またはそれに似た組織が何らかの原因で、本来あるべき子宮の内側以外の場所で発生し発育する疾患で、それに伴いさまざまな症状が現れる女性特有の病気です。子宮内膜症でチョコレート嚢胞が形成されると、不妊の原因になるといわれています。
今回は、子宮内膜症とチョコレート嚢胞について解説していきます。
子宮内膜症は、子宮内膜の細胞が女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受け、骨盤や卵巣、卵管を含む下腹部に多く発症します。
女性ホルモンのエストロゲンは卵巣で卵胞を成熟させ、成熟した卵胞から卵子が放出されると妊娠に備えて、女性ホルモンのプロゲステロンが子宮内膜を厚くさせます。受精あるいは受精卵が着床しなければ、子宮内膜が剥がれて、月経(生理)として体外に出ます。子宮外にある子宮内膜症の細胞も出血し、炎症、痛みおよび癒着(ゆちゃく)を起こします。
月経時に子宮内膜と同じように剥がれて出血し、増殖すると卵巣内にチョコレート状の古い血液が溜まり、大きくなってチョコレート嚢胞(のうほう)を形成することがあります。
子宮内膜症の主な症状には以下のようなものがあります。
・月経痛
・月経困難や経血過多、月経不順
・性交中または性交後の痛み
・不妊
・排便困難や排便痛
これらの症状はほかの病気の症状である可能性もありますが、症状が特に強い場合は子宮内膜症の可能性が考えられます。
チョコレート嚢胞とは子宮内膜症が卵巣に起こる病変として分類されます。卵巣に袋ができてその中に古い血液が溜まっていく病気です。
その症状は月経痛、排便痛、性交痛といった疼痛、不妊です。
チョコレート嚢胞のみでは強い痛みを感じることは少ないものの、チョコレート嚢胞の内容液が漏れた場合などには激痛が出現します。
チョコレート嚢胞の発症の原因についてははっきりとわかっていません。
月経時の出血が逆流する月経逆流説や卵巣の組織の一部が変化して内膜症が出来るとされる化生説などがあります。
チョコレート嚢胞の症状に不妊があるように妊娠には大きな影響を及ぼします。チョコレート嚢胞を有する重症の子宮内膜症では3年間での累積妊娠率は約5%となると報告があります。
また、実際に腹腔鏡下手術にてチョコレート嚢胞を摘出後の妊娠率は約40%にまで上昇するとされています。
子宮内膜症治療の第1選択は薬物療法です。低用量ピルや、黄体ホルモン製剤などの内服薬を用いながらサイズや性状の確認を定期的に行います。しかしながら、これらの薬を内服していると妊娠できないため、妊娠希望の方では薬物療法を選択することはできません。
一方で妊娠希望の方でもすぐに手術療法に踏み切るわけではありません。特に高齢の方であれば、手術療法による卵巣へのダメージから残りの卵が少なくなってしまうことも考えられるため、手術の選択は慎重に行う必要があります。手術療法の選択は患者さんごとに異なるため一概には決められません。妊娠すれば子宮内膜症は改善するため、子宮内膜症の程度によっては早期の妊娠にtryする方針がより望ましいこともあります。
しかし、チョコレート嚢胞は0.07~1%の確率でがん化する可能性があり、6cm以上からがん化する可能性が高くなり、10cm以上となるとさらに可能性が高まることから、10cm以上のものや内部にしこりがあるような形状のもの、大きくなる速度が速いものなどは手術を選択することが多くなります。
また、3.4%の確率で、約6cm以上の嚢胞が破裂する可能性もあり、破裂した場合、症状が強い場合などは疼痛コントロールのため手術が選択されることもあります。
手術は主に腹部に小さな穴を数個空けて腹腔鏡を挿入してチョコレート嚢胞を取り除く腹腔鏡下術が選択されますが、悪性腫瘍の可能性がある場合は、腹腔鏡下に片方の卵巣を卵管ごと切除する付属器摘出術が選択されます。
子宮内膜症の人は不妊の原因になる可能性が高く、軽症の子宮内膜症でも妊娠率は24~57%、重症例では0~10%となります。
子宮内膜症で妊娠希望の場合は腹腔鏡下手術を行い子宮内膜症の治療を行い妊娠率を上げています。術後多くの場合2年以内の妊娠をしているという報告があります。
ホルモン療法で子宮内膜症を改善させて妊娠をする方法や体外受精をする方法もあります。しかし、体外受精の場合は子宮の環境を整えないと治療をしてもらえない場合が多いため結局子宮内膜症の治療を先に行うこともあります。
治療をしたくないという場合には可能性は低くなるものの自然妊娠を待つという方法もあります。
子宮内膜症は不妊の原因になることがあり、特にチョコレート嚢胞は不妊の直接の原因になることがあります。月経痛(生理痛)や月経困難、性交痛などがある場合は早めに病院を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
ただし、子宮内膜症の人全てが不妊になるわけではなありません。不妊にはさまざまな要因があります。不妊に悩んでいる場合は早めに病院を受診し、原因にあった対処をすることが大切です。