東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢教授インタビュー(前編)

2018/3/13

老化を考えるときに注目される「フレイル」。従来の介護予防よりも手前で、対策を打てばまだまだ元気に戻れるといった、高齢者にとって明るい話題です。この概念をつくり、普及を働きかけてきた東京大学高齢社会総合研究機構、飯島勝矢教授にその背景や目的、実際にどんな活動をされているのかを伺います。

メタボ、ロコモに次ぐ、親しみやすさを考えたネーミング

―フレイルをテーマに、全国で講演会や普及活動を展開されていますね。

講演は多いですね。市民に向けたものや医師会・歯科医師会対象、国の省庁などに対して行うものもあります。週に一度、秘書から予定を渡されて全国を行脚しています(笑)。市民講座は大体土日に開催されるので、週末も含め、かなり先までそうした予定で埋まっていますね。
虚弱に向かう負の連鎖を新たな概念として示した「フレイル」は、NHKなどマスメディアでも取り上げていただいたおかげで、ここに来て一段と普及が進み、手ごたえを感じているところです。2017年11月の「チョイス@病気になったとき」も反響の大きかった一つです。
「フレイル」という言葉は造語で、「虚弱」「弱弱しい」という意味の英単語frailtyフレイリティーを元に、私も含めた日本老年医学会のコアメンバーで考えたもの。3年半前に記者発表で世の中に出しましたが、当時は「また新しいカタカナ用語が出てきて、よく分からない」といった声も聞かれました。しかし、「メタボ」「ロコモ」という言葉が健康領域で一般名詞的にまで浸透していましたから、あえて同じようにカタカナで、言いやすさにこだわったことも一つの理由です。また、概念や理念がしっかりとして存在すれば、必ずや全国の多くの方々に注目される言葉であるという確信はありました。

 

―あらためて、「フレイル」の定義と、なぜそれが大切なのかを教えていただけますか?

まず、フレイルとは、老いの下り坂における、「健康・剛健」と「要介護状態」の『中間期』であること。そして、適切に介入すれば低下しつつある心身機能を大なり小なり戻すことの可能な、いわゆる『可逆性』があること。また、サルコペニアなど「身体」の虚弱だけでなく、うつや認知機能低下など「メンタル」の虚弱や、閉じこもり、困窮、孤食など「社会性」の虚弱という『多面性』があるものです。この、『中間期』『可逆性』『多面性』がフレイルの概念を理解するにあたってイメージして欲しい言葉です。

これらはけっこう身近なもので、例えば社会的フレイルでいえば、ひきこもっている自覚は皆さんあまりないかもしれません。それでも、62歳で定年を迎えた元企業戦士が、通勤もしなくなって、でかける奥さんを見送って自分は家でやることもなかったとしたら、どうでしょう。気づいたら、この1週間外出していなかったり、奥さんとしか話をしていなかったりすれば、それは社会的フレイルです。

運動不足だから筋肉が落ちた、腰が曲がったなどという単純な話ではなく、こうした社会的フレイルから悪循環が始まって、老化の坂を転がり落ちていくものなのですね。

そもそも我が国日本がこの10年ほどの間、介護予防事業として行ってきた訳ですが、色々な課題が明らかに見えてきました。運動教室などが主であったことも事実であり、保健師をはじめとする専門職などが地域に呼びかけて、「運動が大切だから、教室に通ってやりましょう」という流れがありました。しかし、これはどの年代にも言えることかもしれませんが、運動を自ら積極的に習慣として継続的に行える人はかなり少ない割合です。その一人が呼びかけに応えて運動教室に通ったとしても、3~4ヵ月の会期を終えたらせっかくの習慣もそれまでで、また運動をしなくなる生活に戻ってしまう。それでは、せっかくの推進活動も歩留まりが十分高くなく、もったいないのではないでしょうか。

また、介護予防の運動教室であれば本来は、30点くらいの人を見つけてレールに乗せ、60点くらいまで引き上げられるものであるべきかと思います。しかし、現実には行政のアプローチは広報を見て集まった、ごく一部の積極的な参加者に対してのみなので、蓋を開ければ集まっていたのは元気な人が多く集まっている現実もあり、私はそこに一石を投じてみたいと思いました。

 

高齢者の健康長寿を下支えするのは、医療資源だけではなかった

―飯島教授が、フレイル推進に関わるようになられたきっかけは、何だったのでしょう?

