記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
痩身やしわの改善のために実施されることのある「ボトックス注射」。今回の記事では、このボトックス注射のリスクや副作用を中心に解説していきます。
ボトックス注射とは、ボツリヌス菌から抽出されるボトックスというタンパク質の一種を、注射で身体に注入する治療法・美容法のことです。
ボトックスには、神経細胞の伝達を緩やかにし、筋肉の収縮を抑える働きがあります。ボトックス注射はこの特性を利用し、神経伝達や筋肉収縮をおさえたい箇所に注射することで、さまざまな症状を改善する目的で使用されています。
以下では、ボトックス注射がよく使われる「しわの改善」「ふくらはぎを細くする」「多汗症治療」「花粉症治療」の4つのケースについて、それぞれの治療内容を解説します。
長期間にわたる表情筋の収縮が原因で現れる、目元や額など顔の「しわ」は、ボトックス注射で筋肉の収縮を抑えることで、改善が期待できます。
また、注入によって皮膚細胞が活性化して肌のハリが良くなるため、人によっては深い表情じわだけでなく、細かいしわや毛穴の開きまで改善するケースもあります。
ふくらはぎの筋肉に直接ボトックス注射を行うことで、使っていない筋肉の収縮をおさえて委縮させ、少しずつふくらはぎを細くしていく治療法です。
注入するボトックスの量や注射の回数、個人の体質によっても異なりますが、一般的には半年~1年間ほど痩身効果が持続するとされています。
発汗を促している交感神経の作用をボトックスによって抑えることで、脇、手足、額などからの多汗を緩和する治療法です。
多汗を抑えたい部位によってボトックス注射を行う箇所は変わりますが、痛みや腫れなどもなく、5分ほどの注入で症状がやわらぐと言われています。
神経伝達を緩やかにするボトックスの作用を利用し、アレルギーによって過剰反応している神経細胞を抑制することで、花粉症症状の緩和をめざす治療法です。
注射ではなく、鼻の中にボトックス液を垂らすだけで、鼻水やくしゃみ、目のかゆみなど、花粉症の症状緩和に効果が得られるとされています。
筋肉の動きや神経伝達の働きを緩める効果のあるボトックス注射ですが、使い方を間違えると取り返しのつかない失敗を引き起こす可能性もあります。
ボトックス注射の代表的な失敗例としては、しわ改善の目的で使用された場合の「スポックブロー」や「表情の喪失」が挙げられます。
まずスポックブローは、目周辺の筋肉へのボトックス注入量や注入箇所が適切でなかった場合に起こるもので、不自然に目と眉が吊り上がった状態になる症状です。特に65歳以上の人、表情筋を過剰に使用する人、眉間や額に余分な皮膚が多い人に起こりやすいと言われています。
一方、表情の喪失は主に口周りの筋肉へのボトックス注射で起こりやすいもので、これもボトックスが注入される個所や量が適切でなかった場合に起こります。表情筋がゆるみすぎる、または左右非対称にゆるむことでうまく表情が作れなくなったり、無表情になってしまうのが特徴で、日常生活にも大きな支障をきたすものです。
ボトックス注射で起こりうる副作用としては、内出血、筋力低下、アレルギーがあります。
内出血は注射そのものによって、筋力低下は過剰な量のボトックス注入、または必要以上に深い部位での注射によって起こりうる副作用です。ただし、いずれも適切な方法で治療が行われていれば、起こる可能性は高くありません。
一方、アレルギー反応は患者本人の体質によって起こりうる副作用ですが、発症するのは極めてまれです。
ボトックスは一度注入してしまうと修正が難しい施術ですので、施術を受ける病院や医師は慎重に選び、十分に説明を受けたうえで注射を受けるようにしてくださいね。
しわやアレルギーの改善、痩身、多汗症の緩和まで、ボトックス注射はさまざまな症状への効果が期待できる治療法です。ただし、これらの効果も正しい施術を受ければこそです。施術を希望する場合は必ず医師に相談し、熟考してから受けるようにしてください。