記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/6/4
記事監修医師
前田 裕斗 先生
子宮体部以外のところで受精卵が着床してしまう「子宮外妊娠」。この子宮外妊娠の原因としては、どんなものがあるのでしょうか?タバコや体外受精、帝王切開による影響の有無を中心に解説します。
子宮はフラスコを逆さにしたような形をしており、その上側3分の2にあたる広い部分「子宮体部」に受精卵が着床することで妊娠が成立します。しかしそれ以外の正常ではない部分に受精卵が着床してしまうのが、「子宮外妊娠」です。
子宮外妊娠の原因と考えられることはいくつかありますが、そのうちのひとつが、体外受精などの生殖補助医療です。体外受精では、身体の外で受精させて卵を体内に戻す際に、受精卵が培養液とともに子宮体部を通り越して卵管まで流れてしまったり、着床場所が子宮の出口あたりまでずれこんで、下3分の1の細くなっている子宮頚部になってしまうことがあります。
また、クラミジア、淋病などの性病が原因となる可能性もあります。代表的なものが「クラミジア感染症」によるもので、卵管内部の粘膜がくっついて狭くなったり周囲に癒着が起こり、受精卵が通りにくくなり子宮外妊娠を起こすことがあります。不特定多数の人と性交しないこと、コンドームを正しく装着すること、パートナーと話し合い検査を受けておくことが大切です。
タバコも、子宮外妊娠のリスクを高めます。受精卵は卵巣にもっとも近い「卵管膨大部」から子宮内膜を目指して卵管を移動しますが、それを助けているのが卵管内にたくさんはえている「絨毛」とよばれる毛のようなものです。この働きが弱まってしまうと、受精卵は卵管の途中で移動できなくなり、子宮外妊娠を起こす可能性があります。
たばこのニコチンは体内で代謝されることで「コチニン」となり、卵管内で卵管の筋肉の収縮を妨げるタンパク質を増やし、絨毛の運動を妨げるといわれています。このことから、喫煙は子宮外妊娠のリスクを4倍にするといわれています。同時に、卵管の働きが低下することにより不妊をまねく可能性もあります。
またコチニンは、受動喫煙によっても体内に生成されるといわれています。自身の禁煙だけでなく、パートナーからの受動喫煙を避けることも大切であるとされています。
子宮外妊娠は、帝王切開や人工中絶、あるいは虫垂炎などの開腹手術の経験があると、リスクが高まります。
開腹手術では、正常な組織であるお腹を切り開き、悪い組織を切ったり縫い合わせたりといった処置を行いますが、最終的に治るには切った組織が自然にくっついていく力が必要です。しかし、このときにくっついてほしくないところまでくっつくことがあり、これが癒着となります。
特に帝王切開などでは卵管が術部に近いため、卵管が癒着を起こしやすくなってしまいます。それによって狭くなると、受精卵の移動に支障をきたして子宮外妊娠が起こりやすくなります。開腹手術では内臓が空気に触れることによって身体の組織どうしがくっつきやすくなり、90%ほどの確率でなんらかの癒着が起きるといわれています。癒着部分によっては同様のことが起こりえるため、開腹手術の経験のある人はない人よりも子宮外妊娠のリスクが高いといえます。
また、人工中絶などで子宮の粘膜に傷がある場合も同様です。
子宮外妊娠はほとんど起こらない異常で、全体の0.5~1.5%程度です。しかし、起こってしまうとつらい症状がでるだけでなく、治療も大変です。また、生まれつき卵管に受精卵がとどまってしまいやすい体質の人もいます。
子宮外妊娠のメカニズムはわかっていないことも多いため、完全に予防することはできません。しかし、子宮外妊娠になりやすい傾向の人や、リスクを高くする要因については明らかになっており、実践できるリスク対応を行うことが間接的な予防策になります。具体的なリスク要因としては、「過去に子宮外妊娠をしたことのある人は約10%の確率で再び起きてしまう」「40歳以上での高齢出産では10代と比べて発生確率が3倍になる」といったことが挙げられます。また子宮外妊娠の件数のうち8割は2人目以降の出産(経産婦)で、前回の妊娠からの期間が長いほど発症の確率が高まる、といったこともあります。
このような場合には、妊娠を疑った時点で早めに検査を受けることで、早期治療が可能になります。自分から早めに動いて、少しでもリスクを減らしましょう。
子宮外妊娠は原因がわからない場合も多く、完全に予防することはできません。しかし、喫煙をやめるなど、日常の注意で避けられるリスクもあります。まずは自分でできるリスク回避を実践し、それ以外については早めに検査を受け、その後のリスクに備えるようにしましょう。