腎盂腎炎に前触れはあるの?どんな症状のときは危険なの?

2018/11/7 記事改定日: 2019/8/22
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

腎盂腎炎とは、腎臓にある腎盂という場所で雑菌が繁殖し、炎症を起こした状態のことです。高熱などの症状が特徴的ですが、他にどのような症状が出るのでしょうか。前触れなどはあるのでしょうか。
ここでは腎盂腎炎の症状を中心に、基礎的な情報をまとめています。

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腎盂腎炎ってどんな病気?

腎盂腎炎とは、腎臓に細菌が感染する疾患のことです。腎臓から膀胱までの尿路という尿の通り道は通常、細菌のいない無菌状態が保たれていますが、何らかの原因で細菌が侵入し感染を起こした場合、尿路感染症と呼ばれる状態になります。

尿路感染症は、細菌が感染した部位によって上部と下部に分けられます。腎盂腎炎は、このうち上部尿路感染症に当たります。

腎臓で作られた尿は、腎盂という腎臓内で尿をためておくところから、尿管を通って膀胱に移動して排出されます。

細菌は外部から侵入しますので、多くの場合、最下部の尿道から侵入し、膀胱や尿管を逆流するような向きに移動し、腎盂に辿り着きます。腎盂では尿がためられているため、ここで雑菌が繁殖してしまい、腎臓にまで炎症が広がります。これを腎盂腎炎といいます

雑菌の侵入が下部でとどまり、膀胱で炎症を起こすと下部尿路感染症の膀胱炎となります。膀胱炎も腎盂腎炎も、ほとんどは病原菌が逆流してくるタイプの逆行性感染症と呼ばれる感染症です。

通常、尿路は無菌状態に保たれているほか、尿路に雑菌が侵入してもそのほとんどは排尿によって体外に排出されるとともに、免疫機構によって退治されるため、炎症が起こることはまれです。

腎盂腎炎には、どんな症状があるの?

腎盂腎炎を発症すると、膀胱炎と比べて重い症状を発症することが多いです。

  • 背中や腰の痛み
  • 高熱・悪寒
  • 排尿時痛
  • 頻尿・残尿感

排尿時痛や頻尿・残尿感は膀胱炎にも見られる症状ですが、腎盂腎炎の場合はそれに加えて38℃を超える高熱や熱に伴う悪寒戦慄、背中や腰の痛みなどが現れます。

上記以外にも、全身倦怠感や、悪心・嘔吐などの消化器症状が出ることもあります。また、細菌が腎盂・腎臓からさらに血流をさかのぼって全身に広がるなど、悪化すると敗血症や急性腎不全、多臓器不全などの生命を脅かす疾患を引き起こす可能性もあります。

ただし、これらの症状はいずれも急性腎盂腎炎で見られるものです。慢性腎盂腎炎の場合、自覚症状がない場合も多く、あっても軽い腰痛や微熱、食欲不振など、急性腎盂腎炎と比べて非常に軽い症状であることが多いです。

慢性腎盂腎炎も細菌が活発に活動し、急速に症状が悪化する場合には急性腎盂腎炎と同様の症状が現れることがありますが、ほとんどが軽微な炎症の繰り返しで自覚症状がほとんどないまま腎細胞の破壊を繰り返し、進行すると腎不全に陥ります

腎盂腎炎って前触れなく起こることがあるの?

腎盂腎炎は、全身性の病気や尿路の問題がないのに突然発症するタイプの単純性腎盂腎炎と、尿路に何らかの異常があったり、糖尿病や免疫抑制治療を行っていたりする場合に発症する複雑性腎盂腎炎の2種類に分けられます。

単純性腎盂腎炎
  • 何らかの基礎疾患や尿路の異常なく突然発症する
  • 約70%が大腸菌によるもの。クレプシエラ属、プロテウス属などが原因のことも
複雑性腎盂腎炎
  • 尿路の異常や免疫力の低下など、基礎疾患や何らかの異常が背景になる
  • 大腸菌をはじめ、クレプシエラ属・プロテウス属・緑膿菌・エンテロバクター属・腸球菌・ブドウ球菌などが原因菌になる

急性腎盂腎炎のほとんどが単純性のもので、基礎疾患や尿路の異常なく突然発症します。ただ、投薬治療などの処置を正しく行えば重篤化することもなく根治が可能です。

膀胱炎から細菌がさらにさかのぼって発症する場合もありますが、膀胱炎を起こさずに腎盂まで辿り着いた細菌が腎盂で増殖し、前触れなく腎盂で突然炎症を起こす場合もあります。

腎盂腎炎で救急車を呼んだ方がいい症状って?

腎盂腎炎は重症化すると急激に敗血症などの非常に重篤な状態に進行してしまうことがあります。次のような症状が見られるときは重症化している可能性が考えられます。早急に治療をしないと死に至ることもあるため場合によっては救急車を呼ぶことも考えましょう。

  • 悪寒や震えがあり、39度前後の急激な体温上昇がある
  • 尿量が少ない
  • 意識がもうろうとして呼びかけへの反応が薄い
  • 背中や腰に激痛が走り、動くことができない

腎盂腎炎の原因って?

