記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
結節性硬化症はてんかんや知的障害などの症状がみられる病気ですが、それ以外にも症状があることをご存知でしょうか。この記事では、結節性硬化症の症状や遺伝との関係、治療法と日常生活での注意点について解説していきます。
結節性硬化症とは、過誤腫という良性の腫瘍や過誤組織という先天性の病変が、皮膚、神経系、腎、肺、骨など様々な場所にできる病気のことです。
以前は、顔面血管線維腫という数ミリの赤みを帯びた腫瘍、てんかん、知的障害の3つの症状が見られる場合に結節性硬化症と診断されていましたが、現在では診断技術の進歩により、知的障害やてんかん発作を伴わない軽症の場合もあることがわかりました。
ただし、症状の有無や、症状の程度などは年齢によっても異なり、個人差が大きいという特徴があります。
結節性硬化症の原因は、体内にあるmTOR(エムトール)蛋白質の働きを抑制する蛋白質をコードする遺伝子(TSC1遺伝子、TSC2遺伝子のいずれか)に機能喪失型の変異が生じることです。
これらの遺伝子が変化すると、mTORの細胞を増殖させる作用が過剰に働くようになるため、様々な場所に腫瘍が作られるようになります。
両親のどちらかが結節性硬化症を患っている場合、生まれてくる子供が結節性硬化症になる確率は男女問わずおよそ50%とされています。しかし実際には、両親からの遺伝で結節性硬化症になる場合よりも、偶然、精子や卵子の遺伝子に異変が起こることにより発病するケース(孤発例)が多いとされています。
ただし、孤発例の患者さんの場合でも、次の世代をつくるときに生まれてくる子供が結節性硬化症になる確率は、遺伝の法則に従い50%となります。
結節性硬化症のおもな症状には、以下があります。
乳児早期に出現するてんかんには、点頭てんかんと呼ばれる頭をたれるタイプのものと、複雑部発作と呼ばれる頭をたれた後に意識がなくなり、手足の一部にけいれんが起こるタイプのものがあります。
脳の一部の細胞が正常に機能しないことによりできる、皮質結節と呼ばれる固い部分が、脳の表面に見られることが多いです。
新生児では、心臓に横紋筋腫ができることにより心筋肥大、不整脈、心不全などが起きることがあります。ただし、これらは年齢を重ねると共に自然に消えていくため、心不全を起こさない限り手術を受ける必要はありません。
生後直後から皮膚に白いあざ(白班)がある場合が多いです。木の葉状の形をしていることが多いですが、細かい紙吹雪のような小白班が多発している場合もあります。また、髪の毛に白班ができる場合は髪の色が褐色や白髪になることもあります。
2歳頃から顔面(特に頬部)に赤い糸くず様のしみができたり、幼稚園や小学校に上がる頃から頬や下あごに血管繊維腫ができることがあります。また、あまり赤みのない正常皮膚色のもの、少し大きい扁平なもの、少し黒みのある球形のものなどが出現することもあり、徐々に数が増えていく傾向にあります。
20歳頃から、固い腫瘍が手や足の爪の上や下周辺に出現し、徐々に増加・増大することがあります。また、思春期頃からでこぼこした皮膚の盛り上がりが腰部にできて増大したり、幼児期からイボに類似した固い小さなできものが皮膚にできることもあります。
また、胴体を中心に様々な場所に出現したり、バレーボール大の盛り上がったかたまりになる場合もあります。
腎臓にできる嚢腫(液体の入った空洞)や、血管筋脂肪腫(血管や筋肉の脂肪成分が多い腫瘍)が増大することにより、腎機能障害や高血圧が引き起こされることがあります。
とくに腎血管筋脂肪腫が出血を起こすと激痛を伴い、出血量によっては出血性のショックを引き起こすこともあります。
上記のほか、甲状腺、骨、消化管、肝臓、血管などの他の臓器にも様々な病変が認められることがあります。
てんかんの症状については、基本的に結節性硬化症によるてんかんとそれ以外のてんかんの治療法は同じで、医師の指示に従い服薬をきちんと行うことが大切になります。
また、てんかん発作の原因が脳内の結節によるものの場合は、その部分を脳神経外科にて切除することもあります。そのほかの治療については以下の通りです。
腎臓の血管筋脂肪腫による出血の危険がある場合は、腫瘍を養っている血管を詰めることにより腫瘍への栄養供給を絶ち、腫瘍を縮める方法が取られることがあります(ある程度の大きさまでの場合に取られる方法です)。
また、エベロリムスという薬剤を使用して結節性硬化症の腎腫瘍を治療する方法もあります。
肺のLAMの治療法として、ホルモン療法、卵巣摘出、肺移植などがあります。
また、シロリムス(別名ラパマイシン)という薬剤を使用して治療することもあります。
血管線維腫や爪周辺の腫瘍は皮膚科で治療を受けることができます。
また凍結凝固療法、レーザアブレージョン、ラパマイシンの塗り薬の使用なども有効な治療法とされています。
結節性硬化症は全身に様々な症状が現れ、症状の程度も人によって異なります。
小児慢性特定疾病情報センターによれば、発症者の45%が20歳未満で亡くなるとしており、13%が50歳以降も生存しているとのことです。一方で、近年では検査技術の向上により、以前は診断がつかなかった軽症の方にも診断が下されるようになり、生存率は大幅に上昇しているといわれています。
この病気と診断された場合は、医師の指示に従って適切な治療を続けていくことも大切ですが、それぞれの症状を悪化させないよう日常生活にも注意が必要です。
日ごろから生活リズムを整えて、疲れやストレスを溜めない生活を心がけましょう。また、てんかん症状がある方やLAMを発症している方は食事内容にも制限があります。医師や栄養士の指導に沿って食事制限を続けていきましょう。
結節性硬化症は、両親からの遺伝で結節性硬化症になる場合よりも、偶然、精子や卵子の遺伝子に異変が起こることにより発病するケース(孤発例)が多いです。また、症状にも個人差があるため、必要な治療も変わってきます。個人個人で変わってきます。医師と相談しながら、ご自身にあった治療方法を探していきましょう。
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