記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
川崎病は、主に乳幼児などの小さな子供に起こる疾患です。1960年代に発見されたこの疾患は新しく、わかっていないことも多いですが、主な症状として血管に炎症が起こることがわかっています。
この川崎病の合併症で、子供でも冠動脈瘤ができることがあるというのは本当でしょうか?冠動脈瘤は生活習慣病で起こることが多い症状ですが、川崎病からの合併症として起こる場合はどのように起こるのでしょうか?
川崎病とは、1967年に川崎富作博士によって発表された症候群です。発表された当初は、小児の手足の指先から皮膚が剥ける症状を伴う「急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群」とされていましたが、のちに新しい疾患であることがわかり、博士の名前をとって「川崎病」と命名されました。この疾患は世界各地で報告されていて、特に日本人・日系アメリカ人・韓国人などのアジア系の人種に多く見られることがわかっています。
川崎病の原因はまだはっきりとはわかっていませんが、ウイルスや細菌に感染したのをきっかけに体内で白血球による免疫反応が起こり、全身の小中程度の大きさの血管に炎症が生じるのではないかと考えられています。白血球の免疫反応は、通常ウイルスなどの異物から体を守るために起こります。このとき白血球が血管の壁に集まってくると、白血球の出す酵素によって血管が痛んでしまい、やがて炎症を起こして血管炎という状態になります。
川崎病は、全国調査によれば1982年と1986年の流行を除き、1980年代後半~90年代では毎年6,000人ほどの子供がかかる疾患でした。その後、1999年には7,000人、2000年には8,000人と次第に増えています。かかる年齡のピークは1歳で、主に4歳以下の乳幼児で発症し、男子は女子の約1.5倍の発症率となっています。
冠動脈に大きなこぶ(冠動脈瘤、冠動脈径8ミリ以上)ができてしまうタイプの患者さんは、約0.5%(200人に1人)いると言われています。また、川崎病による死亡率は、最近では約0.05%(2,000人に1人)となっています。川崎病はうつる病気ではありませんが、兄弟でかかる場合が1〜2%存在し、川崎病にかかりやすい遺伝子が存在するのではないかと推測され、研究が進められています。
また、川崎病は一度かかっても再発することがあります。再発の確率は2~3%と高くはありませんが、はしかや風疹などの抗体によって感染を防げる病とは違い、一度かかったら二度とかからないというわけではありませんので注意が必要です。
冠動脈とは、心臓に血液を運ぶ大きな血管です。この冠動脈が川崎病によって血管炎を起こし、血管の壁が破壊されてしまうと、その部分が拡大して瘤となってしまい、冠動脈障害という後遺症になることがあります。冠動脈障害で怖いのは、冠動脈障害のためにこの動脈が詰まってしまい、心筋梗塞が起こるリスクがあることです。
心筋梗塞の多くは動脈硬化による生活習慣病あるため、成人をすぎてからかかることが多いのですが、川崎病にかかった子供が後遺症である冠動脈障害から心筋梗塞を発症することもあるのです。
心臓は、全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。ですから、心臓そのものを動かすために、心臓に酸素や養分を運ぶための血液も必要です。その血液を運ぶ血管は冠動脈と呼ばれ、血管の壁は内膜・中膜・外膜の3層からできています。このうち、内膜には「血管内皮細胞」という細胞が並んでいて、必要な成分を血液から取り込むほか、細菌などの異物から臓器を保護し、血栓を防ぐ働きもあります。
血管内皮細胞が川崎病による血管炎で破壊されると、流れる血液の血圧に耐えられなくなり、一部が膨らんで膨張し、瘤のような形になってしまいます。これを冠動脈瘤と言います。また、冠動脈瘤ができていると血栓ができやすくなり、血管に詰まると心臓に十分な血液を送ることができなくなるため、心臓の筋肉が障害を受けて心筋梗塞になる可能性があります。
川崎病で大きな冠動脈瘤ができた場合、後遺症として残ることが多いのですが、発症から1~2週間の急性期で治療する方法が進歩してきたことで、後遺症として冠動脈瘤が残る確率はだんだん減っています。
冠動脈瘤を防ぐためには、発症から1~2週間の急性期に起こる強い炎症反応をできるだけ早く抑え、冠動脈瘤ができないようにすることが大切です。急性期に炎症がひどかったり、発熱が10日以上続くと、冠動脈瘤ができやすくなることも知られています。急性期の治療には、主に「アスピリン」「免疫グロブリン」の2種類の製剤を使います。
川崎病の治療でもっとも多く使われるのは、免疫グロブリン療法です。日本では約90%以上の患者さんで使用されていて、アスピリン療法単独よりも冠動脈瘤ができる頻度を少なくすることがわかっています。ただし、軽症の場合はアスピリン療法のみで済むこともあり、どちらの薬剤を使うかは疾患の状態によって医師が判断することになります。
免疫グロブリン療法は、免疫グロブリン製剤を1~2日かけて投与します。免疫グロブリン療法を行っても効果が得られない患者さんには、免疫グロブリン製剤を追加で投与する場合、その他のステロイド薬や抗TNF-α薬などを使う場合、血漿交換療法を行う場合などがあります。
川崎病の治療後は、後遺症である冠動脈瘤が残るかどうかで対処の方法が変わります。冠動脈瘤が残らなかった場合は、日常生活で気をつけることや、運動制限などは特にありません。ただし、急性期の症状がなくなった後もアスピリンなどの血液を固まりにくくする薬剤を1~3カ月後くらいまで服用することが必要です。
また、発症1カ月、3カ月、6カ月、1年、5年後などを目安に診察を受け、冠動脈瘤ができていないかの検査を行うと良いでしょう。疾患の状態によっては、1年に1回程度は診察を受けたほうが良い場合もありますので、医師とよく相談しましょう。また、状態によっては心電図・心エコー検査・胸部X線などの検査を受けることが望ましいとされます。
冠動脈瘤が残った場合、心筋梗塞に発展しないよう予防が必要です。心筋梗塞は前触れがなく、突如として発症するため、特に予防が重要となる疾患です。アスピリンやチクロピジンなどの血を固まりにくくする薬剤を継続して服用することが必要となります。また、生活と治療の両面から管理しなくてはなりませんので、医師の指導を受ける必要があります。
川崎病は、血管に炎症を起こす疾患です。このとき、発症初期の急性期に強い炎症が起こったり、発熱が10日以上続く場合は血管の炎症から血管の壁が破壊され、冠動脈瘤が残りやすいことがわかっています。
冠動脈瘤が残った場合、心筋梗塞に進行するリスクが高くなります。心筋梗塞は生命を脅かす疾患ですから、冠動脈瘤が残った場合は特に経過観察を怠らず、定期的な検査や抗凝固剤の服用を行いましょう。