記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
線維筋痛症とは、発症の原因がはっきりわかっていない病気であり、全身に強い痛みやこわばり、精神症状などが現れます。多面的な治療が必要になるといわれていますが、どんな目的を重視して治療が進められるのでしょうか。
線維筋痛症は、周囲の人に理解され難い病気といわれています。患者さんだけでなく、今まで知らなかった人も、この機会に正しい知識を身につけましょう。
線維筋痛症(Fibromyalgia Syndrome:FMS)は、体の両側だけでなく、上半身と下半身にも痛みを引き起こす症候群(一連の症状)です。
圧痛点と呼ばれる領域は、押すと強い痛みがでることがあります。一般的な圧痛点は、頭の後ろ、肘、肩、膝、股関節、首の周りといわれています。
線維筋痛症は「精神的なもの」と誤解されることがありますが、その症状についての科学的研究によると、線維筋痛症が本当の痛みを引き起こしていることが明らかになっています。
線維筋痛症は、35歳から60歳の間で多く、女性は男性よりも線維筋痛症を発症する可能性が高くなり、この症候群は遺伝性である可能性があります(家族で遺伝)。
線維筋痛症は、次のうち1つ以上の症状が見られます。
線維筋痛症の人は、睡眠障害や抑うつ気分などの精神障害が現れることが多々あります。
なぜ精神障害が現れるのか明確な原因は解明されていません。しかし、うつ病などの精神疾患が原因になって疼痛が起きているのではなく、精神症状はあくまで線維筋痛症の症状の一つとして引き起こされるものであり、通常は疼痛のコントロールがうまくいけば精神症状も改善します。
線維筋痛症の3人に1人は、他の病気が先にあって、それに合併して線維筋痛症が生じます。このようなものを続発性線維筋痛症と呼びます。
続発するメカニズムは正確には解明されていませんが、自己免疫疾患である関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などに続発することが多いです。その他、変形性関節症などの整形外科的な異常によって引き起こされることもあります。
線維筋痛症では、痛みやこわばりがある部位の骨や筋肉、神経などの検査を行っても、異常が認められないことも多くあります。
続発性の場合には、リウマチや他の抗体検査で異常が見られますが、原発性の場合ではそれらの検査は全て陰性となります。
最近では、線維筋痛症は、痛みを感知する脳の部位に異常がある中枢性疼痛であると考えられています。このため、脳の機能を調べるためにMRI検査やPTE検査などが行われることもありますが、これらの画像検査でも異常がみられないことも多いです。
このように、線維筋痛症は身体所見以外に異常がないことがほとんどであり、診断には問診と身体診察が非常に重要になります。
具体的には、以下の2つに当てはまる場合に線維筋痛症と診断されることが多いです。
線維筋痛症の圧痛点
しかし、圧痛点があるかどうかの判断は医師によって異なっており、他の検査結果などと合わせて総合的に診断が下されます。
繊維筋痛症は根本的に疼痛やこわばりを取り除く治療はありません。2011年からはリリカ®カプセルの使用に保険適応が認められるようになり、今では治療の第一選択薬として使用されています。対症療法としては、精神症状に対して抗うつ薬な抗不安薬などが使用されるほか、疼痛に対しては、一般的に使用される鎮痛薬やステロイドなどは効果がなく、痛み止め効果のある麻薬が使用されることがあります。
また、線維筋痛症の人は疼痛のため、十分な運動を行うことができず、筋肉の萎縮が問題となります。そのため、麻薬などを用いて痛みをコントロールしながら患者に合わせたリハビリと運動療法が並行して行われます。
薬物が効かない精神症状がある人に対しては、認知行動療法などの精神療法が並行して行われることもあり、このように線維筋痛症の治療は多方面からのアプローチが必要になります。
線維筋痛症は発症の原因がわかっていないため、確立した治療法がなく根治は困難です。しかし、多面的に治療をしていくことで症状を和らげQOL(quality of life:生活の質)を高めて楽に過ごしていくことは可能とされています。
新しい治療薬も出てきているので、医師と一緒に自分に合った治療法を探しながら、気長に治療を続けていきましょう。