なぜ人は自殺するのか?自殺のリスク要因

2017/3/23

三上 貴浩 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 医学博士

三上 貴浩 先生

自殺は日本だけでなく、世界中の国々で死因の1つとなっていますが、なぜ一部の人々が自殺を試みるのか、その事を説明できる確固たる証拠はほとんどありません。
自分の人生を終わらせることを選ぶほとんどの人は、複雑な理由を持っています。しかし、多くの場合、自殺は絶望感や無力感と関連しているといわれています。この記事では、中でもいくつかのリスク要因や自殺を引き起し得る障害などについてご紹介します。

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自殺の原因となる脆弱性とは

多くの専門家は、自殺思考や自殺行動を取る要因として、精神的な脆弱性があると考えています。

・生い立ち: 小児期に、性的または肉体的虐待を経験していたり、親からネグレクト
されていたなどの経験がある
・精神的健康: 統合失調症などの重い精神病を抱えている
・生活習慣: 薬物やアルコールの乱用など
・雇用: 雇用の不安定、就労満足度の低下、失業など
・人間関係: 社会的に孤立している、いじめの犠牲者である、同時に複数の恋愛関係があるなど
・遺伝的、または家系的な要因

また、ストレスの多い出来事は、時おり人を、自殺的な思考や行動に追いやることがあります。パートナーとの議論など、些細なことであっても、原因になりうる場合もあります。あるいは、大切な関係が崩壊したり、パートナーが死亡したり、終末期の病気と診断されたりするなど、人が自殺を感じる前に、1つまたは2つ以上のストレス度が高いまたは気が動転するような出来事が発生している場合もあります。

精神的健康状態

自殺を試みたり、自殺で死亡する人の90%は、1つ以上の精神疾患にかかっていると考えられています。しかし場合によっては、その病気が臨床医によって正式に診断されていない可能性もあります。自殺の最大の危険につながる条件は以下の通りです。

・重度のうつ病
重度のうつ病は、気分の落ち込み、疲れ、関心の喪失、人生の妨げになる絶望の症状を引き起こします。重度のうつ病を患っている人は、一般の人よりも自殺を試みる可能性がはるかに高いです。

・双極性障害
双極性障害は、非常にハイで幸せな気持ちから、非常に低く暗い気持ちに落ち込んでいくという、気持ちがスイングする状態を起こします。双極性障害を持つ3人に1人は、少なくとも1回は自殺を試みます。双極性障害を有する人々は、この病気を持たない人たちよりも自殺を試みる確率が20倍高いです。

・統合失調症
統合失調症は、長期に渡り幻覚や、妄想などから行動の変化を引き起こす病気です。統合失調症患者の20人に1人が自殺すると推定されています。また、病気の症状が最初に始まる段階において自殺の危険性が最も高くなると言われています。雇用や人間関係の喪失など、その時々に起こることへの損失感に頻繁に悩まされるためです。統合失調症の人々がうつ病になるとリスクは更に増加しますが、一方でリスクは時間とともに減少する傾向があります。また、統合失調症になると、自傷行為の危険性も高まります。

・境界性人格障害
境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害とも呼ばれる)の特徴は、不安定な感情、思考パターンの乱れ、衝動的な行動などによって特徴付けられます。境界性の人格障害を持つ人々は、幼児期に性的虐待の経験を持つことが多くあります。この障害を持つ人たちは、特に自殺のリスクが高いです。自傷行為はこの病気の重要な症状であることが多いです。境界性人格障害を持つ人々の半分以上が少なくとも1回は自殺を試みると推定されています。

・神経性無食欲症
神経性無食欲とは、摂食障害のことです。神経性無食欲の人々は太っていると感じ、できるだけ体重を抑えようとします。厳しく食欲を制御し、何を食べるのか制限するだけでなく、時には嘔吐をすることによってこれを行います。食欲不振の5人に1人程度が自殺を試みると推定されています。食欲不振は自殺のリスクが高いことと関連しています。

その他自殺のリスク要因

自殺思考に脆弱な人間にする他の要因には次のようなことが含まれます。
・レズビアンまたはトランスジェンダーである事に対して偏見をもたれている
・借金がある
・ホームレス
・退役軍人
・刑務所にいるか、最近刑務所から釈放された
・医者、看護師、薬剤師、農業、または軍隊のメンバーなど、自殺をする方法を知
 ることがある職業に準じている
・自殺行動を持つ他の人々、特に親しい友人や家族に接触することがある

抗うつ薬および自殺のリスク

最初に抗うつ薬を服用する時、自殺思考を経験する人もいます。25歳未満の若者は特に危険度高い様です。
抗うつ薬を服用しているときに、自分を殺したり傷つけたりする考えが浮かぶようであれば、すぐにかかりつけ医に連絡するか、地元の病院に行きましょう。

抗うつ薬の服用を開始した場合は、親戚または親しい友人に伝えることが有用かもしれません。薬物治療のときに渡される冊子を読むように頼んでください。また、症状が悪化していると思った場合や、行動が変化したことに心配になった場合は、教えてくれるように頼んでください

遺伝と自殺

自殺願望と精神衛生上の問題は、遺伝する可能性があり、そこには特定の遺伝子との関連性が考えられています。
ただ、自殺に至る要因が複雑で幅広いため、「自殺遺伝子」があるとは言い切れません。遺伝は特に、人がうつ状態にあるときに、自殺行動のリスクを増大させうる人格要因(衝動的または積極的な行動をするなど)に影響を及ぼすとされています。

その他の理論

アメリカの心理学者トーマス・ジョイナー(Thomas Joiner)は、自殺に関する対人関係理論を開発しました。
この理論は、自殺に陥る原因となる3つの主な要因を述べています。
・自分は世界で一人であり、誰も本当に自分のことを気にしないという認識
・他人にとって他の人の存在は負担であり、死んだほうがましであると思うという感情
・痛みや死に対しての恐怖心のなさ
この理論では、痛みと自傷行為を繰り返すことで、恐れがなくなっていき、自殺につながりやすいとしています。

また、他人の苦しみや痛みを定期的に触れることでも、自傷行為や自殺に恐れがなくなってきます。このことは、兵士、看護師、医者などの自殺率が高い理由になりうるかもしれません。

自殺はどのくらい身近にあるのか?

2012年には英国で5,981件の自殺がありましたが、自殺未遂の数ははるかに多くなっています。自殺はすべての年齢の人々に起こりますが、中年および中高年の成人の自殺率が最も高いです。

おわりに

今回紹介してきた内容に当てはまらないから自分は自殺なんてしないと思っていても、ふとした拍子で精神を病み、自殺にいたってしまうことは考えられます。精神的にストレスを感じたり、落ち込むような出来事があった場合、無理をして一人で抱え込まずに誰かに相談したり、時には医師に相談しましょう。

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