記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
「ストレスが原因でホルモンバランスが乱れる」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、ストレスとホルモンにはどんな関係があるのでしょうか。
肌荒れや生理不順との関連性と併せて、解説していきます。
人間は精神的・肉体的ストレスを感じると、それに対抗するために、副腎からストレスホルモンを分泌するようになります。このストレスホルモンとして代表的なものに、以下が挙げられます。
副腎皮質から放出されるステロイドホルモンです。免疫系や中枢神経系、代謝系などに作用し、筋肉でのたんぱく質の代謝や脂肪の分解、肝臓での糖の新生、抗炎症作用など、生きていく上で欠かせない役割を担います。
しかし、慢性的なストレスによってコルチゾールの分泌量が常に多い状態が続くと、脳の海馬が萎縮したり、炎症のコントロールが悪くなったり、免疫力が低下し感染症の発症リスクが上がったりと、身体にさまざまな悪影響を及ぼします。
なお、うつ病などの精神疾患の患者は、このコルチゾールの数値が高い傾向があるといわれています。
アドレナリンとは、動物が獲物を攻撃するときや、外敵から身を守ろうとする際に副腎から分泌されるホルモンの一種です。交感神経を興奮させ、血圧や心拍数、血糖値の上昇、瞳孔散大、起毛、気管支の拡張などを促します。危険な状況に出くわしたときに毛が逆立ったり、瞳が開いたりするのはこのアドレナリンの作用によるものです。
ストレスの原因がなくなれば、アドレナリンの分泌量も減り、交感神経の興奮も抑制されていきますが、慢性的にストレスがあると、疲労や病気の発症につながる恐れがあります。
肌荒れの主要因としてストレスはよく知られていますが、ニキビやシミなどの肌トラブルには、CRH(コルチコトロピン放出ホルモン)などのストレスホルモンの分泌が関係していることが、ある研究によって明らかになっています。
例えばニキビは、CRHによる炎症と、CRHが誘引したメラノサイト刺激ホルモンが皮脂の生成を活性化させた結果生じるものです。また、シミの一種である肝斑は、このメラノサイト刺激ホルモンや、CRHによって刺激を受けた交感神経が放出したアドレナリンが、メラニンの形成細胞を活性化させ、色素沈着を誘発したために起こるといわれています。
なお、ストレス自体も肌荒れの原因となるものです。人間はストレスが溜まると、体内で活性酸素が発生します。この活性酸素は細胞を傷つけ、免疫力を低下させる作用があるため、肌荒れや吹き出物ができやすくなるのです。
またストレスは、食べ物の消化や吸収・血液の巡りなどを司る自律神経の働きを阻害します。すると食事をとっても肌細胞に栄養がうまく行き渡らなくなるため、肌が栄養不足の状態に陥り、老廃物も溜まりやすくなってしまいます。
生理は、脳の視床下部や脳下垂体、卵巣がそれぞれ作用し合い、卵胞ホルモンや黄体ホルモンがバランスよく分泌されることで、周期的にやってくるようになります。しかし、精神的なストレスがこのホルモン分泌に影響を与え、生理周期を変えてしまうケースも少なくありません。実際、生理不順の原因の多くがストレスによるものといわれています。
オキシトシンとは、脳の下垂体から分泌されるホルモンです。平滑筋の収縮を促す作用があり、分娩時の子宮収縮や乳汁の分泌を促す効果があります。
一方で、オキシトシンは「幸せホルモン」と呼ばれることもあります。オキシトシンは、ストレスに関与すると考えられているACTHと呼ばれるホルモンの分泌を低下させるとの報告があり、ストレスを軽減する効果が期待できると考えられています。
また、飼い犬との触れ合いによってオキシトシンの分泌が増加するとの研究結果も報告されています。明確なメカニズムは解明されていませんが、オキシトシンはストレスを軽減し、安心感やリラックス、喜びなどをもたらす効果があると考えられているのです。
慢性的なストレスはストレスホルモンを分泌させ、また女性ホルモンや自律神経にも影響を与えることで、肌荒れや生理不順、感染症などさまざまな健康リスクを上昇させます。ストレスを溜めすぎないよう、日頃からこまめに発散することが大切です。