血栓は命に関わることも!?下肢静脈瘤と深部静脈血栓症の違いとは?

2018/12/25 記事改定日: 2020/9/15
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞などで「血栓」という言葉をよく聞きますよね。エコノミー症候群という病気でも血栓が関係しているといわれています。この血栓はなぜできるのか、どんなリスクを持っているのかをわかりやすく解説していきます。

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血栓はなぜできる?動脈硬化との関係は?

血栓は、血管内で血液が凝固したときにできる塊のことです。健康な人であれば、血液は体内をスムーズに流れていくため、血栓が形成されることはありません。しかし、血管壁や血流に異常があったり、血液の凝固を抑制する因子が欠乏していたりすると、血栓ができるようになります。

そもそも血栓は、血管が傷ついて出血している状態を「止血」する役割を担う重要な物質です。この止血には、「一次止血」と「二次止血」の2段階があります。

一次止血と二次止血

血管の損傷部に血小板がくっつき、血小板同士が集合体となって「血栓」をつくり、傷をふさぎます。そして二次止血では、血中の凝固因子という物質が作用し、血栓を強固にする「フィブリン」という糊のようなものをつくります。このフィブリンが血栓と絡まり、血がより強く固まることで出血が止まるようになるのです。

そして、この血栓の形成の主要因のひとつが、「動脈硬化」です。動脈硬化とは、加齢や肥満、喫煙、脂質異常症、高血圧、糖尿病といった原因で、動脈の壁が厚くなったり硬くなったりした状態です。

健康な状態の血管は、内側が内皮で覆われているので血栓ができることはありません。しかし、動脈硬化は血管壁にコレステロールなどの脂質が蓄積し、「プラーク」というコブができた状態であり、このプラークが破れたところに血栓がつくられるようになります。

血栓が脳や心臓に飛ぶと危険な理由

血栓が血管に詰まったり、血流を悪化させたりする病態を「血栓症」といいます。この血栓が脳まで流れ、脳動脈に詰まると「脳梗塞」、心臓の動脈につまると「心筋梗塞」を引き起こすようになります。

脳梗塞とは

脳梗塞とは、脳や脳につながる首の血管が詰まることで脳の一部分の血流がストップする病気のことです。血流がストップした部位の神経細胞がダメージを受けることで様々な神経障害が引き起こされます。

現れる症状はダメージを受けた部位や範囲によって大きく異なります。軽度の場合ではほとんど症状がでないこともありますが、軽度な脳梗塞でも繰り返すと「脳血管性認知症」を発症するリスクが高くなります。

また、広い範囲にダメージが及ぶと四肢麻痺、手足のしびれ、言語障害、視覚障害などの症状が引き起こされ、場合によっては寝たきり状態になるケースもあります。さらに、脳が腫れることで脳が頭蓋骨に圧迫され吐き気や頭痛などを引き起こし、呼吸などを司る延髄に障害が加わると命を落とす危険もあります。

心筋梗塞とは

心筋梗塞とは、心臓の筋肉に血液を送る「冠動脈」が閉塞することによって、心臓の機能が低下する病気です。血流がストップしてダメージを受けた心筋は壊死するため、放置すると死に至る危険があります。
また、早急に治療を行ったとしても低下した心臓の機能は完全に元の状態に戻ることはないため運動制限など日常生活に支障を来すようになることもあります。

下肢静脈瘤と深部静脈血栓症の違いとは?

「足に静脈瘤があると、血栓が脳や心臓に飛んで脳梗塞や心筋梗塞を起こす」という情報がありますが、これは不正確です。恐らく、下肢静脈瘤と「深部静脈血栓症」を混同したものでしょう。

深部静脈血栓症とは

足の静脈に血栓(深部静脈血栓)ができる病気です。この深部静脈血栓が肺に移動し、肺動脈を詰まらせる「肺塞栓症」になると、胸の痛みや呼吸困難などを引き起こし、命に関わる場合があります。一般的には「エコノミークラス症候群」として知られている症状です。

下肢静脈瘤とは

足の静脈の弁が壊れたことによって静脈に血液が溜まり、血管がコブのように膨れてしまう良性の病気です。この静脈瘤は皮膚のすぐ下の「表在静脈」に形成されるものですが、肺塞栓症の原因のほとんどは「深部静脈」の血栓であり、下肢静脈瘤から出た血栓が肺動脈を詰まらせるというケースは非常にまれです。

足にできた血栓が心臓や脳をつまらせるわけじゃない?

静脈は足から心臓へと流れていますが、心臓は大きな袋になっているので、足でできた血栓が心臓に詰まって心筋梗塞を起こす、ということはありません。脳梗塞を起こすこともありません。ただ、静脈の血流は心臓を出た後で肺に向かうので、肺塞栓のリスクなら起こり得ます。

おわりに:脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓など命に関わる恐れのある血栓。早めの対策を

血栓は、健康な人の血管内にはできるものではありません。しかし生活習慣病等で動脈硬化が進行している人などは、血管が傷ついているので血栓が形成されやすくなっています。脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓など命に関わる病気につながりますので、血栓ができないように対策をしておきましょう。

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