記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/11/6 記事改定日: 2019/6/28
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
大腸がんの患者さんに行われる治療のひとつに「大腸ステント」というものがあります。この大腸ステントとはどんな治療法なのでしょうか。メリット・デメリットも併せ、詳しく解説します。
大腸ステントとは、直径20mm程度の筒形をした形状記憶合金の網筒で腸の閉塞部を押し広げる治療法のことをいい、ステントとは金網のことを意味します。
この金網は畳むと3mm程度の細いカテーテル(外筒)に収まるようになっており、これを内視鏡の挿入部に通して肛門から入れます。閉塞箇所に達したら金網の外側のカテーテルだけを引き抜くことで畳まれていたばねが広がろうとし、その力を利用して閉塞部を押し広げることができます。
大腸は直径4~5cmの太さがありますが、大腸ステントは最大に広がっても直径2cmほどであるためこれによって閉塞が解除され、便が通るようになります。
大腸ステントの留置には約15~20分ほどかかりますが、治療自体に痛みはなく、一般的には留置後すぐに排便や排ガスを出すことができ、食事を摂取できます。
ステント治療はそもそも血管に対して行われるものでしたが、1990年代に悪性消化管狭窄に対する緩和的治療として導入され、2000年代に入ると世界的に大腸の悪性疾患も対象とするようになりました。
大腸ステントは、大腸の悪性腫瘍による狭窄を起こしている方の緩和治療、および腸閉塞症状が出ている大腸がん患者の緊急手術を回避する目的で行われます。
ただ、大腸が穿孔しているまたは切迫穿孔を伴うものや、長大または瘻孔などの複雑な狭窄・出血や膿瘍などの炎症を伴っているもの、さらに出血傾向の強いものや肛門縁に近い下部直腸の狭窄は大腸ステントの適応外となります。
また、回盲部も治療の適応外となっています。
大腸ステントを使用することで緊急手術や人工肛門をつけるという選択肢を避けることができ、QOLの維持につなげることができます。
また、治療後すぐに日常生活に戻ることができるため、患者さん自身の負担も減らすことができますし、術前に大腸の状態をある程度改善させられるので、全身状態を改善させてから根治治療に臨むことができ、根治性と安全性が両方確保できることもメリットといえるでしょう。
かつては大腸がんによって大腸が閉塞すると、緊急手術で人工肛門を作ることが一般的でした。
これはむくんで傷んだ腸管を閉塞した部分だけ切り落としてつなぐという処置を行うと、術後に縫合不全という重篤な合併症を起こしやすいからです。
また、手術時に大量の便によって手術部位が汚染されてしまったり、全身状態の悪い方に対して過大な負担を強いてしまうことがあり、手術後の成績もあまり良くなく、人工肛門の閉鎖もいずれ再度の手術が必要になることから、患者さんへの負担になっていました。
手術以外にもイレウス管を鼻や肛門から挿入して大腸の内容物を排出するという方法もあるものの、細いイレウス管では液体やガスは出ても固い便は出ないため効果は非常に限定的です。
このようなリスクを避けられるようになったことも、大腸イレウスを使うことの大きなメリットといえるでしょう
大腸ステント手術のデメリットは、ステントが留置できない症例があり、全ての人に治療ができるというわけではないことです。
また、臓器に穴が開いてしまう穿孔、ステントがずれてしまう逸脱が起きることもあります。
大腸が穿孔した場合には重篤な状態になりかねないだけでなく、その後長期間にわたって患者の予後にも影響する可能性があります。
手術を受けることを検討する際には主治医から説明をよく聞いて、メリットやデメリットについて理解しておきましょう。また、大腸ステントは日本においてはまだ新しい治療手技であることから、治療手技をしっかりと理解し、経験を積んでいる医療機関で治療を受けることを検討することが良いでしょう。
大腸ステント術は大腸がんによる大腸の狭窄を改善する目的で行う場合にのみ健康保険の適応となります。
一般的には、大腸ステント自体の価格は25万円前後で、ステント留置術にかかる診療報酬は109200円と定められています。
もちろん、大腸ステントを留置するには入院が必要であり、貧血などの治療も同時に行うこともあるため、医療機関によって異なりますが、この他にも10万円前後の費用がかかります。
すべて健康保険の適応となるため1~3割の自己負担となりますが、かかる費用について不安がある場合は事前に医療機関に問い合わせておくようにしましょう。
大腸ステントは日本ではまだ新しい治療法であり、血管内に留置されてきたステントを大腸内に留置することでばねの力で腸を広げて閉塞を解消します。これまで緊急手術や人工肛門を回避できなかった症例において、それらを避けることができるだけでなく、根治治療の実現ができるようになりました。
しかし、治療の過程で穿孔や逸脱が起こる可能性もあるため、主治医から説明を受けた上で治療を受けることが大切です。
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