記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/12/18
記事監修医師
前田 裕斗 先生
妊活中の人にとって、基礎体温は重要な目安になることが知られています。毎日測り続けることで、月経周期によって一定の周期を繰り返す特徴があります。
では、そもそも基礎体温とは、そして基礎体温が低い状態とは何なのでしょうか?また、基礎体温が低い状態でも妊娠はできるのでしょうか?
基礎体温とは、生命維持のために必要最低限のエネルギーしか使っていないとき、すなわち眠っているときの体温のことです。基礎体温は眠っているときに測ることができないため、目が覚めてすぐ体を起こさずに測ります。一般的には36〜37度くらいが日本人の基礎体温とされており、これを大幅に下回る場合は基礎体温が低いと考えられています。
ただし、女性の基礎体温は女性ホルモンの分泌量によって、月経周期とともに周期的に変化します。月経周期の前半である月経から排卵までの間は卵胞期と呼ばれ、女性ホルモンのうち卵胞ホルモン(エストロゲン)が優位であるため、基礎体温は低めになります。排卵から次の月経までの間は黄体期と呼ばれ、女性ホルモンのうち黄体ホルモン(プロゲステロン)が優位となるため、基礎体温は高めになります。これは、プロゲステロンに体温を上げる作用があるためです。
そこで、卵胞期のことを低温期、黄体期のことを高温期と呼ぶこともあります。低温期と高温期の体温差が約0.3〜0.5度を推移していて、基礎体温は36度〜37度の間を推移していると良好な状態であるとされています。ですから、卵胞期で35度、黄体期で36度台の前半程度までしか体温が上がらない場合、基礎体温が低い低体温という状態である可能性が高いと考えられます。
基礎体温は時間帯や体調、測定方法によっても変わりますので、一時的な変化であれば過剰に心配する必要はありません。2〜3ヶ月程度測定を続けても常に35度〜36度前半であった場合に低体温を疑うと良いでしょう。
基礎体温が低い原因としては、主に2つの要因があります。
排卵が起こらないと、黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されません。すると、体温が上がりにくくなります。また、女性ホルモンは生活習慣の影響を受けやすく、ホルモンバランスが乱れるとやはり体温調節がしにくくなり、一定の体温を保てず低体温になりがちです。
また、これらの要因の他、体温調整に関わる甲状腺ホルモンの分泌量が低下することで基礎体温が下がることもあります。生活習慣に全く思い当たることがないのに基礎体温が低い場合、甲状腺に関わる諸器官に何らかの疾患がある可能性も考えられますので、一度病院を受診しましょう。
月経が起こっても、排卵が起こらない場合があります。これを無排卵月経と言い、排卵が起こらないため受精も起こらず、不妊の直接的な原因となります。低温期と高温期の温度差が0.3度以下である、または高温期が不安定で短いなどの場合は、排卵していない可能性があります。
これは、排卵が低温期から高温期に切り替わる頃に起こることと関係があります。月経周期を司る卵胞ホルモンと黄体ホルモンは、排卵によってその優位性が切り替わり、体温を上げる黄体ホルモンの働きによって基礎体温は高温期へ移行します。通常、この高温期は次の月経直前になるまで安定して続きますが、高温期が乱れたり短かったりする場合はホルモンの切り替わるトリガーである排卵が起こっていないと考えられます。
無排卵月経は重大な疾患を引き起こすものではありませんが、妊活中の人にとっては直接的な障害となってしまいます。妊娠を希望している人で無排卵月経かもしれないと疑われる人は、早めに婦人科を受診しましょう。
女性ホルモンのバランスを乱す原因の代表的なものは「過度のストレス」「無理なダイエット」「睡眠不足」です。過度のストレスはホルモンバランスの乱れだけでなく免疫力や血流の低下など、さまざまな体調不良の原因となることがわかっています。
また、無理なダイエットは極端な栄養の偏りや栄養不足を招きます。栄養が偏ったり不足したりすると、体そのものを作る栄養素が不足するだけでなく、体内で働くホルモンや血球を始めとしたさまざまな代謝に関わる物質の生産がされにくくなります。代謝は体温を一定に保つ役割がありますから、代謝が低下すると低体温になりやすくなります。
睡眠不足は、自律神経のバランスを崩します。自律神経とは全身の主に内臓の器官に司令を出す神経であり、意識的に動かす神経ではありません。交感神経と副交感神経の2つがあり、自律神経が正常に働いているときは、この2つの神経が交互に活発になることで、活動時と安静時(休息時)の切り替えが行われます。
しかし、自律神経のバランスが崩れると、交感神経と副交感神経の切り替えが上手く行かなくなります。活動時ではないのに交感神経が活発になりすぎて、さらに眠れなくなる悪循環に陥ることもあります。
基礎体温を上げるための科学的に証明された方法はありません。そもそも基礎体温が低いこと、それだけで直接不妊につながることはありませんが、その裏に体調不良となる原因が隠れている可能性があります。具体的には以下のようなことに気をつけましょう。
睡眠に関しては、一般的に6時間以上とるのが理想とされています。ただし、必要な睡眠の量は個人差が大きいとも言われており、8時間がベストな人などもいます。自分のベストな睡眠時間は体調と相談しながら決めましょう。
また、睡眠の質を高めるのも重要なポイントです。寝る前にはスマホやPCなどの強い光を避け、間接照明などの暗めの照明で自然に睡眠に入れるようにすると良いでしょう。
以上の章で見てきたように、基礎体温が低いことはすぐに不妊の原因になるわけではありません。基礎体温が低くても、きちんと毎月月経と排卵が起こり、子宮や卵巣が正常に働いていれば十分妊娠の可能性があります。ですから、基礎体温をつけていて35度〜36度台前半を推移する低体温の状態であったとしても、すぐに慌てる必要はありません。
しかし、低温期と高温期が切り替わらず、基礎体温がずっと低いままである、または高温期が短かったり乱れていたりする場合は、無排卵である可能性があります。この場合、妊娠のために必要な排卵が起こっていないため、不妊の直接の原因となります。基礎体温のグラフが綺麗に低温期と高温期に分かれていない場合は、記録した基礎体温の表やグラフを持って産婦人科で相談しましょう。
また、低体温の状態で何ヶ月も妊活を続けているのに妊娠できないという場合は、無排卵ではなくとも何らかの疾患が隠れていることも考えられます。こちらも基礎体温表やグラフを持って、産婦人科を受診することをおすすめします。
基礎体温が低いというだけでは、一概に不妊であるとは言えません。これは、女性の基礎体温は月経周期によってある程度の変動があるものだからです。しかし、基礎体温のグラフが綺麗に二相に分かれておらず高温期があまりにも短い場合や、低温期がずっと続く場合は排卵が起こっていない可能性があります。
排卵が起こらなければ受精・妊娠もできないため、当然不妊となってしまいます。無排卵月経かも?と思ったら、できるだけ早く婦人科を受診しましょう。
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