アルコール依存症の克服法は?症状セルフチェックや自助グループの種類を紹介

2018/7/25 記事改定日: 2020/8/27
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

飲酒は適度な量であれば問題ありませんが、アルコール依存症のレベルまで来てしまっている方は、仕事や日常生活に支障をきたしていてもなかなかやめられないもの。この記事では、本人や家族がアルコール依存症を治療する方法や支援センターの情報を紹介します。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

お酒をやめられないのはアルコール依存症?どんな症状が出るの?

どこからがアルコール依存症で、どこまでがただのお酒好きかという線引きは、はっきり存在するものではありません。

ただ、アルコールは麻薬やタバコと同様に、依存性のある薬物の一種です。習慣的に飲酒をすると耐性ができ、徐々に以前の飲酒量では酔わなくなっていきます。そして飲酒量が増え、次には精神依存の段階に入り、そこからも飲酒習慣を続けると身体依存が出現します。

精神依存段階の症状
お酒がないと物足りないと思う、お酒が切れるとわざわざ買いに行く など
身体依存段階の症状
お酒をやめると手の震えやイライラ、発汗、不眠、幻覚 などの離脱症状があらわれる

こうした依存症への回路はゆっくりと脳内で作られていくため、飲酒習慣のある人なら誰でもアルコール依存症になる可能性があります。
以下のスクリーニングテストでチェックしてみましょう。

アルコール依存症セルフチェック(男性版)

チェックリスト(男性版)

  • 食事は1日3回、ほぼ規則的にとっている
  • 糖尿病、肝臓病、または心臓病と診断され、その治療を受けたことがある
  • 酒を飲まないと寝付けないことが多い
  • 二日酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかったりしたことがある
  • 酒をやめる必要性を感じたことがある
  • 酒を飲まなければいい人だと言われる
  • 家族に隠すようにして酒を飲むことがある
  • 酒が切れたときに、汗が出たり、手が震えたり、イライラや不眠など苦しいことがある
  • 朝酒や昼酒の経験が何度かある
  • 飲まないほうが良い生活が送れそうだと思う

各問に「はい」で1点(問①のみ「いいえ」で1点)、計10点満点。
合計点数が4点以上はアルコール依存症の疑い群、1〜3点は要注意群(問①で1点のみの場合は正常群)、0点は正常群となります。

アルコール依存症セルフチェック(女性版)

チェックリスト(女性版)

  • 酒を飲まないと寝付けないことが多い
  • 医師からアルコールを控えるように言われたことがある
  • せめて今日だけは酒を飲むまいと思っても、つい飲んでしまうことが多い
  • 酒の量を減らそうとしたり、酒を止めようと試みたことがある
  • 飲酒しながら、仕事、家事、育児をすることがある
  • 私のしていた仕事をまわりの人がするようになった
  • 家族に隠すようにして酒を飲むことがある
  • 自分の飲酒について後ろめたさを感じたことがある

各問に「はい」で1点、計8点満点。
合計点数が3点以上はアルコール依存症の疑い群、1~2点は要注意群(問⑥で1点のみの場合は正常群)、0点は正常群となります。

お酒をやめる方法は?自力でアルコール依存症から抜け出せるの?

アルコール依存症やその途中過程の状態にある方は、専門の医療機関で早期に治療を受けることが重要です。自力でお酒をやめようとする方も少なくないでしょうが、アルコール依存症になりかけている人は、飲酒欲求のコントロールがすでにできなくなっています。

短期間は断酒することができても、飲酒欲求への対処の仕方を習得していなかったり、また離脱症状への治療ができていなかったりすると、しばらくしてから再び飲酒生活に逆戻りする可能性が高いといわれています。

自助グループへの参加

お酒をやめる方法としておすすめなのが自助グループへの参加です。自助グループとは、同じアルコール依存症の人達が自発的に結びついた集会で、互いの体験を話し合い、励まし合うことで断酒継続を続けやすくする効果があります。主な自助グループには、以下のものがあります。

  • AA(アルコホーリクス・アノニマス)
  • 公益社団法人全日本断酒連盟(断酒会)

アルコール依存症の治療は入院が基本?減酒外来って?

アルコール依存症の治療法は、医療機関によって多少治療方法は異なりますが、アルコール依存症は入院治療が主流です。

一般的に入院中は、離脱症状や合併症の治療を行う「解毒治療」、個人精神療法や集団精神療法を通じて飲酒問題の現実を自覚し、断酒を決断するための「心理療法」を行います。そして退院後も、断酒を継続するための通院治療、抗酒薬や飲酒抑制薬の処方などでアフターフォローを続けていきます。

お酒を減らす「減酒外来」も検討しよう

「病院に行くと、無理やりお酒をやめさせられる」と思っていませんか?
確かに重度のアルコール依存症患者については、断酒が必要となるのは事実です。しかし近年、軽度な依存症や予備軍の人であれば、お酒を減らす「減酒」でも効果があるという考え方が欧米で出てきています。