腎盂腎炎の原因となる細菌は多くが膀胱炎と同様、大腸菌が約7割を占めます。

膀胱炎と同様、青年期の女性に多いのが特徴ですが、男性でもまれにかかることがあります。また、閉経後や高齢の女性でもかかる確率が高くなります。単純性腎盂腎炎を繰り返す場合、尿路に何らかの異常となる基礎疾患が存在する可能性があるため、泌尿器科で尿路の検査を受ける必要があります。

複雑性腎盂腎炎の原因は多岐にわたっていて、原因菌もさまざまですが、原因となる基礎疾患も以下のようにさまざまです。

尿路の狭窄・閉塞を起こすもの
前立腺肥大、尿路結石、前立腺がん、膀胱がん
神経因性膀胱
膀胱の排尿機能を司る神経に何らかの異常がある
膀胱尿管逆流症
膀胱内の尿が尿管から腎盂・腎臓へと逆流する
免疫力の低下
糖尿病、がん、白血病、ステロイド、免疫抑制剤の投与など

また、やや特殊な例として、疾患の治療の一環として膀胱内にカテーテルが留置されている状態があります。この場合、カテーテルの接続部位から雑菌が入り込み、繁殖しやすくなります。

腎盂腎炎はどうすれば治せるの?

腎盂腎炎は、初期の段階では抗生物質を正しく服用することで治すことができます。
とくに、単純性腎盂腎炎の場合、抗生物質を処方どおりに服用することのほか、十分に水分を摂取し、排尿によって雑菌を洗い流すことも大切です。
また、放置してしまうと急激に重篤化することもありますので、症状が現れたら早めに病院で検査・治療を受けましょう。

複雑性腎盂腎炎の場合は、尿路の疾患や糖尿病などの基礎疾患をまず適切に治療することが第一です。

また、尿路結石やカテーテルの留置など、細菌が増殖しやすい異物は早めに除去することが大切です。耐性菌が現れて薬剤が効きづらくなったり、腎機能が徐々に低下したりすることを防ぐためにも、治療は根治するまで根気よく継続することが必要です。

薬を飲む期間

治療の期間は単純性・複雑性のいずれも約1〜2週間です。通常、4〜7日ほどで症状がおさまってくるため、薬剤を飲むのをやめてしまう人がいますが、これは絶対にいけません。

症状がおさまっても細菌はまだ体内に残っていることが多く、処方された薬が残っているのに飲むのをやめてしまうと、細菌が繁殖して症状がぶり返してくることがあります。
その場合、薬剤耐性菌が発生してしまい、慢性化することがあります。くれぐれも、処方された薬は必ず飲み切るようにしましょう。

薬剤の投与期間が終わったあと、1〜2週間程度開けて再発していないかの確認を行い、治療は終了となります。慢性腎盂腎炎の場合、尿検査に異常が出ない場合もありますので、抗生物質による治療を1ヶ月以上続けて行うこともあります。

腎盂腎炎は予防できる?

腎盂腎炎を予防するには、「膀胱内に細菌が入らない状態を保つ」「細菌が繁殖する前に洗い流す」ことの2つが重要なポイントです。

すなわち、尿道付近を清潔に保つこと、そして尿意を必要以上に我慢せず、水分を十分に摂ることです。疲れやストレス・風邪など、免疫力が低下することでも細菌は繁殖しやすくなりますので、風邪予防などの一般的な対処も大切です。

日常生活で気をつけられることをまとめると、以下のようになります。

  • お風呂やシャワーなど、陰部を清潔に保つ
  • 水分を十分に摂り、尿を膀胱に溜めすぎず適切に排尿する
  • 疲れやストレスを溜めすぎない
  • 風邪予防の手洗い・うがいをしっかりする

陰部を清潔に保つことは、尿道から細菌が侵入することを防いでくれます。とくに、女性の場合は男性と比較して尿道が短いため、どうしても細菌が膀胱へと入りやすくなっています。このため、こまめにシャワーや入浴を行うとよいほか、月経のナプキンやおりものシートなどはこまめに取り替え、清潔な状態を保ちましょう。

水分を十分に摂り、定期的に排尿することも重要です。膀胱に尿を溜め込みすぎると、そこで雑菌が繁殖しやすくなります。尿意は必要以上に我慢せず、適宜排尿を行いましょう。

おわりに:腎盂腎炎は前触れがないことも多い。気になる症状があるときはすぐに病院へ

腎盂腎炎は前触れもなく発症することがほとんどであり、放置すると深刻な状態に陥ることもあります。腎盂腎炎の症状に気づいたときには、すぐに治療が必要な状態です。すぐに病院で診てもらいましょう。

また、薬を途中で止めてしまうと薬剤耐性菌の原因になります。薬は医師に指示どおり最後前飲みきってください。

※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。

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