記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/9/1 記事改定日: 2019/10/11
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
妊娠中の女性は、通常ではかからない妊娠中特有の疾患や症候群にかかることがあります。HELLP症候群もその一つで、主に妊娠後期にかかることが多い疾患です。
この記事では、HELLP症候群の詳しい症状やかかりやすい人、リスクを下げる方法などについて解説します。
HELLP症候群とは、妊娠中の女性のみに発症する疾患です。妊娠の後半から産後にかけて発症しやすく、悪化すると血液が固まりにくくなったり全身の臓器が致命的なダメージを受けたりして、母体が生命の危険に晒される可能性があります。
そのため、妊娠中にHELLP症候群の症状が出た場合、出産・産後まで母体の健康状態をしっかりと管理しなくてはなりません。
これら3つの特徴の頭文字を取って「HELLP」と名付けられています。
肝酵素上昇とは、肝臓の細胞が何らかの原因でダメージを受け、通常肝細胞の中で働いている酵素が血液中に漏れ出てしまっている状態です。
この数値が高いと、肝臓が受けているダメージが大きいことがわかります。
HELLP症候群が直接胎児の発育に影響を及ぼすかどうかはわかっていませんが、発症時期と母体の状態によっては未熟児・低体重児でも分娩を促す必要があるため、母子ともに注意が必要です。
HELLP症候群になる原因は、はっきりとはわかっていません。しかし、妊娠高血圧症候群との関連性が指摘されているほか、肝動脈の痙攣性の収縮や血管の内皮細胞の障害が原因ではないかともいわれています。
HELLP症候群を最も発症しやすいのは、妊娠27週〜37週の女性です。また、HELLP症候群を発症した人のうち、約7割は産前、約3割は産後の発症で、特に産後の場合、分娩後48時間以内に発症することが多いとわかっています。
また、妊娠・分娩した人のうち約0.2〜0.6%の人で発症していますが、妊娠高血圧症候群を発症しているとその割合は約4%〜12%に上昇します。
さらに、妊娠高血圧症候群のうち子癇の発作を起こしている人では、約50%と2人に1人がHELLP症候群を発症します。
初産よりも2人目以降の経産婦、双子以上の多胎、高齢出産の人にも多く見られます。
HELLP症候群を発症すると、以下のような症状が見られます。
これらのよく見られる症状はHELLP症候群に特有のものではなく、他の内科的な疾患にも共通する一般的な症状です。そのため、風邪や一時的な体調不良と見過ごしてしまう恐れがあり、十分に注意が必要です。
HELLP症候群と関連性の高い妊娠高血圧症候群の人では、子癇の前兆である頭痛や目がかすむ、チカチカする、黄疸・出血などの症状が出ることがあります。
HELPP症候群は発症初期の段階では特徴的な症状が現れにくいこともあり、受診が遅れることも少なくありません。
HELLP症候群は進行すると母子ともに非常に危険な状態になることもあり、できるだけ早く発見し、緊急帝王切開などの処置をする必要があります。
妊娠後期に突然次のような症状が現れた場合はHELLP症候群の可能性がありますので、できるだけ早くかかりつけの産婦人科に相談するようにしましょう。
HELLP症候群と診断された場合、基本的には分娩を促して妊娠を終わらせます。この症候群にかかる女性の多くは妊娠後期であり、胎児を母体の外に出しても母子ともに助かる確率が高いためです。
具体的には、妊娠34週以降で胎児の肺が十分に成熟していると判断されれば、できるだけ分娩を早める措置が取られます。
妊娠32〜34週の場合、母体にコルチコステロイドを投与し、胎児の肺の成長を助けてから分娩することもあります。
妊娠週数が32週未満の場合は早産となり、未熟児・低体重児のリスクが高まりますので、母体と胎児の状態を見てバランスをとりながら治療方針を決定します。
しかし、HELLP症候群の場合母体の状態が非常に危険なことが多く、妊娠週数に関わらず胎児の状態よりも母体の状態を優先させる場合が多いです。
また、この疾患を発症している人は血小板が減っていて血液が固まりにくい(凝固障害)状態であり、帝王切開を行う場合は血小板輸血などが必要となることもあります。
HELLP症候群の診断は、自覚症状に加え、血液検査で行います。一般的に以下の値が基準値を逸脱していればHELLP症候群と診断されますが、肝酵素や血小板の値は経時的な上昇率・下降率で判断することもあります。
LDH値の上昇は溶血・肝機能低下の両方で見られます。また、AST値の上昇は肝臓の激しいダメージを表します。
HELLP症候群を発症した場合、治療のためには分娩を促されます。しかし、分娩後すぐに母体の状態が回復するわけではなく症状が続くこともあり、母子ともに以下のような合併症を引き起こす可能性がありますので注意が必要です。
播種性血管内凝固症候群とは、通常血管内では固まらないはずの血液が固まってしまい、血管内に多くの微小血栓が産生されてしまう症状です。悪化すると全身の臓器に影響を及ぼすため、迅速な治療が必要です。
また、HELLP症候群の直接の影響ではありませんが、母体の状態によって早産の状態で分娩となった場合、未熟児や低体重児のリスクが高まります。新生児の状態にも十分な注意が必要です。
1人目の出産の時にHELLP症候群を発症した場合、必ずしも2人目以降もHELLP症候群を発症するわけではありません。また、以下のような予防策を取ることで、HELLP症候群にかかるリスクを下げることができます。
また、HELLP症候群を発症する人は発症前から胎児の発育が不良なことが多いため、エコー検査によってこまめに発育をチェックすることも重要です。
母体の変化にすぐ対応できるよう、1人目の出産時に血圧が上がってきた時期の少し前から入院管理を行うこともあります。
HELLP症候群の治療として主に取られる方法は、分娩を早めることです。妊娠34週〜37週ごろで胎児の肺が十分に成長していれば母子ともにリスクは低いですが、妊娠32週未満では発達が不十分で未熟児や低体重児のリスクを高めることがあります。
HELLP症候群を防ぐには、妊娠高血圧症候群を防ぐのが効果的です。初産で妊娠高血圧腎症やHELLP症候群を発症した人は、低用量アスピリンの使用を医師に相談したし、日常生活では疲労をしすぎないように気をつけましょう。
この記事の続きはこちら