記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/8/14
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
サイトメガロウイルス腸炎とは、人の体内に入ったウイルスが引き起こす感染症です。サイトメガロウイルス感染症は身体のさまざまな部位で起こりますが、腸で炎症を起こすとサイトメガロウイルス腸炎と呼ばれます。
では、サイトメガロウイルスとは具体的にどんな症状を引き起こす疾患なのでしょうか?また、どんな人が感染しやすいのでしょうか?
サイトメガロウイルス腸炎とは、ヘルペスウイルスの一種であるサイトメガロウイルスによって引き起こされる感染症の一種です。
サイトメガロウイルスに感染しやすいのは、HIVに感染しAIDSを発症している人、臓器移植の治療を行った人、ステロイドなどの薬剤を使用している人、抗がん剤を使用している人などです。いずれも免疫機能を何らかの原因で損なったり、抑制したりしているため、サイトメガロウイルスが体内で増殖しやすく、炎症を起こしやすいのです。
HIVの感染からAIDSを発症している方では、HIVの活動を抑える抗HIV薬を投与することで、同時にサイトメガロウイルスの活動も抑えられることがわかっています。
臓器移植などの治療を行っている人は、拒絶反応を起こさないために免疫抑制剤を飲む必要があります。この免疫抑制剤の作用により、ウイルスや細菌に対する抵抗力が落ちてしまいます。ですから、移植後は体内に潜伏しているウイルスや細菌の活動・増殖がないか定期的にモニターし、活動・増殖が見られた場合は抗ウイルス剤を投与し、それ以上症状が進行するのを防ぎます。
サイトメガロウイルス腸炎を発症すると、以下に示すような症状が見られます。
自覚症状は、サイトメガロウイルスのみが発症する症状ではないため、自覚症状だけでサイトメガロウイルス腸炎と確定させることはできません。しかし、内視鏡を用いて患部を観察すると、打ち抜き状という断崖のようにえぐれた形の潰瘍が見られます。
また、アメーバ性腸炎の発症をきっかけに、サイトメガロウイルスの再活性化が起こる場合があります。この場合、大量に出血して死に至ることが少なくないため、合併発症が疑わしいときは確定診断を待たずにアメーバ性腸炎とサイトメガロウイルス腸炎の両面から治療を開始することがあります。
サイトメガロウイルス腸炎かもしれないと思ったら、どのようにして診断されるのでしょうか?また、どのような治療を行うのでしょうか?
サイトメガロウイルスの診断には、血液検査、内視鏡による観察、培養検査などが実施されます。
サイトメガロウイルス腸炎以外にも、他の腸疾患が疑われる場合は、まず低侵襲である血液検査を行います。しかし、血液検査では、免疫機能の低下によって再活性化したサイトメガロウイルスによって引き起こされた感染症の原因を確定することはできません。
ただ、ウイルスの数を推定するために血液検査を行う場合もあります。
血液検査で確定できない場合は、内視鏡検査によって組織を採取し、病理学的な検査を行います。サイトメガロウイルスに感染した細胞に特有な「フクロウの目」と呼ばれる核内封入体が見られれば、サイトメガロウイルス腸炎であるという確定診断ができます。
患者が新生児であった場合、侵襲性の高い検査はできる限り避ける必要があります。そのため、熱が出ていたり具合が悪そうな新生児には、まずは尿の培養検査を行います。
サイトメガロウイルス腸炎の治療は、薬物治療によって行われます。
ガンシクロビルやホスカルネット、バルガンシクロビルはいずれも抗ウイルス薬です。抗ウイルス薬は、サイトメガロウイルスのDNA複製に関わる酵素の作用を阻害し、増殖を抑える薬剤です。治療の始めに選択されるのは点滴や注射です。点滴や注射で薬剤を投与することで、体内での代謝を待たずに作用を期待できます。
しかし、軽症で内服によっても治療が可能と判断される場合は、バルガンシクロビルの内服薬で治療を開始することもあります。また、軽症の患者のうち、高度不妊治療(ART)を開始する予定がある場合には、抗ウイルス剤の投与を行わない場合があります。
サイトメガロウイルス腸炎は、免疫機能が正常な方では起こりにくい疾患です。ただし、臓器移植や抗がん剤などの治療中の人や、AIDS発症者ではそのリスクが高くなります。
免疫力が低下しているときに下痢や腹痛などの自覚症状が現れた場合は、軽視せずに主治医に相談しましょう。