記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
お正月の食べ物といえば、やっぱり「お餅」。お雑煮に入れたり、鏡開きの日に鏡餅を割って食べたりと、何かとお餅を食べる機会が増えるシーズンです。
ただ一方で毎年必ずニュースになるのが、お餅による窒息事故。特に高齢者のいるご家庭では、決して他人事ではありません。いざというときのために、お餅が喉に詰まってしまったときの適切な対処法を知っておきましょう。
毎年お正月になると、お餅による窒息事故のニュースが報じられますが、実際お餅などで窒息して救急搬送される人数が最も多いのは毎年「1月」です。
東京消防庁の調べによれば、過去5年間(平成25~29年)の月別の救急搬送人数(東京都内)を比較した結果、最も多いのは1月で199人、12月で69人、2月で47人と、群を抜いて1月が多かったそうです。これにはお雑煮や磯辺焼きなど、お正月シーズンならではのお餅料理が関連していると考えられます。
また、東京都では過去5年間のうち、521人もの人がお餅や団子を喉に詰まらせて緊急搬送されたのですが、うち90%を占めるのが65歳以上の人です。これは加齢によって舌や喉の筋力、咳込む反応が弱まり、嚥下機能(ものを飲み込む力)が衰えたことが原因で、高齢者であればあるほど嚥下機能は弱っています。
お餅のさらに恐ろしい点が、死亡リスクが高いということです。平成29年度、お餅による窒息事故で病院に運ばれた人の約70%は中等度(生命の危険はないが、入院を要する)以上の状態でした。
さらに、うち8.5%は重症(生命の危機が強い)、39.4%は重篤(生命の危機が切迫している)、12.8%は初診時に死亡が確認されたそうです。つまり、お餅が喉に詰まってしまった時点で、死亡リスクはかなり高いということになります。
お餅が喉に詰まるリスクが特に高いのは65歳以上の人ですが、中年世代や若い人、子供でも同じリスクはあります。死亡リスクが高く一刻を争う事態なので、冷静に適切な対処ができるようにしておきましょう。
チョークサインとは、自分の喉を親指と人差し指で掴むという、窒息を起こしているサインです。このほかにも声が出ていない、顔色が真っ青になったなど、窒息が疑われる場合はすぐに119番通報をしてください。
喉に詰まった直後、呼びかけたときに反応があれば、できる限り咳込むように伝えてください。そして下記の「ハイムリック法」を、ハイムリック法で効果が出なければ「背部叩打法(はいぶこうだほう)」を実施してください。
※「反応がない場合」「乳児や新生児、1歳未満の子供」「妊婦」には、絶対に実施しないでください。
ハイムリック法の実施が難しい、あるいは効果が出ない場合に実施してみてください。1歳未満の子供や妊婦にも実施可能な方法です。
呼びかけても反応がないようなら、救急車が到着するまでの間にAEDを取りに行き、心肺蘇生を開始してください。心肺蘇生のやり方については、日本医師会のページを参考にしてください。
まず、お餅などの異物を探すために、口の中に指を突っ込むのはやめてください。患者さんの意識があるときにやると噛まれてケガをしたり、または異物をさらに奥に押し込んでしまう恐れがあります(異物がしっかり見えており、容易に取り出せそうであれば、除去してもかまいません)。
また、掃除機のノズルを口に突っ込んでお餅を吸引するのは、衛生的に汚いので最後の手段にしてください。さらに、ノズルを喉まで入れてから電源をオンにしないと、誤って舌を吸引してしまうことになります。
【 公益社団法人 鹿児島県医師会 の情報をもとに編集して作成 】
毎年後を絶たない、お餅による窒息事故。ニュースで見る分には他人事のように思ってしまいますが、特に65歳以上の人がいるご家庭では、いつ起きてもおかしくない事故でもあります。
窒息の時間によっては脳死、死亡してしまうことも少なくないので、対処法を知っておくことはもちろん、「お餅はなるべく小さく切っておく」「噛み砕き、唾液と混ぜてから飲み込むようにする」「横になった状態で食べない」といったできる対策をしっかり取るようにしましょう。