そこで国内で開設されたのが減酒外来」です。次の項目に当てはまる人は減酒外来の受診を検討してみることをおすすめします。

  • アルコールとの付き合いに問題を感じている
  • お酒を減らしたり、お酒との付き合い方を変えたい
  • アルコール依存症かもしれないけど、お酒をやめることには抵抗がある

減酒外来での治療

近年、設置する医療機関が増えている減酒外来ではアルコール依存症の重症度に合わせて次のような治療が行われます。

  • カウンセリング
  • 認知行動療法などの精神療法
  • 薬物療法
  • 自助会への参加

カウンセリングや精神療法は、医師や精神福祉士などと減酒目標を決め、毎日の飲酒状況などを記録しながら減酒に向けて意識を変革させることを目的に行います。軽度な場合はカウンセリングや精神療法で減酒に成功することもありますが、うまくいかない場合は薬物療法が必要となります。

現在、減酒治療に用いられている薬は、服用するとアルコールの代謝が遅れて強い「二日酔い」のような症状が現れる嫌酒薬、飲酒の1~2時間前に服用することでアルコールへの欲求を鎮める減酒薬などがあります。
アルコール依存症の治療は難しく長期間に渡るため、担当医と相談しながら自分にあった治療法を見つけていきましょう。

アルコール依存についての相談機関

病院に行くのは抵抗があるという方は、以下の公共の相談機関を利用するという手もあります。いずれも電話や対面などで無料相談ができます。詳しくは公式HPからお問い合わせください。

  • 保健所
  • 精神保健福祉センター

飲酒欲求のセルフコントロール

専門治療と並行して、患者自身が再飲酒に走らないようなセルフコントロールの方法を身につけることも重要です。飲酒以外のストレス対処法を習得する、新しい趣味を見つける、周囲には断酒を宣言して飲み会には行かない(飲み仲間とは連絡をとらないようにする)、飲み屋の多い繁華街には近づかない、といったことが挙げられます。

家族がアルコール依存症かも…お酒をやめさせるには?

アルコール依存症は、患者本人だけでなくその周囲の人も巻き込んでいく病気です。特に家族は、家庭内暴力や失職による生活苦、借金、離婚、子供の発達への影響といった大きな問題まで抱え、疲弊する傾向にあります。

特にアルコール依存症による金銭問題に関しては、本人に代わって家族が尻拭いするケースが非常に多いのですが、こうした行動は「イネイブリング」といい、本人の飲酒を可能にし、助長する原因となります。

本人が作った問題は本人に返し、本人にしっかり向き合わせ、事の重大さを自覚させなくてはアルコール依存症は治りません。アルコール依存症患者の多くは、自身の飲酒習慣や問題を否認する傾向にあるからです。

まずアルコール依存症の家族にお酒をやめさせるには、世話を焼き過ぎないで見守ることが重要です。そして外部の専門機関や自助グループなどに問い合わせ、適切な対処法について相談しましょう。家族向けの相談機関や自助グループには、以下のものがあります。

  • 保健所
  • 精神保健福祉センター
  • アラノン(アルコール依存症者の家族のための会)

アルコール依存症の家族向け「CRAFT」プログラムとは?

アルコール依存症患者本人は、「病院に行くとお酒をやめさせられる」「自分は依存症じゃない」などという思いから受診を嫌がる傾向にあります。そのことから、通院させることを諦めてしまっているご家族も少なくありません。

しかし、近年「CRAFT(クラフト)」という家族向けのプログラムが注目を集めています。

CRAFTとは
CRAFTは、飲酒や薬物問題に悩む家族のためにアメリカで開発されたプログラムで、対立を招かずに治療をすすめる方法を学ぶためのもの

例えば飲酒問題について本人に話すとき、暴言や暴力をふるわれることがあるかもしれませんが、そうしたリスクはタイミングを見計らうことで避けやすくなります。基本的には、お酒を飲んでいないシラフのときに話を切り出すのが安全です。
また、CRAFTのコミュニケーション法にはいくつかのコツがあります。肯定的な言い方をする、思いやりのある発言をする、「私」を主語にする、といったことです。

そしてもう一つ重要なのが、望ましい行動を増やすようにアプローチをすることです。シラフでいてくれたことへの喜びを伝える、仕事から帰ってきたら笑顔で出迎えるなど、「お酒を飲まないでもいいことがある」という体験を積み重ねることで、少しずつアルコール依存の程度を減らせる可能性があります。

このCRAFTプログラムは、専門の医療機関や精神保健福祉センターの家族教室などでも、近年取り入れられるようになってきています。詳しく知りたい方は、問い合わせてみることをおすすめします。

おわりに:専門機関や自助グループの支えで、アルコール依存症の断酒を現実に!

アルコール依存症にまでなってしまうと、そこから回復するのは簡単なことではありません。しかし、専門機関の力を借りたり、自助グループの仲間からのアドバイスを得たりして意識を変えていくことで、少しずつ断酒の達成が現実のものとなっていきます。ご自身や家族の飲酒問題でお悩みの方は、一度保健所や精神保健福祉センターで相談されてみてはいかがでしょうか。

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