記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
アニサキスによる食中毒について、厚生労働省の統計によると、2007年に6件だった報告件数が16年に20倍以上の124件に増えたとされています。
ここでは、意外と身近に潜んでいるアニサキス食中毒の症状と対処法について解説していきます。
魚類を生で食べると、その中に含まれるアニサキス幼虫によって、腹痛、下痢、嘔吐、下血、ならびに軽度の発熱などの症状を発症する可能性があります。
アレルギー反応も起こる可能性があり、まれに発疹やかゆみ、さらにはアナフィラキシー(強いアレルギーによるショック状態)を伴うこともあります。
アニサキス幼虫は無色であり、通常は嚢胞内にバネのように巻かれています。幼虫の大きさは5mmから20mm程度です。
アニサキスは、サバ、イワシ、カツオ、サケ、イカ、サンマ、アジなどの魚介類に寄生しています。
一般的に、高い塩分や酸が強いお酢は殺菌効果があり、食中毒の予防になると考えられています。
しかし、アニサキスは塩やしょう油、お酢などに晒しても死滅せず、これらの処理だけでは食中毒を予防することはできません。アニサキスを死滅させるには、加熱か冷凍が必要です。しめ鯖を作るときには適切な冷凍処置(-20度以下で24時間以上)を行ったサバを利用するようにしましょう。また、市販のものを購入する場合でも冷凍処置が施されたものを選ぶようにしてください。
アニサキスの幼虫は、臓器や魚の腸の周りの組織の表面に存在する可能性があります。特にサバ、イワシ、カツオ、サケ、イカなどの魚が赤く腫れている場合は、肛門周囲の筋肉を調べてください。また、基本的には魚の内臓は生で食べないようにしましょう。
野生の魚の生食するときは、-20℃以下の家庭用冷凍庫で少なくとも24時間冷凍することが推奨されています。これにより、目視で検出できなかったアニサキス幼虫も確実に殺せると考えられています。
ただし、大型魚の場合は厚みのある部分が-20℃以下まで下がるのに24時間以上かかることがありますので、少し長い時間冷凍することをおすすめします。
上記でも説明しましたが、食酢、塩、醤油などに漬けても、アニサキス幼虫は死滅しません。必ず冷凍処置をしましょう。
釣った魚を燻製(スモーク)にするときは、身が厚い部分の深部の温度が60℃~70℃以上で1分間加熱されるように十分スモークしてください。肉質がフレーク状になれば問題ないとされていますが、なるべく温度計で中心部の温度を確かめるようにしましょう。可能ならば、スモークする前に-20℃以下で冷凍することをおすすめします。
アニサキスの根本的な治療には、内視鏡を胃内に挿入して、胃の粘膜に食いついているアニサキスを取り除くことが必要です。
内視鏡が発展していなかった時代には、アニサキス症は急性腹症として開腹手術が行われることもありましたが、今ではほぼすべてのケースで内視鏡治療が可能です。しかしまれではありますが、小腸の壁に食いついたアニサキスは内視鏡で除去することができないため、手術によって取り除かなければならないこともあります。
また、アニサキスが粘膜に食いつくとアレルギー症状を引き起こすことがあるため、内視鏡治療と並行して抗アレルギー薬の投与が行われることもあります。
一般的に、内視鏡でアニサキスを除去できれば激しい腹痛や嘔吐などの症状は治まりますが、胃の粘膜が荒れた状態となるため数日間にわたって胃の粘膜を保護する胃薬が処方されます。
アニサキスはサバやイワシ、イカなど、身近な魚介類に潜んでいます。煮魚などのように十分加熱する場合は問題が起こらないことが多いですが、自宅での調理で生食するときは下処理に注意しましょう。
アニサキスは人体に寄生し続けることはできないので、しばらくすれば排出されますが、アナフィラキシーなどの重篤な状態に陥るおそれもあるので、魚を食べて具合が悪くなったときは、なるべく早めに医師に相談することをおすすめします。