記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
「飲酒運転は厳禁」というのは誰もが知る常識ですが、それでも例年、飲酒運転による交通事故のニュースが後を絶ちません。では、飲酒後何時間経ったら運転しても大丈夫なのでしょうか。車を運転する人やその周囲の人、すべてに知っていただきたい飲酒運転の注意点についてお伝えします。
飲酒をした日は、たとえ時間が経っても運転してはいけません。
例えば、1単位のアルコール(ビール中瓶(500mL)1本、日本酒1合、焼酎0.6合)が代謝されるまでにかかる時間は、体重60kgの男性の場合、およそ3時間です。つまり、ビール中瓶を4本以上飲んだ場合、体からアルコールが抜けるまでには少なくとも12時間以上かかります。このため、飲んだ翌朝になっても体内からお酒が抜けていないということになります。
また、このアルコールの代謝時間は体格や体質、性別などで個人差があり、「何時間経ったら必ずアルコールは抜ける」と断言できるものではありません。特に女性は男性よりも代謝に時間がかかる傾向にあります。
なお、アルコール・薬物3学会は「飲酒したら運転するまでに〔摂取アルコール(g)÷4〕時間以上待つ」というガイドラインを出しています。ビール中瓶1本には約20gのアルコールが含有されているため、この式に当てはめると「20÷4=5時間以上」運転してはいけないということになります。
【 山梨県中央市 の情報をもとに編集して作成 】
飲酒した分だけ、アルコール代謝には時間がかかります。特に大量に飲酒した日は、当日だけでなく翌日の運転も必ず控えてください。
「昨晩は飲酒をしたけれど、眠ってスッキリしたから運転しても大丈夫」と考える方もいますが、睡眠をとったからといってアルコールが早く抜けるわけではなく、体内にはアルコールが残存している可能性があります。実際、前夜に深酒をした翌朝、酒気帯び運転によって交通事故を起こし、逮捕されたケースもあります。
飲酒後と非飲酒後の交通事故で、それぞれの傷害の度合いを比較したところ、飲酒後の運転の方が死亡事故や重症事故になる確率が高かったことがわかっています。警察庁の調べによれば、平成28年中の飲酒運転(※)による死亡事故率は非飲酒後と比べ約8.4倍、酒酔い運転(※)による死亡事故率は約17.0倍だったとのことです。
アルコールには脳の働きを麻痺させる作用があり、酔うと顔が赤くなったりするほかに視力の低下やふらつき、安全運転に必要な注意力や判断力、情報処理能力の低下がみられるようになります。具体的には車間距離を誤ったり、スピードを超過させたり、危険の察知が遅れてブレーキを踏むまでに時間がかかったりするため、重大な事故につながる可能性が高くなります。
(※飲酒運転とは「ビールや日本酒などの酒類やアルコールを含む飲食物を摂取し、アルコール分を体内に保有した状態で運転する行為」、酒酔い運転とは「アルコールの影響により、車両等の正常な運転ができない状態」を意味します。)
【 警察庁 の情報をもとに編集して作成 】
「ビールを1本しか飲んでいないから、運転しても大丈夫だろう」とタカをくくって運転し、実際に交通事故を起こしてしまうケースも少なからず存在します。少量だから大丈夫、酔っていないから大丈夫、ということは絶対にありません。
そもそも、お酒は飲んでもすぐに酔うわけではありません。アルコールは胃や小腸から吸収された後で血液に入り、その後循環されて脳へ辿り着きます。この脳に行き着くまでにかかる時間はおよそ数十分とされ、食べ物も一緒に食べている場合はさらに時間がかかるといわれています。
このため、お酒を飲んだ直後は全然酔っていないように錯覚しがちですが、その後必ず酔いは回ってきます。そして運転中に酔いが回ると、判断力や注意力などが低下し、交通事故を招いてしまう可能性があるのです。
なお、道路交通法では、呼気1L中0.15mg以上のアルコールを検知した場合、「酒気帯び運転」とみなされます。アルコール1単位を摂取した場合の血中アルコール濃度は0.02〜0.04%ほどなので、これをアルコール量に換算すると0.1〜0.2mgとなります。つまり、ビール中瓶1本、日本酒1合を飲んだだけでもこの基準値をオーバーすることになるのです。
飲酒量にもよりますが、基本的には飲酒後、アルコールが体内から完全に抜けきるまでにはかなりの時間を要します。また、体質や体格などによって、アルコール代謝に時間のかかる人もいます。お酒を飲んだ当日はもちろん、飲酒量によっては翌日の運転も控えることが必要です。
悲惨な事故を起こさないためにも、また巻き込まれないようにするためにも、飲酒後の運転のリスクについてきちんと理解しておきましょう。