原点は、ある調査結果でした。以前に関東のある市(数十万人の人口のいるベッドタウン)におけるF地域、T地域という場所で高齢者を調査したところ、高齢者数や高齢化率などが変わらないのに、明らかにそれぞれの地域で要介護認定の度合いが異なったのです。同じ市内なので、ベッドタウンという環境も共通です。そして、地域のクリニックなど医療機関数や市立病院へのアクセス条件も同様で、医療リソースでは説明がつきませんでした。この差は何か。医師が関わる以前のところで、できることがあるのではないかと思うようになりました。すなわち、医療資源では説明できず、むしろ地域に存在する処方箋は何なのかを明かしたいと思ったのです。

 

―そもそも、飯島教授のご専門は循環器内科でしたね。

東京慈恵医科大学を卒業後、千葉大学医学部附属病院の循環器内科に入局し、関連病院の亀田総合病院や都内の高度急性期病院などで心臓カテーテル治療の研鑽を積みました。途中から老年医学の分野に飛び込み、東京大学医学部の加齢医学講座に入りました。臨床診療・研究・教育の3つとも頑張ってきました。スタンフォード大学へ留学もしましたが、ある程度やり切った感じもあって、2005年からは東京大学加齢医学講座に帰国し戻ったのです。2011年の東日本大震災の年に東京大学の中の高齢社会総合研究機構(ジェロントロジー)に学内異動し、総合老年学に取り組み始めました。そこで始めたのが「アクション・リサーチ(仮題解決型実証研究)」です。全国の多くの自治体と一緒にまちづくりを軸とした共同研究を始めました。その中で、後ほどお話する大規模高齢者コホート研究を仕掛けることになったのですが、それをキッカケに、もっと早期(手前)の段階の生活面から高齢者の問題に入っていくべきだと考えるようになったわけです。

 

―従来、地域医療に行政がアプローチする際は、地区医師会などによる予防啓発や健診事業を通じて行われてきたかと思います。

フレイル予防はある意味で、相互扶助の「まちづくり」事業と言っても過言ではないのでしょう。従来の病気の治療・管理・予防の視点になってしまうと、診療報酬も含めた制度論の話になりがちです。しかし、病気関連の話というよりは、その2~3歩手前の段階で、高齢者一人ひとりに自分ごととして、腑に落ちた感覚を持ってもらって、継続されるよう、自律的に展開していけるものにしなければならないと思ったので、まったく新たなアプローチを考えたのです。

フレイル予防を通じた健康長寿のまちづくりとして最初に着手したのが、千葉県柏市における大規模なコホート研究、いわゆる『柏スタディー』でした。調査団が市内全域をキャラバンのように巡回して、高齢者一人につき260項目のデータを採りました。体のパーツから口腔機能、認知機能から社会性まで幅広い項目で、その経年変化も見るのです。こうして得られた精緻なデータで科学的なエビデンスを明らかにするのと同時に、それを元にして、高齢者同士でわいわいとフレイルチェックを行えるよう、適切な項目を洗い出したかったのです。

 

―住民同士で行えるフレイルチェックモデルですね。

柏のデータの解析をふまえて作成したフレイルチェック項目を、茅ヶ崎や福岡などのモデル地域で、地域のボランティアである「フレイル予防サポーター」が住民同士で和気あいあいと調べ、測って、その意味を説明してという、フレイルチェックイベントで試行錯誤し、効果的な運営モデルを作り上げました。

今それは全国20自治体ほどで採用されています。当初は、千葉県柏市や未病をテーマとされている黒岩知事の神奈川県など、もともと健康長寿への取り組みに意欲的だった自治体から始まってきましたが、最近は、シャッター街を復活させるコンテンツの一つとしてもフレイルチェックを活用する自治体も出てきています。この春からは、地方の大都市部でも導入される流れとなっており、急ピッチに打ち合わせが進んでおります。

 

住民と同じ目線の「フレイルサポーター」と一緒に和気あいあい。だから、続けられる

―フレイルチェックは実際、どのように行われるのですか? 保健師や健康運動指導士などではなく、ボランティアが指導するのはどうしてでしょう?

