注意欠陥多動性障害(ADHD)の基礎知識、早期対処に役立てよう

2018/3/15 記事改定日: 2018/7/17
記事改定回数:1回

三上 貴浩 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 医学博士

三上 貴浩 先生

ADHDは不注意や多動性・衝動性が特徴の発達障害のひとつで、最近では子供だけでなく大人も発症することがわかってきました。
今回は、そんなADHDの症状・原因・治療法についてお伝えします。

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注意欠陥多動性障害(ADHD)とは、どんな病気?

ADHDは発達障害のひとつで「注意欠陥/多動性障害」とも呼ばれます。
子供特有の病気だとみなされてきていましたが、最近では成人の発症も認められています。
ADHDの代表的な症状は「不注意」と「多動性・衝動性」にわけられます。

不注意の代表例

  • ケアレスミスが多い
  • 1つのことに集中できず、すぐ気が散ってしまう
  • 人の話を聞いていないとよく怒られる
  • 仕事や作業を順序立てて行うことが苦手
  • 約束や締め切りを守れない
  • 片づけが苦手、忘れ物が多い

多動性・衝動性の代表例

  • 貧乏ゆすりなどの目的のない動きをしてしまう
  • 長時間じっとしているのが苦手
  • 人の話を聞いていないと言われることがよくある
  • 衝動買いをしてしまう
  • 他人のしていることに口出ししてしまうことが多い

子供のADHDの診断について

ADHDの診断についてはアメリカ精神医学会(APA)の診断基準が用いられることが多く、下記のような条件が全て満たされたときにADHDと診断されます。

  1. 不注意と多動性・衝動性が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められる
    不注意に当てはまる行動としては、〈活動に集中できない、気が散りやすい、物をなくしやすい、順序だてて活動に取り組めない〉などがあげられます。
    また、多動性・衝動性には〈じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまう〉などの行為が当てはまります。
  2. ADHDの症状のいくつかが7歳以前に認められること
  3. 2つ以上の状況において(家庭・学校など)障害となっていること
  4. 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
  5. 広汎性発達障害や統合失調症など他の発達障害・精神障害による不注意・多動-衝動性ではないこと

厚生労働省ホームページを編集して作成 】

大人のADHDの特徴とは

ADHDが広く認知されるようになり、その行動に違和感を持ち続けた周囲の人のすすめによって病院を受診し、大人になって初めてADHDと診断されるケースが多々あります。
ADHDの特徴である不注意・多動性・衝動性は大人でも子どもでも同じく現れます。しかし、大人と子供では属する集団やライフスタイル、役割などが異なるため、症状の現れ方に差が見られます。

不注意に関しては、大人の場合、仕事や家事でのミスが多く、物事を理論立てて順序良く行うことができません。このため、周囲からは「能力が低い人」とのレッテルを貼られることも少なくありません。
多動性に関しては、子供のように座ったり静かにするべき場面で、立ち歩いたり騒いだりすることはありませんが、貧乏ゆすりのように体の一部を常に動かしたり、キョロキョロしたりといった落ち着きのなさが見られます。このような行動は仕事などの重要な場面では、周囲からやる気のなさと感じられることも多く、周囲との軋轢を生むきっかけとなることもあります。

衝動性に関しては、先々のことをよく考えて行動することができないため、思ったままのことを口にして相手を傷つけたり、好きなものばかりを望みのままに買って家計管理ができず借金をするなどの行動が見られます。
このような症状は、子供時代は周囲のフォローによって生活が成り立っていましたが、大人になって仕事や家庭で責任ある立場になると、本人には自覚がなくても周囲から悪い評価を下され、思い悩む人が多くいます。

ADHDの発症原因とは?

はっきりとした原因はわかっていませんが、ADHDが起こるのは脳の働きがかたよっていることと、特定の神経伝達物質の働きが不十分であるためと考えられています。

脳の働き

自分の注意や行動をコントロールする脳の働きを「実行機能」といいますが、ADHDの方はこの実行機能を調節している脳の前頭前野(大脳の前側に位置する)という部分の働きに何らかの問題が生じている可能性があります。

ドーパミンなどの神経伝達物質の不足

ADHDの方の場合、脳の神経伝達物質(脳内の神経細胞の間で情報をやりとりする物質)であるドーパミンやノルアドレナリンがうまく伝達されていない傾向があります。
脳内の神経細胞と神経細胞の間にはシナプスという隙間がありますが、通常であれば神経伝達物質がこの隙間をスムーズに移動して次の神経細胞に情報を伝えるのですが、ADHDの方の場合はシナプスで働くはずの神経伝達物質が足りず、次の神経細胞に情報が伝達されにくくなります。
ADHDの症状である不注意や多動性があらわれるのは、これらの神経伝達物質の本来の機能が発揮されないからではないかと考えられています。

ADHDは治療できるの?

ADHDは子供の場合も大人の場合も基本的な治療方針は同じで、まずは「心理社会的アプローチ」という心理療法や行動療法を行い、それに加えるような形で「薬物療法」が行われることが多いです。
以下の文章で、それぞれの治療法の具体的な内容をお伝えします。

〈1〉心理社会的アプローチ

心理社会的アプローチの目的は医師やカウンセラーとやり取りしながら自分のADHDの特徴を把握し、それに対する対策を立てて日常生活での問題点を徐々に解消していくことです。
たとえば、心理療法では学校や職場などで適切な行動をとることができるように、対人関係の築きかたや社会のルール・マナーを学ぶためのトレーニングや認知行動療法などが行われます。

〈2〉薬物療法について

薬物療法は症状のコントロールして、本人の行動や思考、学習に対する姿勢や人とのかかわり方などに良い変化をもたらす目的で行われます。
先述した「心理社会的アプローチ」を進めるうえでも、薬物療法を並行して行うことは非常に有効で、薬剤でADHDの主な症状をコントロールできることで、問題となる行動を改善しやすくなります。

ADHDの代表的な治療薬は以下の3つです。

  • メチルフェニデート徐放錠
  • アトモキセチン
  • グアンファシン徐放錠

これらのADHDの治療薬は、放出されたドパミンやノルアドレナリンを神経細胞から神経細胞に伝わりやすくすることで情報伝達をスムーズにする効果が期待されています。
(※このほかに、個人の症状に応じて〈抗うつ薬、抗精神病薬、情動調節薬、抗けいれん薬〉などが処方されることもあります)

1日の服用量・回数・効果があらわれるまでにかかる時間は薬剤の種類や病状によって異なるので、治療薬は医師の指示通りに服用してください。

おわりに:ADHDは子供にも大人にもみられる病気

ADHDは子供特有の病気だとみなされてきていましたが、最近では成人の発症も認められています。
完治は難しいものの症状が改善する可能性が高い病気なので、日常生活での問題を軽減するためにも専門機関での診断・治療を検討してみてください。

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