記事監修医師
工藤内科 副院長 工藤孝文先生のスマホ診療できるダイエット外来
工藤 孝文 先生
脂質異常症は生活習慣病の一つとして知られており、そのままの状態が続くと動脈硬化を進行させてしまう恐れがあります。そのため、ご自身に合った生活改善や薬物治療を行い、血中脂肪値をコントロールすることが重要です。今回は治療法の一つである「運動療法」に注目し、運動の効果、運動の内容、注意点などをご紹介します。
運動は脂質異常症の改善に役立つため、治療でも重視されています。それでは、具体的に運動の働きやその効果について詳しくご紹介します。
運動には中性脂肪を減らす働きがあります。この理由は、運動の際は中性脂肪がエネルギー源として利用されるからです。
詳しく説明すると、まず中性脂肪が分解されると遊離脂肪酸として放出されます。そして、遊離脂肪酸の大部分はエネルギー源として利用されるのです。このことから運動は中性脂肪を減少させ、脂質異常症の改善に役立ちます。
運動には善玉コレステロールを増やす作用もあります。これは運動によって善玉コレステロールの代謝が活性化されるからです。
少し詳しく解説すると、運動を行うことでリポ蛋白リパーゼ(LPL)という脂質分解酵素が活性されて、トリアシルグリセロール(中性脂肪)などが分解されます。それに伴って、善玉コレステロールが増えていくのです。そのため、善玉コレステロールの増加という観点から見ても、脂質異常症の改善に役立つといえるでしょう。
運動には「中性脂肪を減らす働き」や「善玉コレステロールを増やす働き」以外にも、さまざまな働きがあります。
上記以外にも、運動にはストレスの解消、インスリン感受性の上昇、骨密度や脳機能の上昇などの効果も期待できます。反対に運動量が少ないと「動脈硬化などが進行しやすい」ということもわかっています。
このように運動は脂質異常症を改善するためだけでなく、生活習慣病全般を改善・予防するためにも重要なものとなっています。
運動によって脂質異常症の改善が期待できますが、実際にはどのような運動に取り組めばいいのでしょうか。以下では運動メニューやそのポイントをご説明します。
脂質異常症を改善したい場合は、「1日30分程度(1週間で合計180分以上)の有酸素運動に取り組む」と良いとされています。また、運動の強さは「ちょっとキツイけれど運動できる」程度を目安にすると良いです。この強度については「心拍数=138-(年齢÷2)」で算出できますが、わかりにくい場合には「心拍数110~120程度」を目安にすればいいでしょう。
脂質異常症の改善には有酸素運動がオススメです。有酸素運動とは筋肉への負荷が比較的軽い運動のことで、酸素を使って糖質や脂質をエネルギー源とする運動のことです。
具体的な運動メニューとしては、散歩、ラジオ体操、ウォーキング、ジョギング、水中歩行、水泳、サイクリング、エアロバイク、社交ダンスなどがあります。これらの有酸素運動は15分以上続けることで、効率よく脂肪が燃焼されるようになります。最初は散歩といった軽い運動から始めて、徐々にご自身に合った運動に取り組むといいかと思います。
脂質異常症の改善に向けて運動に取り組もうと思っても、「忙しくて時間が取れない」という方もいらっしゃるかと思います。そういった場合は「通勤前にバス停1つ分歩く」「通勤方法を自転車に変える」「なるべく階段を使う」といった方法もオススメです。このようにして日頃から身体を動かすことで、わざわざ運動時間を作らなくても運動に取り組めます。
運動は脂質異常症の改善に役立ちますが、間違った方法で運動すると体に負担がかかってしまいます。そこで運動時の注意点を紹介するので、よく確認しておいてください。
運動を始める前には、あらかじめ主治医に相談することが重要です。患者さんの中には、心不全などを患っている方や、腰痛・ひざ痛持ちの方もいるでしょう。そういった方が自己判断で運動に取り組むと、返って身体を壊してしまう危険性もあります。そのため、事前に「何分くらい運動をすべきか」「何の運動をすべきか」などを医師に確認しておきましょう。
運動に取り組む場合は、無理をせずに、その日の体調に合わせることが必要です。たとえば、風邪を引いていたり、運動前に吐き気、めまい、頭痛、倦怠感などを覚えていたりしたら、その日の運動を中止することが大切です。また、普段から体温や脈拍を計測しておき、異変が見られた場合は運動を控える、運動量を減らすなどの対応も必要になります。
脂質異常症を改善するには、日頃から運動に取り組むことが大切です。ただし、運動は大切ではあるものの、無理をすると返って身体のトラブルを引き起こしてしまう可能性もあります。そのため、まずは主治医と相談して、無理のない範囲で運動を取り入れるようにしましょう。
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