まず、健康長寿のための「3つの柱」が重要です。食生活や食習慣など、筋肉を作るたんぱく質をバランスよく摂取する栄養知識などを理解してもらわねばなりません。つまり、「食と栄養」が1つ目の柱です。次に、運動や社会活動といった「身体活動」ですが、決まった体操を強いるのではなく、いつもよりちょっと多く歩いてみたり体を動かしてもらうことがよいのです。それは、お友達と一緒にでかけてにぎやかに過ごしたり、自分の好きなことを楽しく行う、ついでで構いません。遊びや趣味、ボランティアでもよいのですが、つまりは「社会参加」なわけです。

この3つを三位一体で進めてもらうには、そうしたことの大切さを同じ目線で、同じように実感しながら伝えてもらうのが一番なのです。何百人も入る大ホールで「講演の先生」が単なるお話をするだけでもなかなか参加市民の心に響きません。地域サロンや公民館のような、皆がひとつになれるくらいのスペース(集いの場)で、世代の近いボランティアである市民フレイル予防サポーター(通称:フレイルサポーター)が自分の体験なども交えて話すから、スッと聞いてもらえるのです。それでも、20人くらいで話を聞いて、自分の状況のチェックを入れていく作業はそれなりに手間もかかり、中にはテンポについていけない高齢者もいるでしょう。そのためにフレイルサポーターは自主的に皆さんの間に入っていって、困っている人にはフォローするなど、そこにいる全員がきちんとチェックできるように運営するのです。

 

―チェックはどのようなことを行うのですか?

例えば、ふくらはぎの太さを自分の指輪っか(親指と人差し指の輪っか)のサイズで測って、筋肉量の減少、すなわちサルコペニアを簡易評価するための「指輪っかテスト」、幅広い分野を聞いているイレブンチェック、パイプ椅子からの片足立ち、体組成計による四肢骨格筋量、滑舌評価の「パ・タ・カ測定」など、20項目ほどを試していき、全員ができるか・できないかで青・赤のシールを貼っていきます。そして、最後の30分で、今日やったテストはそれぞれ、どういう意味のものだったのかをお話して、ご自分はどういう力が衰えているのかを実感していただくのです。

その市民フレイルサポーター主体のフレイルチェック活動は約2時間で終わりますが、やりっ放しではありません。半年後にまたやるよと伝えて、「それまでに赤を一つでもいいから青に変えられるようにがんばってね」といって送り出すのです。すると、みなさんがそれぞれの日常生活の中でちょっとだけできることをやってみるようになるんですね。すなわち、参加した市民は、大なり小なりですが意識変容や行動変容があるようです。半年後を楽しみに、励みにされてもいると思います。

つまり、従来の運動教室によるアプローチとはまた異なり、このフレイルチェックは楽しく測定しながら、自分の今の状態を知り、どうすべきなのかを自覚してもらう、気づきや自分ごととして思い直すための時間なのです。そうして自分ごとになれば、あとは自分でできることをやり始め、継続できます。意識変容、行動変容が起こるわけですね。だから続くし、効果が上がるのです。
私が今取り組んでいるのは、その全ての赤青チェックの結果をスキャンして、データとして一元管理し、日本全国のデータを収集(すなわちビッグデータ構築)をして地域診断していくこと。そうして、分析を深めていこうと考えています。

 

―指導する、「フレイルサポーター」とは、どんな方たちでしょう?

各地域で集まってくれている、市民ボランティアです。いわゆる、元気シニアですね。ただ、一般的に市民ボランティアは圧倒的に女性が多いと言われており、マラソン大会など地域のイベントにおける炊き出し部隊もほとんどが女性です。そこに、リタイアしたシニア男性が加わっても、女性同士のコミュニティーに馴染めず辞めていかれることが多いと聞いております。しかし、我々の養成している元気シニアにより構成されている市民フレイル予防サポーターは異なります。養成研修があって運営方法が確立しているためかもしれませんが、全国では3割強が男性です。マニュアルやシステムがしっかりできているので、職業人としてやってきた男性にもやり甲斐があって、取り組みやすいのでしょう。

今、20自治体ほどで各エリアごとにサポーター連絡会も立ち上がっていますが、全国共通で黄緑色のTシャツをユニフォームにしているんです。その統一ユニフォームを着た市民フレイルサポーターたちは「飯島チルドレン」とも呼ばれているんですよ(笑)。みなで一体感を持ちながら、それぞれの自治体でのフレイルチェックを盛り上げていきたいですね。

 

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