記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
性病(性感染症)のひとつ「梅毒」は日本で全国的に広がっていて、これまで多かった大都市だけでなく地方の患者も増えているといわれています。
この記事では、梅毒とはどのような病気かについて説明しています。治る病気とはいわれていますが、放置するのは危険です。もしものときのために、この記事で基礎知識を身につけて予防しましょう。
梅毒とは、痛みを伴わない潰瘍を引き起こす細菌性の性病(性感染症)で、潰瘍は通常性器周辺にみられます。潰瘍は自然に消えますが、発疹が出たりリンパ節が腫れたりするなどのほかの症状が現れることがあります。
梅毒は初期の段階では非常に感染力が強く、性交渉の際に感染者の皮膚に密着すると感染します。梅毒は抗生物質(ペニシリン)を注射したり錠剤を服用し、治療します。
なお、妊娠中にかかると梅毒は胎盤を通過し、様々な障害や死産を引き起こす可能性があります。
梅毒の感染予防にはコンドームの使用が役立ちますが、キスなどでも感染する可能性があります。不特定多数と性行為をすることで感染リスクが高まるので、そのような性生活を過ごすのは避けた方が良いでしょう。
また、梅毒は下記で説明するように進行すると深刻な状況に陥りかねません。早期に治療を始めることが重要なので、不安になった場合は速やかに病院を受診しましょう。
梅毒の第1段階は初期梅毒と呼ばれ、通常、感染してから10日~3ヶ月後に起こります。男性では、梅毒感染のきっかけは陰茎の傷口、女性の場合は腟周囲または腟の傷口である可能性があります。梅毒の傷口は通常痛みを伴わないので気付かないかもしれませんが、早期に梅毒を治療しないと傷口から血中に細菌が広がります。
梅毒が血液に入ると、第2段階に入り、はっきりした症状が現れるようになります。
最も一般的な兆候は発疹です。発疹は通常赤褐色のバラ疹と呼ばれるもので、体のどこにでも(手のひらや足の裏にも)発生する可能性があります。 発疹は傷口の出現から2〜10週間後に現れ、その他第2段階の症状として、発熱、リンパ節腫脹、咽頭痛、体の痛み、口中の痛み、疲労感などがあります。
そして第2段階から回復した後は、潜伏期に移行することがあります。この段階では症状はありませんが、細菌はまだ体内に残っている状態です。
長年梅毒を患っているにも関わらず治療を受けていない人々は、第3段階を発症する可能性があります。この段階は、脳や脊髄に問題を引き起こす可能性があり、心臓や血管系にも損傷を与えることがあります。
梅毒感染者には、感染の兆候がない人や、非常に軽度な人もいます。その人々は自分が梅毒感染者だと知らない可能性があります。
しかし、彼らに兆候がない場合や兆候が消えても、細菌はまだ生きており、何年も後に深刻な健康上の問題を引き起こす可能性があります。
さらに治療をせずに放置し、感染から10年以上が経過した状態が第4期です。医療が進歩した現在では非常に稀なケースであり、日本では第4期まで進行する例はまずありません。しかし、発展途上国などの医療が行き届かない地域では、第4期に進行した患者が見られることもあります。
この時期になると、脳や脊髄、神経などが梅毒に侵されて様々な運動麻痺や認知症様の症状が見られるようになります。また、精神状態にも影響を及ぼし、錯乱や興奮状態となって自傷他害の恐れも出てきます。
また、多くの臓器に腫瘍が広がって、呼吸困難や心不全、肝不全など様々な内臓の障害を引き起こし、最終的には衰弱して死亡する可能性が極めて高くなります。
梅毒の治療はペニシリン系の抗生物質の投与によって行われます。一般的には、サワシリン®やビクシリン®などの飲み薬が使用されますが、服用期間は病状によって異なります。第1期よりも第2期に進行したケースの方が治療期間は長くなることが多く、第3期以降では抗生物質の治療を続けても皮膚に瘢痕などの後遺症を残す可能性が高くなります。また、脳や脊髄などが梅毒に侵される神経梅毒を発症した場合には、抗生物質を使用しても症状が改善せずに死に至ることもあります。
梅毒は、コンドームの着用である程度感染を予防できますが、キスなどでも感染の可能性があるため、不特定多数との性行為は避けるようにしましょう。
また、深刻な状態に陥らないためには、早期に治療を始めることが大切です。気になる症状があるときや、不安なときは早めに病院で検査してもらいましょう。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。